JAMINAセミナー:田中博・日本医療情報ネットワーク協会理事長講演

健保組合などの検診情報と地域医療連携による医療情報が統合し「日本版EHR」に発展

 4月25日に文京シビックホール(東京都文京区)で開催された「JAMINAセミナー」の講演で、日本医療情報ネットワーク協会理事長の田中博氏が「EHR 世界の潮流と日本での実現」を演題に掲げて講演を行った。EHR(Electronic Health Record)政策の展開で先行する英国および米国、カナダなどの状況を交えながら、日本の医療におけるIT化の動向とEHRの今後の展望について語った。講演の骨子は、以下のとおり。




●EHRは医療ITの中心だが国民のコンセンサスが必要


EHRは医療ITの中心だが国民のコンセンサスが必要と言う田中氏

EHRは医療ITの中心だが国民のコンセンサスが必要と言う田中氏

 先進国に共通してみられる、医療の質的格差の解消、安全性や透明性の確保、医療費の適正な利用などの諸問題。これらはいずれも、診療情報のリアルタイムな把握が、本質的な解決の条件といえる。

 その前提として、国民一人ひとりの生涯にわたる健康情報、すなわちEHRの基盤整備が欠かせない。EHRは地域医療の連携基盤になる。国民の健康に対する意識も変わってくるはずだ。プライバシーを保護した上で、匿名化した情報を有効活用すれば、疾病の動向を把握しやすくなり、エビデンスに基づいた最善の治療にも生かせる。国もタイムリーな医療政策を打ち出せるなど利点は多い。

 EHRは医療ITの中心と見られている。だが、単にシステム化やソフトウエアなど情報技術上の話ではない。プライバシーや、医療情報に対する個人の権利意識、すなわち社会において、どのように情報を扱うか、という国民全体の価値観や概念にかかわる「社会エンジニアリング」的側面から捉えることが重要だ。

●先行する主要国においてEHRのインフラ整備はほぼ一巡

 英国では2002年ごろから、約3兆円の国家予算を投じたプロジェクト「National Project for IT」として、EHRの整備が政策的に進められてきた。計画では、2010年までに全英5000万人分の情報をまとめるというものだ。2006年3月には、1万9000の診療施設が情報共有するための専用ブロードバンド・ネットワーク(N3ネットワーク)が完成している。また、PACS(Picture Archiving and Communications Systems)により、医用画像全体の72.9%にあたる、5億2500万枚がデジタル化され、データは画像センターに蓄積されている。電子カルテ(患者基本情報)の共有については、予定より遅れているが、その他の診療記録については瞬時に共有できる環境が整えられている。

 カナダでは、2000年末より官民組織を介して、1000億円規模の投資主導型プロジェクトを推進している。医療情報ネットワークによって、2009年までに各州で国民の50%がEHRを利用できる環境を目指している。現時点での進捗(ちょく)状況は、情報の種別でみると、検査情報は49%が共有されており、医薬品情報については37%、医用画像は57%となっている。だが、相互運用性のあるEHR(電子カルテ情報)は5%にとどまっている。

 アメリカでは2004年、ブッシュ大統領が10年以内に全国民のEHRをつくると発言して話題を振りまいた。だが、予算不足などにより、草の根的な地域医療連携はやや息切れしている。代わりに、患者情報を民間が蓄積し、患者のニーズに合わせて提供するPHR(Personal Health Record)が企業やITベンダーの協力のもとで発展しつつある(現在の利用者は4万人)。しかし、患者の個人情報にかかわるセキュリティ面での課題も懸念されており、今後の推移については予断を許さない状況と言っていい。

日本版EHRについては、2011年ごろまでに健保組合などの健診情報の集積と、地域医療連携を中心とした医療情報の集積という2つの流れが段階的に統合して日本版EHRに発展していくとした

 このように、主要国では2002年ごろから国家的規模でEHR政策の推進が本格化し、約5年を経た現在では、一定の成果を上げつつ、経験を蓄積してきた。今日では、その反省を踏まえながら、より多様な情報の連携・活用といった医療のIT化に取り組む、第2世代の波が訪れている。

 日本もようやく、日本版EHR確立へ関連する動きが出始めている。ひとつが、レセプト完全オンライン化と、特定検診の義務化。もうひとつが、医療計画の見直しと地域完結型医療の推進だ。

 2011年ごろまでに、健康保険組合を中心とした健診情報の集積と、地域医療連携を中心とした医療情報の集積という2つの流れが段階的に統合し、日本版EHRに発展していくと見ている。当協会も、国などに積極的に働きかけていく方針だ。(まとめ、柏崎 吉一=フリーランスライター)

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