【基礎解説】レセプトのオンライン請求義務化

 レセプトとは、病院で診察を受けた際、患者の自己負担分以外の料金、すなわち医療保険負担分の料金を、医療機関が保険者に請求するための書類で、診療報酬明細書ともいいます(介護保険を利用した場合の保険分請求で利用されている書類も同じくレセプトと呼びますが、今回解説する「オンライン請求の義務化」の対象となっているのは「医療保険」のレセプトなので、本稿では対象外とします)。

 レセプトは1カ月単位に1患者の診療請求内容を入院・外来、医療保険別に分けてA4サイズの規定フォーマットに取りまとめたもので、診療内容によってはレセプト1件で数十枚に及ぶこともあります。全国に約9000施設ある病院、約10万施設ある診療所、約6万施設ある歯科診療所、および約5万施設ある調剤薬局で毎月末締めにて作成されるレセプトは約1億2000万件にも及びます。

 この膨大な数のレセプトは、保険種別に応じて都道府県内に一カ所ずつ設置された国民健康保険組合連合会(以降、連合会)もしくは社会保険診療報酬支払基金(以降支払基金)の事務所に提出されます。連合会および支払基金は、レセプトの審査代行と病院・保険者間の決済代行を担当しています。審査は記載不備などの単純なレベルから、申請された内容が治療上妥当かといった高度な医学的判断を要するレベルまで幅広く対応する必要があります。不備や疑義があったレセプトは医療機関に戻され、翌月以降再提出されます。審査を通ったレセプトや決済情報は、連合会および支払基金から保険者に引き渡されます。

 レセプトは現在、大部分が紙文書でやりとりされていますが、2011年度以降は、一部の例外的な医療機関を除く全国の医療機関からの請求はすべてオンラインシステム上で行うことが義務付けられています。ITを軸にしたBPR(Business Process Reengineering)を適用して業務の効率を上げ、国民医療費の適正化に寄与することが目的です。

 レセプトのオンライン請求義務化は、2006年4月10日に厚生労働省から発令された「療養の給付等に関する請求省令の一部を改正する省令の施行」を受けたものです。本年度(2007年度)は希望する一部の医療機関向けに試行的オンライン請求システムの運用が開始されており、2007年7月の支払基金への請求実績では、543施設がオンライン請求へ切り替えています。中でも、2008年度中に切り替えが義務付けられている400床以上の病院の 37.8%に上る313病院がオンライン請求に切り替えています。

 レセプトのオンライン請求化のメリットは、いわゆるEDI(Electronic Data Interchange)適用による業務改善メリットとほぼ同じで、レセプトの管理効率化・迅速化・自動化・ペーパレス化・人為的ミス排除などが期待できます。また電子的に蓄積されるレセプトデータを疫学調査に活用し、その結果を保健指導などに役立てることで、中長期的な医療費抑制効果が期待されています。

 国民健康保険の保険者である自治体にとっては、オンライン請求に対応する新システムへ切り替えが進むことで、先に挙げたメリット享受が期待できます。さらにレセプト情報単独ではなく、2008年度からスタートする特定健診の情報とあわせ活用することで、従来以上に事実の分析に基づいて一層効果的な地域保健施策を立案できる期待が高まります。レセプト情報と健診情報の活用範囲や制限については、IT戦略本部が2007年7月26日に公表した「重点計画―2007」によると、2007年度中に一定の結論を得るとされていますので、具体的な利活用範囲はその結論を待ってからとなります。

 レセプトのオンライン請求義務化は、国民/住民から直接メリットは見えにくいものの、保険者である自治体や健康保険組合が収集した診療情報を分析・活用することで、住民/患者を適切な受療行動へ導き、その結果、医療費の適正化による皆保険制度の維持や、QOL(Quality of Life)の向上につながるというポテンシャルをもつ制度です。単純な事務作業効率向上にとどまらない、新制度の活用が進むことが期待されます。

 ただし、いくつかの課題・懸念も指摘されています。レセプトのオンライン請求義務化に伴って、審査業務の効率化や経済的観点を重視した審査ルールの適用が行き過ぎ、結果として患者の状況に応じた治療が制限されるケースが増えてしまうことを懸念する医療関係者は少なくありません。また、日本医師会は小規模医療機関の対応の難しさを指摘しています。医師会が2007年8月30日に発表した「グランドデザイン2007−国民が安心できる最善の医療を目指して−」の中で、「一般的な小規模医療機関では、コンピュータの導入や操作、ネットワーク回線の利用など、多くのステップと投資を踏まなければオンライン請求は実現できない。オンライン請求が完全義務化されれば、保険診療を継続できない医療機関が出てくることが想定され、地域医療の崩壊を招く恐れがある」としています。(文・別府 洋美=日立総合計画研究所 社会・生活グループ 主任研究員)

※この解説記事は、2007年10月18日に「ITPro」にて掲載されたものです。
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

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