物流と医事会計をリンクしたシステム構築で職員のコスト意識を醸成

富士宮市立病院事務部長・広瀬辰造氏インタビュー

 自治体病院の約8割が赤字経営といわれている昨今、経営の効率化を軸にした経営改革が求められている。一方で、公的医療機関として不採算部門であっても社会的使命から取り組むべき医療もあり、効率化推進において取るべき方策も限られている。そうした中、静岡県の富士宮市立病院は、診療材料や医薬品物流のムダを省き、請求漏れによる損失削減に努めて経営の効率化で成果を上げている。それを支えているのが、物流と医事会計をリンクした経営支援システムだ。モダンホスピタルショウ2009のITフォーラムで「物流と医事会計をリンクした電子カルテシステム」と題した講演を行った同病院事務部長の広瀬辰造氏に、講演後、システム運用がもたらした職員のコスト意識、経営意識の変化などについて個別インタビューした。(聞き手は、増田 克善=委嘱ライター)




経営改善に向けた物流管理の見直しに取り組む

 富士宮市立病院(病床350床)は、富士山の西南麓に広がる静岡県富士宮市にあり、市を中心に周辺地域を合わせた約15万人の診療圏において、地域中核病院として2次救急医療をはじめとする急性期医療を実践し、地域医療支援病院の役割を果たしています。公立病院の約8割が赤字経営といわれる中で、当院は1999年から8年連続、医業収支で黒字経営を維持し、2006年には「自治体立優良病院総務大臣表彰」を受賞するなど、堅実な医業経営を実践していると自負しています。ただ、自治体病院の医師不足は当院にとっても深刻な問題で、1日あたり1100〜1200人の外来患者を受け入れることは非常に困難な状況にありました。そこで、2007年から外来患者の削減・入院を核とした急性期医療への転換を図りました。外来患者削減によって、同年度は赤字に転落したものの、翌年には医業収支・経常収支ともに黒字転換を果たすことができました。

モダンホスピタルショウ2009「ITフォーラム」の壇上に立つ広瀬氏

モダンホスピタルショウ2009「ITフォーラム」の壇上に立つ広瀬氏

 当院は2008年1月に、電子カルテシステム(NEC製:MegaOak HR)を稼動させましたが、その際に電子カルテシステム、医事システム、物流システムを連携させた経営支援システムを構築しました。

 自治体病院は不採算診療部門があろうと、患者サービスの低下を招くような人員削減はできません。従って、当院の医業費用の約50%を占める人件費を削減することは困難であり、約30%の年間24〜25億円を占めている診療材料、医薬品をいかに効率よく、ロスなく使うことが最大の課題でした。院長の持論に基づいて、以前から病院の物流の問題解決に取り組んでいましたが、医療行為によって発生する物品使用・医事請求にからむ情報を正確に収集・分析することで、経営改善に寄与するシステムの構築が至上命題でした。診療材料・医薬品の仕入れと実施入力、医事請求データを比較する経営支援システム構築に至ったのには、このような背景がありました。

物流・電子カルテ・医事システムの連携で請求漏れ削減をめざす

 院内物流管理の見直しに着手したのは、2001年に導入したSPD(Supply Processing & Distribution)のアウトソーシングからです。過剰在庫・不動在庫の解消、定数管理実施による安定供給を目的に、委託事業者の物流システムによる物流情報管理と物品管理、仕分・供給を行ってきました。診療現場で診療材料や医薬品が使われた場合は、「SPDカード」なるものを箱に入れ、それが仕入指示の役目をして物品が補充されます。こうした仕組みで診療部門の実施・払出管理を行い、外部SPD(調達部門)による購入・払出管理による仕入れ(支払い)と医事部門による医事請求データを突き合わせて、請求漏れの実態把握を行ってきました。

 半年に1回の頻度で開催する院長を委員長とした薬品管理会議と材料管理会議では、このレセプト請求と仕入れデータの突き合せを行うと、当初は年間数千万円もの損失が発見されました。仕入れ額と請求額の乖離(かいり)の原因は、破損や破棄によるロスのほかは、実施・投与されたものが正確に医事課に報告されないという診療現場のミス、あるいは報告されたものがレセプトに正しく記載されない医事課のミスの2つにほぼ集約できました。ところが、こうしたミスの原因を材料・医薬品ごとに手作業で突き詰めて、改善のための方策づくりを行うのには大きな負担を伴いました。

 薬品管理会議・材料管理会議での突き合せのために、まずデータをそろえる作業が大変な業務負荷でした。そもそも物流管理システムと医事システムでは、物品の管理コードが違い、仕入れと請求の単位も異なっています。それらを整理した上で、仕入れに対して請求が97%未満の物品について、現場に差し戻して再チェックをしていましたが、数カ月前の実施について調査しても詳細はわからず、結局は破損、あるいは在庫があったなどと帳尻合わせをする状況。会議は犯人捜しの様相を呈してしまい、責任回避に汲々としていたのです。

 現場では当然ながら患者の診療が最優先されるので、実施に伴う医事課への報告は後回しとなり、請求漏れが発生しやすい。診療現場のスタッフは本来の業務に誇りを持って取り組んでいるだけに、実施報告漏れを認めがたい心情があります。それでも看護師など各部門の強力により請求と仕入れの差額の縮小に成果を上げてきましたが、手作業に頼ったデータの突き合せには、業務プロセスにおけるミスを明確にすることに限界がありました。

 そこで当院は、電子カルテシステム導入を機に、実施入力情報を発生源として、物流システムと医事会計システムのデータをリンクするシステムを構築して、診療行為に伴う物品の消費と会計情報が「ひも付け」られる仕組みを作り上げました。放射線科でのカテーテル使用や手術室での診療材料は実施時にバーコード入力し、それ以外の医薬品や診療材料は、電子カルテ端末の一覧表から選択して実施入力を行い、物流システムへの補充指示と医事システムへの請求指示が行われるよう実施情報の共有を図っています。これらの情報を経営支援システムのデータベースに集約し、請求漏れ、丸め請求、破損・破棄、紛失などの分析を行い、月1回開催に変更した会議で98%を下回ったものを再チェックする体制に移行したのです。


■次項「コード体系の連携、例外処理の整理がポイント」


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