音声とネットワークで医療現場を大改革

近藤邦昭のインターネット奮闘日記

 この連載のタイトルは「インターネット奮闘記」ですが、今回はちょっとインターネットから離れてインターネット・プロトコルを活用したネットワークのお話をします。舞台となるのは医療現場。音声とネットワークを活用して、看護医療を円滑に進めるというのがテーマです。

 私の会社では、SPEEDというシステムを扱っています。異常などを発見したときに、自動音声で電話をかけてお知らせするというしくみです。元々はネットワークのルーターやサーバーなどを監視し、その結果を通知するためのものでした。それが、思わぬところから活用の幅が広がりました。

●人不足で生じる看護医療の問題

 ちょうど2年ほど前になりますが、秋田産業技術総合研究センターの方々と意見交換をする場がありました。その際に医療現場での問題点とITの活用方法が話題に上りました。

 専門家の方々は承知のことだと思いますが、地方での看護師・医師の不足は深刻な問題となっています。深夜だとナースセンターに当直の看護師を1人しか確保できない病院が多いようです。

 ナースセンターはナースコールが集まる場所であり、患者さんにつけられた様々なセンサー類の結果が集まる場所でもあります。通常であれば、センサーやナースコールなどに応答して看護師の方々が看護にあたるわけです。ところが看護師が1人しかいない場合、看護師がナースセンターを離れて看護をすればナースセンターで鳴り響く異常に気付きません。

 医師不足による問題には、例えば次のようなものがあります。昼夜を問わず患者さんを診る必要があるため、看護・医療の記録は勤務明けにまとめてカルテに記録することになります。すると、記憶に頼って記録をつけることになってしまいがちです。

 このようなことは今に始まったことではなく、相当前から問題になっています。この問題を解消するために、ナースセンターで検知した情報を院内PHSを経由して知らせるというしくみなどが、すでに現場に導入されているようです。

 こうしたITの活用は多くの場面で研究され、実装されてきています。ただし、総合的に取り扱う環境がなく、機能単位で導入されています。一方で、どうしてもITリテラシの問題が出てきてしまいます。ITを活用するとなると、中核をコンピュータで構築することになり、それらを操作するスキルが必要になるからです。

 そんなときに、ちょうど我々が取り扱うSPEEDが目に留まったようです。SPEEDを活用したら、「音声主導型の看護医療の支援システム」を構築できるのではないかという話になったのです。

●走り出す音声主導のシステム

 「音声主導型の看護医療の支援システム」を構築するプロジェクトは、秋田産業技術総合研究センターを中心に走り始めました。

 まずは医療現場の意見を十分に把握する必要があります。そこで、秋田県内で医工連携を進めている秋田県学術国際部医工連携プロジェクトチームのアドバイスで、秋田大学医学部附属病院 医療情報部の近藤教授らにヒアリングをしました。そこで伺った意見を参考に、「どのようなセンサーが必要なのか」、「システムとしてどのような支援が可能なのか」を議論しました。

 今回のプロジェクトで一番の核となるのが、患者さんの状態を的確に把握するセンサーです。そこで、秋田県内でセンサーの製造を手掛けるアクトラスという会社に協力を依頼し、センサー類の開発をお願いすることにしました。

 開発に当たってはそれなりの費用が必要となるため、総務省の戦略的情報通信研究開発推進制度(SCOPE)を活用しました。こうして「音声主導型医療看護システム」が出来上がりました(下図)。

図●音声主導型医療看護システム

センサーと自動音声通知システムである「SPEED」などを組み合わせて構築した。センサーが検知した異常を電話で看護師に知らせたり、看護記録を音声で記録したりするといった機能がある。

 


 しくみは比較的単純ですが、個々の技術をうまく組み合わせて連動させることに価値があります。主な機能は次の三つです。


(1)センサーと連動して、異常を看護師の院内PHSへ音声で通報。看護師が出ない場合は再通知する


(2) 院内の看護師・医師が反応しない場合は待機の院外の医師などに電話で通報できる


(3)看護にあたる場合、ハンズフリー携帯電話などを利用し、看護記録をいったん音声でセンターに録音。その後、医師・看護師はその音声を確認しながらカルテなどを確実に記録する



 (1)と(2)は、携帯電話などにメールするといった通知なら従来から可能でした。それを音声で通知すること、さらに着信後に指定番号をダイアルして確実に情報を受け取ったという記録を残すことが可能になりました。ポイントは、異常に気付いた時間や看護にあたった時間なども確実に記録できることです。


中央の黒い機器が点滴センサー

中央の黒い機器が点滴センサー。点滴のチャンバ部分に取り付け、落下する薬液を検知して滴数をカウントする。

 プロジェクトは今年で2年目となり、秋田大学医学部附属病院の実験フィールドで実用実験を行う段階に入りました。最初からすべての医療関係のセンサーと連動することはできないため、いくつかのセンサーに絞って実験を進めています。

 その中の一つに「点滴センサー」があります。点滴センサーの元々の目的は、点滴の間隔を見ることで点滴の終了を検知したり、異常を検知したりすることでした。プロジェクトを進めていくと、この点滴センサーに予想外のメリットがあることがわかりました。

 私もプロジェクトにかかわってから知ったのですが、点滴の一滴の量は常に一定になっていて、滴数をカウントするとどれだけの量を注入したのかがわかるそうです。つまり、滴数をカウントすることで、患者さんごとに注入した量の管理も可能になるのです。

 現在はまだプロジェクトが進行中で、システムの構築、改善と併せてセンサーの開発も進んでいます。このプロジェクトが現場で働く皆さんの支援になればと期待しています。

●医療以外への応用も可能

 さて余談ですが、この音声主導型+センサーの組み合わせというのは意外な広がりを見せてきました。システムとしては、センサーが検知した情報からシステムが異常を発見し、それを電話で通報するというものです。

 ありがちなしくみですが、音声を活用して電話で通報することで、ITリテラシの低い方でも比較的導入が簡単という大きなメリットがあります。しかも、確実に通報を届けることが可能になります。

 このようなニーズは必ずしも医療の現場だけにあるものではありません。例えば農業の現場では、土湿(土の水分量)や日照量などもセンサーで測ります。これらの異常を通報するしくみとしても検討が進んでいます。(ITPro

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