NEC医療セミナー:これからの地域医療連携に求められるもの

 2008年12月10日、札幌グランドホテルで「NEC医療セミナー2008 北海道」が開催された。基調講演では市立函館病院副院長の下山則彦氏が、2008年4月から本格運用を開始した道南地域医療連携ネットワークシステム「MedIka」において、同病院が中心となった地域医療連携への取り組みについて語った。次いで、MedIkaのプラットフォームである「ID-LINK」の開発を行ったエスイーシー(北海道函館市)の医療システム事業部部長・伊藤龍史氏が、開発経緯や主要な技術が紹介した。




市立函館病院副院長・地域医療連携室長の下山則彦氏

市立函館病院副院長・地域医療連携室長の下山則彦氏

●「競争から共生へ」の実現に向けた函館地区の取り組み

 函館地区の地域医療連携の中心的存在である市立函館病院の副院長・地域医療連携室長を務める下山則彦氏は、まず地域医療連携への取り組みを本格化した背景として、函館市および道南地域の医療体制における課題を指摘した。

 函館市は人口30万弱でありながら急性期病床3000床(一般病床4000床)を有し、急性期の大病院が3施設あるものの、主要な診療科がすべてそろっている病院はないのが実態。一方、同市周辺地区は大規模病院もない上、医師不足は深刻化しており、函館市内の医療機関への依存率は周辺各地域とも30〜50%で、依存度が非常に高いという。

 講演での冒頭、下山氏は「一見、函館市は医療過密地帯だが、道南地域全体としては医療過疎地域であり、特に重症患者は函館市内の急性期大病院に頼らざるを得ないのが現状。その結果、急性期を脱したが、その患者を受け入れる医療施設が患者の居住地になく、地元に帰るに帰れないというのが実態。市立函館病院も急性期でありながら、回復・療養期も診ている状態で、在院日数の短縮ができない状態が長く続いている。その上、産婦人科や内科で医師の引き上げや退職が相次いでいたため、他病院専門医との連携や回復期病院・診療所との地域医療連携は一刻も早く対応すべき問題だった」と背景を説明した。

 地域における医療連携については、医療機能を明確化し、機能を分担して連携することによって地域内で完結した医療供給体制を構築すること、そのために情報開示とIT活用の推進が厚生労働省から示されている。下山氏は医療施設から見た医療連携にかかわる課題について、「例えば急性期病院では在院日数を縮めたいが、患者には追い出されたと思われたくない、継続的な医療の連携を実現できる医療施設がほしいという考えがある。一方、紹介される側の病院や診療所は、急性期病院でどのような診療したのか、どんな集中治療(IC)をしていたのか、検査データや画像をどう判断したのかなど、患者にかかわる情報を求めている。これらは診療情報提供書だけでは、なかなかわからない。紹介される医療施設の要望に応える提供書を書くのは大変な作業だ」と述べ、必要となる生のデータを医療連携システムで提供・共有することの重要性を強調した。

 MedIkaは、2007年4月から実証実験を始め、08年1月に道南地域医療連携協議会を設立、同年4月から実際の運用を開始している。現在、情報開示病院2施設を含む46施設が参加している。そのうち医療機関は39施設で、函館および渡島保健所がオブザーバーとして参加するほか、老健施設や介護支援施設、訪問介護ステーションも加わっている。開示している情報の内容は、転科・退院時サマリー、処方・注射内容、検体検査・細菌検査結果、画像・読影レポート、診療情報提供書、手術記録、看護連絡書で、最近は緩和ケア相談依頼書・報告書なども順次公開している。「当病院はいくらでもデータを公開する意思はあるが、情報の受け手にとって、すべての診察記録を公開しても目的にたどり着けるかという懸念もあり、最も重要であるサマリー類を中心にしている」(下山氏)という。また、情報を開示する医療機関の医師にとっては、診療内容が明白になるため、医師の技量が評価され、診療の質が問われることにもなる、と指摘した。

 MedIkaの活用によって得られた効果については、「急性期病院の処方を把握することによって、薬剤の重複投与をチェックできるようになったほか、正確な患者情報の把握は安全性への貢献を果たしている。連携先の医療施設は、転院前から転院患者の状態を各種データから知ることができるので、スムーズな診療継続が可能になったという声を聞く。また、検査の無駄を省くことで患者の負担や医療費の削減にも寄与していると思われる」(下山氏)という。

 市立函館病院における08年4月から10月末までのMedIkaの実績は、全10施設に対して209例、その前年1年間の試験運用も加えると598例を上げているという。こうした実績を踏まえながら、MedIkaが抱える問題点を下山氏は、「協議会のメンバーはそれぞれ日常の診療業務に追われているのが実情で、医療連携へのマンパワー不足によって参加施設がなかなか増えないこと。あわせて、情報の閲覧のみだと無料ということもあり、機能拡大したくとも資金不足で、それもままならないこと」とした。実際の運用においても、患者に転院を含む医療連携を理解してもらうためには、『医療連携システムとは何か』から説明する必要があり、患者の同意書を取るまでの作業が医師の負担になっている……とも述べた。

 今後の方針としては、「他の急性期病院の参加を促し、連携実績を増やしていくとともに、保健薬局のなどへ理解・参画を促していく。また、機能拡大という点では、レセプトオンライン化と連動させてMedIkaを普及させていきたい。地域医療連携の実現は苦しく困難な作業だが、限られた医療資源を効率的に活用するために、『競争から共生へ』の考えを持たなければならない」(下山氏)とし、今後も道南地域医療連携ネットワークの成功への豊富を語った。

●参加障壁となるコスト問題を解決する地域医療連携システムの開発

エスイーシー 情報処理事業本部 医療システム事業部部長の伊藤龍史氏

エスイーシー 情報処理事業本部 医療システム事業部部長の伊藤龍史氏

 続いて登壇したNEC情報サービス事業グループである、エスイーシー情報処理事業本部医療システム部部長の伊藤龍史氏が「地域医療連携を進めるにあたって」と題して、道南地域医療連携ネットワーク「MedIka」のプラットフォームである「ID-LINK」の開発経緯と主要技術、道南地域以外での事例について紹介した。

 ID-LINKの開発は、2003年度に行われた厚労省の地域医療情報連携推進事業での取り組みがきっかけで、当時、日鋼記念病院(北海道室蘭市)の関連施設を含む9施設での医療連携で開発されたものが原型という。「当初は地域医療連携システムとしてどのような機能が必要か十分な理解がない中で、投薬・検査・医療画像などオーダーエントリーで蓄積されたデータの公開に主眼を置いた。当時はちょうどオンラインショッピングや宿泊予約が普及しつつあり、Webフォームを使って診療情報提供書のやり取りを実現することに取り組んだ」(伊藤氏)という。

 そうした初期バージョンを実際に利用した医療施設からは、「郵送による診療情報提供書が転院先に届く前に患者が来院してしまう問題が解決された」「退院時処方の残りを見て処方できるようになった」「入院中の患者に対する治療経過が日々把握できるようになった」といった評価が連携先医療施設から示された。その反面、診療情報提供書をWebから入力する仕組みは、連携先にしかメリットがない。クリニックにもレセコンはあり、患者IDがあるのに、その患者IDで連携患者の情報にアクセスできないのは不便なのは当然であり、診診連携に対応できないといった不満があったという。「そうした声の中で、『電子カルテの情報が双方向に閲覧できてこそ連携システムであり、ID-LINKは単なる医療情報開示システムに過ぎない』という評価を下されたことが、開発者にとって特に堪えた声だった」(下山氏)と当時を振り返った。

 また、伊藤氏は各地で試みられていた地域医療連携システムを分析した結果として、診療情報提供書だけでは情報量が少なく、連携先医療施設のニーズを満たすことができない。ゆえに、電子カルテ間での連携も必要であるとともに、電子カルテを導入していない施設でも情報発信ができることが重要だとした。また、コスト面では、セキュリティレベルを厳格にしすぎるとコスト上昇を招き、医療連携ネットワークへの参加障壁になるほか、連携サーバでのデータ保存コストが増大すると維持・継続が困難になること、電子カルテの相互接続にコストがかかると情報開示病院の参加が難しくなるなど、インフラ構築にかかわる問題を指摘した。

 こうした課題を踏まえて再開発されたID-LINKが、MedIkaの医療連携ネットワークでの採用に至っているのだという。その特長の1つについて伊藤氏は、『データの分散配置と施設間の患者IDの関連づけ機能』だと述べた。

 「現在導入されている地域医療連携システムの多くは、地域中核病院に連携システムが置かれ、連携に必要なすべてのデータが保存されるため、データ量は連携先施設の増加に比例して増え、コスト増大につながっている。また、施設内にある電子カルテシステムのデータとは別に地域連携システムのためにデータ入力するケースもあり、これが運用の煩雑さを招くことに繋がっている」と指摘。ID-LINKでは、処方や画像データなど共有するデータは各施設のシステムがすでに保存しているものを利用し、それらのデータの実体を参照するためのショートカット、エイリアスだけをデータセンター上の地域連携サーバに置いているという。

 これにより、連携施設・共有する情報が増えても地域連携サーバのデータ量が大幅に増えることなく、しかも実データが地域連携サーバにないため、情報漏えいのリスクがなくなるメリットがある。また、ID関連づけ機能は、自分の施設の患者IDでそのまま地域連携システム上の患者情報にアクセスでき、利便性が高く、患者取り違えの防止にもなる、と強調した。

 また、ネットワークおよびログインのセキュリティ仕様については、情報開示する医療施設とデータセンターはIPSec(Security Architecture for Internet Protocol:インターネットで暗号通信を行なうための規格)によるVPN(Virtual Private Network:仮想私設網)でセキュリティレベルを確保し、データ閲覧のみの施設はデータセンターから発行されたデジタル証明書をインストールしたパソコンからSSL-VPNという呼ばれるセキュアなアクセス方法で接続している。

 「厚労省のガイドラインではIPSecが推奨されているが、閲覧側はコスト負担が大きいと参加の障壁になるため、情報開示施設と閲覧施設で非対称の通信路にすることで、低コストでありながら一定のセキュリティが確保できることを重視している」と、伊藤氏は説明する。こうした導入・参加しやすい方法への取り組みによって、情報閲覧のみの施設では月額7000円、情報開示施設は300床以上の施設で月額8万円、300床未満の施設で月額5万円を実現したという。

 ID-LINKによって地域医療連携ネットワークを構築した函館地区のMedIkaなど、これまでの実績を振り返って伊藤氏は「地域内に競合関係に中核病院が複数ある場合は参加を拒否されることがあり、そうしたデータ開示施設が増えないために閲覧側施設の参加意欲が減退する傾向にある。システムを導入する前に地域内の医療機関で十分な討議を行うとともに、参加する施設を増やすような下地作りが必要で、そのために医師会の賛同を得て推進することも重要」と指摘し、地域医療連携ネットワークを成功に導き、実効性を高めるためには、地域内の医療機関、医師どうしのヒューマンインタフェース、医療施設と患者のヒューマンインタフェースの構築が重要だと強調した。

(まとめ、増田 克善=委嘱ライター)

ページの先頭へ戻る

関連記事

Information PR

ログインしていません

もっと見る

人気記事ランキング

  1. 難治性皮膚潰瘍を再生医療で治す リポート◎大リーガー田中将大投手のケガも治したPRP療法とは? FBシェア数:11
  2. トイレにこそ、人間の尊厳がある Dr.西&Dr.宮森の「高齢者診療はエビデンスだけじゃいかんのです」 FBシェア数:470
  3. 輸液の入門書 医学書ソムリエ FBシェア数:0
  4. わいせつ容疑の外科医、初公判で無罪を主張 「乳腺科医のプライドにかけて無罪を主張します」 FBシェア数:568
  5. 医療者は認知症家族との暮らしが分からない 患者と医師の認識ギャップ考 FBシェア数:127
  6. 野菜食べてる? 村川裕二の「ほろよいの循環器病学」 FBシェア数:83
  7. 難治性慢性咳嗽にボツリヌスが効く!? Dr.倉原の呼吸器論文あれこれ FBシェア数:52
  8. 広がる安易な帝王切開、母体死亡率高まる危険性 国境なき医師団が見た世界の医療現場 FBシェア数:27
  9. 金属に対する生体吸収ステントの優位性示せず Lancet誌から FBシェア数:94
  10. 下血? 血便? 赤いの? 赤くないの? 薬師寺泰匡の「だから救急はおもしろいんよ」 FBシェア数:132