【国際モダンホスピタルショウ2010】これからの医療IT化と病院情報システムの姿を探る――国立成育医療研究センター、帝京大学

 「医療へのIT適用が始まって数十年も経つが、他の産業に比べてITが役立っているように見えない。その理由は、これまで取り組んできたIT化がカルテを電子化しようというものだからだ。コンピュータが得意とする分野は大規模データを処理することにあるにもかかわらず、カルテ情報という人間が処理できるデータ量しか扱われていない。これは、コンピュータの人間を超える能力を発揮できる環境ではない」。澤氏は医療ITの現状をこう指摘し、コンピュータが本来持つ能力を発揮するためには人間が処理不可能な大規模データが必要であり、そのためにはデータからパターンを認識(抽出)し、そのパターンを基にしたルールによって自動化することがコンピュータを有効活用するステップだと述べた。
 

「医療情報システム刷新の要諦」をテーマに講演した帝京大学の本部情報システム部部長 澤智博氏

 こうしたコンピュータの特性を踏まえた上で、これからの病院情報システムは効率よく大規模なデータを生成できるシステムアーキテクチャを採用し、医師の思考や行動過程に沿った電子化がなされるべきだと強調する。

 医師の診療行為は患者に対して、「観察→異常の発見→意志決定・計画立案→アクション(検査や治療行為)→(治療行為の)再評価」というサイクルを繰り返している。このサイクルの内容を電子化したものが電子カルテであり、特にコンピュータの機能を生かす部分は大規模なデータを基にした意志決定支援にある。オーダリング機能は、診療サイクルにおける他部門との受発注行為でしかないという。

 「日本医療情報学会が定義した電子カルテの機能は、オーダリング、診療録の記録・参照、標準的なデータベース機能を有し、電子カルテ3原則を満たしていることとなる。医師法でいうところのカルテ(診療録)の定義にはオーダリングという言葉はないのに、なぜ電子カルテとなるとオーダリング機能が出てくるのか」。澤氏はこう疑問を呈し、オーダリング機能を主体とした日本の電子カルテ製品の特異性を指摘する。

●「ベンダーの限界=病院の限界」を打破するシステム構築

 澤氏は、日本の電子カルテ製品の特異性とともに、一般的な病院情報システムの構築手法が「大手ベンダーの城下町」となっている問題点も指摘した。「電子カルテ、会計のためのオーダリング、医事会計が直結しているシステム構成は良いとしても、部門システム群の選択肢はほとんどない。ハードウェアやネットワークに至っては、すべてが“ベンダーにお任せ”で、病院が真にやりたいことを実現できていない。特に電子カルテ製品が“上位システム”、部門システム群が“下位システム”という呼び方は非常によくない」と指摘。さらに病院は「大手ベンダー城下町」の最下位に置かれ、お金を払っているだけの存在になっている、と自虐的に揶揄する。

 こうした病院情報システムの構築手法が招く弊害は、「ベンダーの限界=病院の限界」になってしまうことだという。2009年5月に新病院を開設した帝京大学病院の新病院情報システムでは、このようなベンダーの限界を病院の限界にしないということを基本姿勢とした上で、システムの上位・下位という関係を断ち切って、データやアセットのすべてにおいてガバナンスを利かせることを目的に構築した。

 具体的には、EHR(診療録機能)、POE(オーダーエントリー機能)、DSS(診療支援機能)、CDR(統合診療データベース)の4つの機能をそろえて、電子カルテ製品や各部門システムとの連携でSOA(サービス指向アーキテクチャ)を採用して構築した(詳報)。

●持続可能なヘルスケアシステムを目指して

 澤氏は、講演の最後で「ヘルシーホスピタル」「ヘルシーコミュニティ」というキーワードで、病院と患者の日常生活を一貫してケアする、持続可能なヘルスケアシステムへの取り組みも紹介した。

 従来の医療は「Reactive(反応的・対症的)」「Disease Oriented(疾病中心)」「Sporadic(断片的)」というキーワードで表現できるが、現在の医療リソースでは対応できなくなりつつある。そこで、これからは「Proactive(先行的・予見的)」「Lifestyle Oriented(生活スタイル中心)」「Continual(連続性・継続的)」で表現される、新パラダイムの医療に移行せざるを得ない。そのためには「Prediction(予測)」「Prevention(予防)」「Participation(参加)」「Personalization(個別)」の「4Ps」が重要になる。この実現に向けて期待できるのが、NPO法人「コンティニュア・ヘルスケア・アライアンス」のような、個人が利用する健康管理機器とシステムやサービスの相互連携で、パーソナルヘルスケアの進展やQOL(Quality Of Life:生活の質)向上を目指す取り組みだとした。

 例えば、慢性疾患を抱える患者が病院にかかる場合、「観察」→「異常の発見」という診療プロセスにおいて、患者自身がコンティニュア準拠の健康管理機器によって収集したデータを「観察」フェーズでのデータ解析に利用できる。そして、「異常発見」フェーズでトレンド検知した事柄を患者の生活スタイル修正に生かすことが可能になり、予防的健康管理の新たなサイクルを生み出すことができる。

 また、コンティニュア規格による相互通信機能を病院情報システムへの「ラストワンマイルソリューション」として活用できるとして、現在実施中の病棟でのバイタル情報を病院情報システムに自動的に取り込む実証実験について触れた(詳細記事はこちら )。

(増田克善=日経メディカルオンライン委嘱ライター)


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