地域医療振興協会が“ヒヤリハット”予防策支援システムを稼働

 医療現場では依然として、薬剤や患者の取り違えといった重大事故が発生している。そうした中、地域医療の質的向上を目指している地域医療振興協会が2009年8月、重大事故につながりかねない「ヒヤリハット事象」(インシデント)を収集し、そこから予防策を導き出すためのシステムを稼働させた。




 地域医療振興協会が稼働させたのは、「インシデント報告分析支援システム」。同協会が運営する複数の医療施設で発生したヒヤリハット事象や事故の情報を本部で収集・分析する(図参照)。システムには、東京電力のシステム子会社、テプコシステムズが提供する「ePower/CLIP」を採用した。東電グループが、高所作業などにおける事故を防止するために、インシデント事象を収集・分析するために利用していたシステムである。

図●インシデント報告分析支援システムの画面例

図●インシデント報告分析支援システムの画面例


 医療現場の安全管理の意識は決して低くない。医療施設は通常、医療安全管理室を設置し安全対策を講じている。事故発生時はもとより、ヒヤリハット事象が発生したときには、医療従事者は、事象の具体的内容や発生の背景・要因、考えられる改善策などを報告している。

 行政も医療安全管理の推進を後押しする。「医療安全対策加算」の項目を、2006年の診療報酬改訂で設置。また、医療施設や薬局の質を第三者の立場で評価する日本医療機能評価機構の「病院機能評価」の審査項目には安全管理の項目が設けられ、常に項目の追加・具体化が進んでいる。

 しかし残念ながら、現場での重大事故はなくなっていない。2009年7月には、医薬品の取り違え事故を発端に、医薬品の類似した商品名が変更になっている。医療安全管理の仕組みはあっても、医療施設内での情報共有などにおいてはまだまだ課題が残っているからだ。

 例えば、大規模病院と小規模病院、あるいは診療所では、患者数や患者の病状が異なるため、診療行為の内容が異なり、全国一律の対策例では不十分なことがある。そもそも、安全管理が、個々の医療施設内に閉じており、外部に公開されにくい。

 これらの課題を地域医療の観点から解消しようとしたのが、地域医療振興協会であり、インシデント報告分析支援システムであるというわけだ。大規模病院と比べ、地域の小規模医院などでは、事故やヒヤリハット事象に遭遇する絶対数自体が少なくなるだけに、複数の医療施設で発生した事象を同規模の医療施設間で補完するのが目的だ。

●曜日や時間帯別などに事故の起こりやすさをみる

 インシデント報告分析支援システムの利用者となる医療従事者は、現場で発生した事象をブラウザから入力する。地域医療振興協会の佐藤幸光医療安全推進室長によれば、「事象報告が紙ベースで実施されている医療施設がまだ半数以上ある」という。紙ベースの報告では、情報の収集や、そこから傾向を見つけることが難しい。再発防止策を立案する際にも、採用した再発防止策をどう決めたのかなど、過去の履歴を追うことが難しい。

 これに対し、インシデント報告分析支援システムなら、情報を統一フォーマットで収集できる。そのため、件数を数えたり要因ごとに分けたりといった分析が容易になる。分析傾向から立案した再発防止策などの履歴も追跡できる。入力項目が定型化されているため、入力者や入力施設による情報の詳細さの差も生じない。

 収集した情報は、本部の医療安全推進室が分析し再発防止策を立案する。事象を誘発する環境要因や背景要因、傾向などを追っていく。例えば、事象が起こった曜日や時間帯、医療従事者の勤続年数などによって、事象の起こりやすさの傾向が分かると見ている。再発防止策は各医療施設にフィードバックする。

 複数の医療施設が利用することで施設をまたがった情報収集が可能になり、より多くの事象を集められるようになる。こうした複数の医療施設を仮想的なひとつの病院とみて情報を収集することにより、分析対象となる事象を増やせて傾向分析の精度を高められるようになる。

 2009年8月のシステム稼働時には、まず3施設が利用を開始した。今後は、同協会が運営する42の医療施設のうち、まずは中規模と大規模の病院を中心に参加施設を増やす。来年度からは診療所にも拡大したい考えだ。(ITPro

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