コンティニュアは医療現場に変化をもたらすか!?

業界基準準拠の血圧計と医療用モバイルPCによる実証実験 ―― 国立成育医療センター

 家庭での健康関連機器においてICT(Information and Communication Technology)技術を有効活用し、生活習慣病予防など健康管理を行えるようにすることを目指して設立された業界団体「コンティニュア・ヘルス・アライアンス」。そのコンティニュアの設計ガイドラインに準拠した血圧計などの医療測定機器と医療用モバイルコンピュータが相互通信することによって、臨床現場ではどのような有効性を発揮できるか――。国立成育医療センターではコンティニュア規格に準拠した電子血圧計と、インテルが提唱するモバイル・クリニカル・アシスタント(MCA)端末を用いて、その実証実験を行っている。同規格が実際の医療現場にどのような変化をもたらすか、また将来的な可能性について、同センター医療情報室長の山野辺裕二氏に聞いた。




●臨床研究データの取得に有意義


国立成育医療センター医療情報室長、医学博士・診療情報管理士の山野辺裕二氏

国立成育医療センター医療情報室長、医学博士・診療情報管理士の山野辺裕二氏

 国立成育医療センターは、日本で5カ所目の国立高度専門医療センター(ナショナルセンター)として開設された。成育領域の高度専門病院で、受精・胎児から小児、思春期を経て出産・育児に至るまでのリプロダクション・サイクルを対象とした総合的かつ継続的医療を目指している。主に子供を対象とした病院であるとともに、ハイリスクの妊産婦の出産および新生児医療を中心に高度な医療機能を提供している。特に近年の分娩については、年間1000件の見込みを大幅に上回る約1500件に達しており、経営面での貢献度も大きい。その背景には、無痛分娩を望む妊産婦が増えていること、産科医や新生児の医師、無痛分娩時の麻酔科医など専門医チームによる手厚い医療が受けられることが挙げられる。


 今回の実証実験は、こうした妊産婦を対象にして、コンティニュア設計ガイドライン(*1)第一版に準拠した電子血圧計(エー・アンド・デイ製)と、インテルのモバイル・クリニカル・アシスタント(MCA*2)を基盤にしたタブレット型モバイルパソコン「TOUGHBOOK(タフブック)CF-H1」(パナソニック製、以下CF-H1)を使って、臨床現場でどのような利活用が可能かを探るもの。


 「妊娠高血圧症候群など妊産婦にとって、血圧の変化は重要な要素であり、血圧値をMCAなどを介して簡単に診療記録に取り込む仕組みは看護師の業務効率性の観点でそれなりの有効性はあると感じます。一方で、それ以上に興味深く思ったのは、血圧に関係する薬の治験など臨床研究に際して非常に有意義なデータ収集が可能になるという点です」。医療情報室長の山野辺裕二氏は、コンティニュア規格の可能性をこう指摘する。


●測定時間やデバイスのユニーク性が明確になる

 実証実験に用いたエー・アンド・デイの電子血圧計(UA-767PBT-C)は、無線通信機能であるBluetoothモジュールを内蔵し、血圧測定値(最高血圧、最低血圧、平均血圧)、脈拍数のほか、測定時間、血圧計のシリアルナンバーなどをMCA側(CF-H1)にインストールしたソフトウェアに転送し、データ受信時間とそれらの値を表示する。山野辺氏が臨床研究のデータ収集として非常に有効だと指摘するのは、測定時間、血圧計のデバイスタイプやシリアルナンバーも転送してデータに加えられるからだという。

血圧測定値や脈拍数だけでなく、測定時間や血圧計のシリアルナンバーなども転送可能

血圧測定値や脈拍数だけでなく、測定時間や血圧計のシリアルナンバーなども転送可能

 「降圧剤なども同様だと思いますが、治験で臨床データを取る際には、測定した血圧値がどのような機器を用いて、どんな環境で得られた数値であるか、その根拠となる厳密な付随データが求められます。例えば、水銀血圧計で測定した値か、電子血圧計で測定した値であるか、同じ血圧計を使用して得られたデータであるか、またそれらの機器の測定誤差はどの程度か、など。あるいは降圧剤使用後の測定時間も正確かどうかも示す必要があります。治験担当者に聞くと、臨床データを収集する際の血圧計は、この治験者には、この血圧計と決めて測定しており、機器の個体による誤差を排除しているといいます。そうした厳格な環境で得られたデータが根拠になっていることを明確にすることが望ましいのです。今回使用したコンティニュア準拠の血圧計は、単に血圧測定値だけでなく、計測時間や血圧計のシリアルナンバーなどもPC側に転送してくれますので、データの信頼性を示す根拠となる要素を容易に取得することができます」(山野辺氏)。

 血圧計のディスプレイに表示されるデータは、最高・最低血圧値と平均値、および脈拍数のみだが、測定時間や血圧計の固有性を示すデータが転送される仕組みはこれまでなかったもの。そういう意味で、本来はホームヘルスケアの視点で提唱された規格であるものの、臨床研究分野での利用にも有意義だと山野辺氏は強調する。

 測定時間を転送できるということは血圧計自身が時計を内蔵しているためだが、山野辺氏がもう1つ着目したのは、その内蔵時計を正確に合わせることがMCA側から可能なのではないかということだ。仮に時計を内蔵した測定デバイスに時刻合わせ機能があったとしても、病院内の全デバイスの時刻合わせを正確に行うのは非常に手間のかかる作業である。成育医療センターでは臨床工学技士がそうした作業を実施しているが、病院中の測定器を設定していくのは大きな負担だという。

 「正常だった血圧が何時何分に低下して死に至ったというような事故があったとき、その時刻と血圧値が非常に重要となります。時計を内蔵した心電図モニターなども同様ですが、時計が不正確であったために裁判などで問題になるケースもあります。そうした測定器がBluetoothに対応していけば、MCAのようなコンピュータ1つを持って、病院中の測定器の時刻合わせが簡単にできるのではないかと思います」(山野辺氏)。コンティニュアの規格とは目的が異なることだが、こうしたことが可能になれば、経営的な視点でも測定デバイスとMCAによる相互通信機能の有効性があるのではないかと指摘する。

●病棟業務でもコンティニュア+MCAは有効


 コンティニュア準拠の測定機器とMCAが臨床研究のデータ収集で有効とする山野辺氏に、病棟業務での活用メリットについてもうかがった。現在、成育医療センターでは病室の壁内にデスクトップPCとアームで固定された液晶モニターによるベッドサイド端末を設置。バイタルサインはタッチパネル式液晶モニターで入力しているほか、ディスプレイアームに取り付けられたバーコードリーダーで輸液や投薬の3点チェックを行っている。入院患者である子供たちは病室を離れていることも多く、検温や投薬の際に病室に連れ戻さなければならず、固定されたベッドサイド端末での病棟業務が課題だった。その点、可搬性に優れるMCAは、バイタルサイン入力や投薬のバーコードチェックなどの病棟業務での有効性は高い。


実証事件に使用した電子血圧計(UA-767PBT-C)と「TOUGHBOOK CF-H1」

実証事件に使用したエー・アンド・デイの電子血圧計(UA-767PBT-C)とパナソニックの医療用モバイルパソコン「TOUGHBOOK CF-H1」

 「グリップハンドで持ち運びが容易で、手のひらに固定して操作できる点もCF-H1はよくできています。バーコードセンサーが本体下部に固定されているので読み取りに慣れが必要ですが、読み取り用のボタンを本体全面とグリップハンド部分に付けるなどの工夫が見られます。多くの病院で病棟業務に無線LAN対応のノートPCを使用していますが、今後われわれの病棟でノートPCを導入する際には、CF-H1を基準とした調達をしていこうと考えています」(山野辺氏)とMCAを評価している。CF-H1は一般的な市販のノートPCと比較するとやや高価だが、ナースセンターでクレードルに装着して使用すれば、看護師のHIS端末として併用できるので、運用を工夫すればその価格も許容範囲だろうと述べる。今後の実証実験では、測定器からMCAなどに転送したデータを電子カルテシステムに取り込むためのインターフェースを開発していくという。

 現在、コンティニュア設計ガイドラインに準拠した測定機器は血圧計だけだが、ローコストであることが条件としながら体温計をはじめ、小児病棟などではパルスオキシメーターなどがコンティニュアに対応してくれば、その利用価値は高まってくると語る。また、MCA側から血圧計の時刻合わせができるような仕組みと同様に、輸液ポンプの流量・総注入量設定を、オーダー情報を取り込んだMCAから行えれば安全性も高まると期待する。「輸液ポンプなどとの相互通信が可能になり、流量設定やポンプに異常が発生した際のアラーム転送などができれば安全性の観点からも興味深い」(山野辺氏)と、コンティニュアが持つ可能性について語った。(増田 克善=日経メディカル オンライン・委嘱ライター)

*1注)コンティニュア・ヘルス・アライアンス
 医療費高騰の要因となっているライフスタイル、健康管理、人口統計学的傾向などの課題に取り組むために、インテルの提唱により2006年に設立された業界団体。ユーザーが、家庭でICT技術と各種の健康管理機器を有効に活用し、簡単に健康管理を行えるように、健康管理機器の相互接続や運用を可能にする標準規格の技術検討や設計ガイドラインの策定を推進し、コンティニュア設計ガイドラインの第一版を完成した。
 参加企業は、コンティニュア設計ガイドラインに準拠する血圧計・体重計・体組成計・歩数計などの健康管理機器や通信デバイス、およびこれらの機器で計測されるデータを基にしたヘルスケア・サービスの提供にむけて開発を進めている。


*2注)モバイル・クリカル・アシスタント(MCA)
 インテルが提唱する医療現場向けの専用モバイルPC技術。持ち運びに便利なグリップハンドルを備えたハンドヘルドPCで、ペンタッチ入力を基本として、カメラやバーコードリーダー、RFIDなどを装備するとともに、Wi-FiやBluetoothの内蔵により無線環境を最大限に活用できるプラットフォーム。また、シールドケースで防護され、簡単に消毒できるなどの特長を持つ。


【関連サイト】
インテル・ヘルスケアのWebサイト
【医療とITの関連記事】
地域医療連携も視野、家庭用機器のIT化促進に向け新・接続ガイドライン




■病院概要
名称:国立成育医療センター
所在地:東京都世田谷区大蔵2-10-1
病床数/外来定数:460床/900人
開設:2002年3月
Webサイト: http://www.ncchd.go.jp/

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