講演レポート:「オバマの医療制度改革にはIT普及が不可欠」

 日本医療情報学会医療IT政策総合研究部会は6月4日、野口英世記念会館(東京都新宿区)で、「オバマの医療IT政策と日本版EHR」をテーマに講演会を開催した。講演の冒頭では、GREGG L. MAYER & COMPANY, INC.のグレッグ・L.メイヤー氏が、「オバマ政権の医療制度改革と医療・保険業界への影響」と題した講演で約1時間にわたって熱弁をふるった。講演内容の骨子は、以下のとおり。




 2007年の米国の医療費支出は2.2兆ドルで、国民1人あたりのGDPの16%を占めている状況だ。オバマ大統領は増加の一途をたどる医療費について、医療制度改革を政策の最優先課題とし、米国経済立て直しの一策として位置づけている。その医療制度改革の最大のポイントは、「医療費削減」「医療の質向上」「全国民への医療の提供」だ。

オバマ大統領のWebサイト「Organizing for America」のトップページ

オバマ大統領のWebサイト「Organizing for America」のトップページ

 ここ数年で米国の医療保険料は賃金上昇率の4倍の早さで急速に上昇しており、高額の保険料を支払えないために「無保険者」なっている所得者層は総人口の15%を占める4600万人にも上っている。オバマ大統領が推進する医療制度改革は、全国民が既往症や病状にかかわらず医療保険に加入できるよう、公平かつ安定した料金で包括的なサービスを受けられるために、保険料の控除や保険市場の規制撤廃を打ち出している。

 オバマ大統領は3月5日(米国時間)に、医療・保険関連の業界団体、学会関係者、関連企業、学識経験者などを集めて、ブレーンストーミングを行った。その際の意見を集約し、「医療保険費の高騰と、それによる無保険者の増加に歯止めがかからない」という認識を改めたうえで、「保険者の医療保険費は家計の最大の負担であり、しかも想定外の災害時には、保険者であっても460万人(無保険者)の一人になってしまう」との危惧の念をいっそう高めた。

 6月6日からは、オバマ大統領のWebサイト「Organizing for America」(アメリカのための団結)で謳った医療制度改革の一環として全国キャンペーンを開始し、その際にオバマ大統領は『医療ITシステム関連には160億〜170億ドルの巨額投資を決めている』とし、この投資によって医療・保険関連業界の勢力地図が大きく変わり、積極的な医療IT投資が結実することで全国民の健康管理に結びつき、医療制度改革も実を結ぶだろうとしている。

 医療ITシステム普及を大きく唱える理由はいくつかある。

 まず、医療費における医療用医薬品の費用負担削減だ。そのために、個人輸入などを含めてジェネリック医薬品を普及させて、コストを抑えることを優先としている。ジェネリックの普及による医療費負担の効果計測や、ジェネリックのクオリティを検証するためには、医療ITシステムが存在しなければ実現できないとする。

 また、医療ITシステムはツールとして活用するだけでなく、さざまな医療従事者や患者に便益を図ることができる。たとえば、専門知識の共有、開業医の診断サポート、患者記録の管理、遠隔医療の実現、Webやメールを通じた有効な患者管理などだ。

 では、医療のIT化は何を生み、何を減らせるのか?

 IT化によってEBMによる患者中心の医療が行われ、治療の統合が実現し、アウトカム(治療効果)の計測ができる。かわって、検査や治療の重複を避けることができ、医療過誤の未然防止が望まれる。

 医療費の削減と医療の質向上には、医療ITの活用が強く求められており、電子カルテの普及などを後押しすることで、事務運営費の削減や医療ミスの改善が図られるとして、制度改革の重点ポイントに位置づけているといえよう。(談)

(まとめ:井関 清経)

■講師略歴=グレッグ L. メイヤー博士(Dr. Gregg L. Mayer)
・グレッグ L. メイヤー株式会社 代表取締役、日本疾病管理協会創設理事、日本健康科学会創設理事
・カリフォルニア州立大学バークレー校卒 生理学博士
・慶応大学にて日本語、経営学を学ぶ
・サンフランシスコのマッキンゼー&カンパニーにてヘルスケア分野のコンサルタントとして勤務
・ヘルスケア関連ベンチャーのVivigen, Inc., Berkeley Antibody Company, Inc.の代表を務める(Vivigen社は出生前遺伝子診断に特化。現在はジェンザイム社の一部。Berkley Antibody社は抗体作成サービスに特化。現在はジェンザイム社の一部門)
・1995年、グレッグ L. メイヤー 株式会社を創立
・以後10年以上にわたり、同社はヘルスケア分野の経営戦略コンサルティング会社として、特に日米間のパイプライン的役割を目指している
・同社の専門分野は、慢性疾患関連商品・サービス、再生医療、技術移転など

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