医療ITはデータベースによる情報の二次活用のフェーズに――平成22年度医療IT推進協議会シンポジウム

抽出・分析ツールを使った医療データの二次活用について講演する浜松医科大学医学部附属病院の小林利彦氏

 医療IT推進協議会(会長:田中 博・東京医科歯科大学情報医科学センター長)は、10月22日に東京都内でシンポジウムを開催した。今年度は「国民のための保健医療情報システムの構築に向けて〜医療ITの推進から医療DBの活用へ」と題して、電子化された医療情報データベースの活用をテーマに講演・討論が行われた。

 基調講演では、浜松医科大学医学部附属病院の小林利彦副病院長が医療情報の各種データベースによる情報の二次活用法について講演した。「病院内はデータの宝庫だ。しかし現状では、事務職員がさまざまなデータを手作業でかき集め、各種報告書を作成している情けない状態にある。本来、データはインフォメーションに変換し、さらにナレッジ化して組織の財産とすべきもの。だが、このプロセスが多くの病院で欠如している」。講演の冒頭小林氏は、医療情報の活用の実態についてこう述べた。

 一方、病院情報システム(HIS)はデータ蓄積に関する仕様がベンダーに握られているために、ユーザー側で二次活用する際に非常に扱いにくい状態にあるとも指摘。そこで、浜松医科大学病院では、DPCデータあるいは静岡県版電子カルテのためのSS-MIXデータをソースとし、二次活用ソフトを使ってさまざまなデータ分析を実施している。

●計画的な病院間の機能分化に向けたデータの二次活用

 DPCデータ(様式1、Eファイル、Fファイル)を利用した分析では、SaaS形式で提供されているDPCデータ分析システム「Girasol」(ヒラソル)を活用して、診療統計的な指標や臨床プロセス指標、アウトカム指標などの分析を行っている。例えば、臨床プロセス指標として、急性心筋梗塞患者に対するアスピリン投与率、人工関節置換の24時間以内抗生剤投与中止率などは、分母・分子を何にするかというロジックさえ作れば容易に分析できるという。

 また、DPCデータに院内の情報をリンクさせて分析すれば、冠動脈大動脈バイパス移植術患者の平均手術時間とΔDPCの相関分析なども可能になる。「手術時間が長くなるとトラブル発生率も高くなり、その結果術後の合併症が増える。それを防ぐために、治療治験が必要になり、結果的にΔDPCがマイナスになる。こうした傾向が視覚的に把握できることに、大きな意味がある」と小林氏は強調した。

 DPCデータには、2010年度から患者の住所の郵便番号を加えるようになったが、同院では昨年度からすでに郵便番号を付加している。そのデータを利用してGoogleマップに患者数をマッピングすると、疾病別医療圏や他の中核病院のデータを加えた診療科別、治療別の各医療施設の特色分析などの視覚化も容易になる。例えば、同院の医療圏は半径5キロ、車で30分以内ということがわかる。疾病別に見ると、脳卒中や心筋梗塞患者は近隣に集中しており、眼科などの診療科は遠く隣県からの患者を呼び寄せていることが明確になる。

 「遠方から患者さんが訪れることには理由がある。当院には優秀な眼科医がいるため、滋賀県などから来院している患者がいる。こうした自院の特色や強い診療科が何であるかなど、職員は案外意識していない。従って、これらを視覚化することは重要で、強い診療科を維持するための施策をどうすべきかなどの方策も見えてくる」(小林氏)とデータ分析の重要性を指摘する。また、がん患者で見ると、同院を含めた主要4病院に集まる患者は高度な治療を必要する場合や特殊ながんであるケースが多い。詳しく分析することによって、どの病院がどのようながん治療に強いかなども見えてくるという。

 小林氏は、「疾病や診療科の専門性や緊急性などを軸に分析していくと、病院の機能分担・役割をはっきりさせることができる。それぞれの地域・医療圏でどの専門医療がどの程度必要なのか、病院間の機能分化は計画的であるかという検討材料になるし、医師の偏在の解消にも役立てられる。一方、患者側も主要4病院なら同じ治療をしてくれるものと誤解している。できる治療・できない治療を明確にして、地域住民への広報活動にも注力すべきだ」と主張する。

●医師の負担軽減に寄与する検索ツールを活用した副作用チェック

 続いて小林氏は、SS-MIXデータをソースとしたデータ分析では、臨床研究DBシステム「D☆D」(ディー・スター・ディー、NTTデータ東海)を活用した医薬品の副作用チェックについて紹介した。同システムは、院内で実施した検査の数値やオーダー情報などがデータベースに蓄積されていれば、院内どこでもWebブラウザを用いて高速なデータ検索が可能という。バッチ処理も可能で、例えば抗がん剤治療の実施において処方から1週間以内に白血球が2000を切ったらメールで通知する、といったロジックも組むことができる。

 医薬品は、治験段階で副作用のチェックが行われるが、副作用の頻度が1%に満たないようなものは表出しないケースがある。最近はリスクの高い医薬品は承認後、市販された後でも副作用に関して全数報告することになった。この自主報告では、医師が副作用に気付かないケースもあり、徹底されているとは言い難いという。

「こうした自主報告において、検査成績などある程度定型化できるものは、副作用と見られるケースを自動的に抽出するレポートシステムを作っておくことが可能。これを利用することで、医師の負担を軽減できる。当院ではSS-MIXのデータとリンクした抽出・分析する仕組みがいくつか運用されている」(小林氏)。

 その一例として、電子診療情報等の安全対策への活用に関する検討会に基づいて、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の依頼による医薬品の安全性に関する試行調査を挙げた。電子診療情報等の安全対策への活用に関する検討会では、薬害C型肝炎の判決後、副作用情報の入手方法を改善するためにレセプトデータやHISの活用を模索している。PMDAは、本年度SS-MIX標準化ストレージを導入している静岡県の5病院を対象に、試行調査を依頼したもの。その副作用情報の抽出にD☆Dを活用しているという。

 この試行調査委に加えて同院では、高脂血症薬の投与後のCPK(クレアチンフォスフォキナーゼ)の上昇チェックなどにも活用している。「ツールによる検索・抽出の後に、その精度を上げるために専門的な知識を持った人による診療録の内容チェックが必要になるが、適切なロジックを構築しておけば、スクリーニングには便利なツールである」と述べた。

●データの二次活用は必須、アウトソーシング活用が現実的

 最後に小林氏は、「医療におけるIT化はゴールではない。データの二次活用ができないシステムは医療者に支持されない」と指摘。一方で、「病院内の全情報をDWH化して院内で活用できる組織や人材が望まれるものの、そうした機能を備えた医療機関はごく一部。各種ソフトやアウトソーシングを有効活用することが現実的で、そこをマネジメントできる病院が生き残れるのではないか」と結んだ。

 シンポジウムではこのほか、豊田建氏(医療IT推進協議会理事)による「医療ITの推進から医療DBの活用へ」、山本隆一氏(東京大学大学院情報学環准教授)による「電子化された医療情報データベースの活用による医薬品等の安全・安心に関する提言」と題した講演や、田中博氏や山本隆一氏、遠藤明氏(医療情報システム開発センター)、富田茂氏(保健医療福祉情報システム工業会)などをパネリストに迎えた「国民のための保健医療情報システムの構築に向けて」というパネルディスカッションが行われた。

(増田克善=日経メディカルオンライン委嘱ライター)

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