【第30回医療情報学連合大会】病院情報システムは仮想化できるか―福井大学、成育医療研究センター

会場となったアクトシティ

 第30回医療情報学連合大会が、11月19日(金)から21日(日)までアクトシティ浜松(静岡県浜松市)で開催された。大会テーマは、「連携と協調が創る、新たな医療−未来に向けたシステム基盤を考える−」。この大テーマに沿って数々の講演が行われたが、大きな注目を浴びたのは病院情報システムへの仮想化技術の適用である。

 福井大学医学部医療情報部准教授の山下芳範氏は、電子カルテシステムのクライアント端末を仮想化環境で利用していることを紹介。また、国立成育医療研究センター医療情報室長の山野辺裕二氏は、デスクトップ仮想化により電子カルテ端末で安全なインターネット接続を実現していることを述べた。

●クライアント端末の運用管理コスト削減が可能

福井大学の山下芳範氏

 福井大学の山下氏は、病院情報システムに仮想化技術を利用する背景として、システム全体の運用管理の効率化、コスト削減が求められるようになっていること、同時にシステムの可用性向上が大きな目的だと述べた。福井大学では、福井大学では、電子カルテシステムと部門システムのサーバー全体と、電子カルテ端末の仮想化を進めている。

 福井大学では2007年から、サーバーや端末、アプリケーションなどを含めたコンピューターリソースを効率的に管理して有効活用することを狙って、仮想化技術に関する試行や評価を実施してきた。電子カルテ端末を仮想化するメリットとして山下氏は、「電子カルテアプリケーションが複雑化してくると、端末のリソース不足が顕在化してくる。端末の仮想化ではサーバー側でリソースを柔軟に変更することによって、長期にわたって利用者の満足度を維持することができ、運用管理コスト削減が可能になる。その1つの手法として仮想化環境で電子カルテ端末のシンクライアント化がある」という。(注)

 一方、各部門の端末などでは端末側でのリソースも必要であるため、従来通りのクライアントPCも必要になる。「そうした要求にも仮想化環境は柔軟に対応でき、さらにiPadやスマートフォンなどさまざまなデバイスの利用にも容易に対応できる」(山下氏)と指摘した。

 また、電子カルテ端末の仮想化環境構築では、1台のサーバーで何台の電子カルテ端末を運用するのが適切か、詳細なシミュレーション・評価を実施することが重要として、その評価結果を公表した。それによると、「1台当たりのリソースの最大予測値として、CPUが平均26%、メモリーが最大800MBとなった。このうちアプリケーション部分のリソース消費は、CPUが平均18%、メモリーが最大480MBであった。1台のサーバーで37台の端末を稼動させてみたが、運用の安全率を考慮しても40台、あるいは50台の運用も可能」(山下氏)という。同大学では、端末1台あたりの運用管理費用の30%削減を見込んでいる。

 最後に、大きな課題として、病院情報システムのアプリケーションが仮想化をまったく考慮していないことを指摘。「ベンダーを強力に説得しないと、仮想化への対応を進めてくれないことが大きな課題だ。互いに協力しながら、実証や評価を進めることが重要」(山下氏)と述べた。

●デスクトップ仮想化で安全なインターネット接続を実現

 成育医療研究センターの山野辺氏は、電子カルテ端末でメールやグループウエアの利用、インターネット接続を安全に行う方法として、デスクトップの仮想化の有効性を示した。

 病院情報システムの多くは、電子カルテシステムのネットワークおよび端末とインターネット接続環境を有するネットワーク、端末は切り離して構築・運用している。「HIS(病院情報システム)とグループウエアやメールなど基盤情報システムを分離すれば安全ではあるが、利用者の利便性は低下する。2008年のシステム更新の際に、両システムの分離を提案するベンダーとの折衷案としてHIS端末上で仮想デスクトップを介して、仮想的に基盤情報システムを利用する外部接続環境を構築した」(山野辺氏)と紹介した。

 構築・運用しているシステムは、病院情報システム側にCitrix Presentation Serverを導入。HIS端末のうち200台に仮想デスクトップを提供し、HISアプリケーションと論理的に分離した形で安全なインターネット接続を実現した。

 一方、情報基盤システム側ではVMwareによる電子カルテ用仮想端末を運用し、21台の端末から電子カルテにアクセスできる環境を構築している。「2008年当時の技術で構築したもので、利便性と安全性を両立させたものの、仮想デスクトップのライセンス料などが膨らみTCO削減には至っていない」(山野辺氏)。

 実は、1時間ごとの端末利用状況を調査したところ、900台の端末があるにもかかわらず最大で1時間350台の利用にとどまっていることが判明。山野辺氏は「端末ごとにライセンス料金が必要な契約なので、毎日使っても月1回の利用でも料金は同じ。剖検室、紙文書・旧病院カルテ保管庫など、利用頻度の低い端末の設置を見直すことで、コストダウンと管理性の向上につなげたい」と語った。なお今後は、サーバーベースで運用するデスクトップ仮想化インフラを指向していくという。

(増田克善=日経メディカルオンライン委嘱ライター)


注:この事例に関しては、日本IBMが「福井大学医学部附属病院の新総合医療システム構築を開始」というプレスリリースを11月9日に発行している。それによると、構築作業開始は今年10月でサービスインは2011年4月の予定。現在32台のサーバーで個々に運用されている電子カルテシステム・周辺システムを仮想化技術で集約すると同時に、電子カルテシステム用端末をデスクトップ・クラウド環境へ移行してシンクライアント化。すべてのサーバーを計13台のブレードサーバーに統合する、となっている。

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