地域連携のIT化に新潮流

使い勝手、コンテンツで診療所の参加促す

 今年4月から始まった新医療計画では、地域連携がキーワードとなる。そんな中、連携にITを利用する取り組みが増えてきた。過去の失敗例の教訓を生かした、“診療所本位”の機能が特徴だ。




 秋田県は今年2月1日、IT(情報技術)を利用した「秋田診療情報共有化システム」の試験運用を始めた。これは医療機関が、患者の既往歴、検査情報、処方歴などをインターネット上で共有するというもの。モデル地区となった横手市内の急性期病院4施設を含む15施設が参加する。

 このように、ITを利用した地域連携システムを構築しようとする動きが最近目立つ。その内容は、病院の電子カルテ情報を診療所が閲覧できるシステム、患者ごとに地域の医療機関が診療情報を共有のデータベースに書き込んでいくシステムなど、様々だ。

 背景には、国の政策誘導もある。今年4月からスタートした新しい医療計画では、各医療機関が機能を分担し、地域単位で疾患別に連携体制を構築することが求められる。ITを利用すれば、紙で行う従来の連携と比べて人為的なミスを減らせたり、過去の検査、処方歴の閲覧により重複した検査、投薬を防げるなど、メリットも多い。

 しかし、これまで開業医の参加が思ったほど進まず、休止に追い込まれた地域連携システムは少なくない。現在稼働しているシステムではその教訓を生かし、利用者のニーズをうまく取り入れているのが特徴だ。

●低コストで現実的な機能

大村市立大村市民病院の柴田真吾氏

「高機能で複雑なシステムを構築しても、利用者が使いこなせずコストだけがかさむことになる」と話す柴田氏

 シンプルな機能で参加者を増やしているのが、長崎県の「あじさいネットワーク」(以下あじさいネット)だ。国立病院機構長崎医療センター(大村市)と大村市立大村市民病院の2つの病院が参加、診療所も含めた参加機関数は60施設に上る。04年にスタートし、今年4月からは長崎市内の病院、診療所も新たに参加するなど、広がりを見せるネットワークだ。

 設立にかかわった大村市民病院・医療情報企画室長の柴田真吾氏は「過去の失敗例の中には、国の助成金を使って高機能で複雑なシステムを作ったあまりに、利用者が使いこなせなかった例も多く見受けられる。あじさいネットは助成金を受けずに低予算で運営してきたため、逆に現実的なネットワーク構築ができた」と話す。

 システムは、中核病院の検査情報や画像などの診療情報を診療所が閲覧する機能に絞った。電子カルテを導入しているかどうかに関係なく、インターネットに接続できるパソコンがあればよいため気軽に参加できる。初期投資は暗号化機器(実費で6万6000円程度)の購入のみ、年会費は2万7000円(ウイルス対策料込み)と安価だ。簡素なシステムであるため、患者を診ながらでも無理なく利用できるという。

 さらに柴田氏は「病院側の診療所囲い込みツールとならないように気を使った」と強調する。従来のITを使った地域連携では、特定の基幹病院とその連携診療所に限定した運用がほとんど。だが、あじさいネットでは複数の病院が参加し、地域の診療所と広く“面連携”する形を取る(図1参照)。

図1 ITを用いた連携システムのパターン

 例えば、大村市民病院に患者を紹介していない診療所に、同院の受診歴がある患者が来院した場合でも、患者の同意があれば、同院の診療情報を閲覧することが可能だ。

●コンテンツで引き付ける

 京都市の山科医師会が主導する連携システム「CoMet」は、また違うアプローチによって参加者を集めている。「最大のウリはコンテンツの豊富さ」と話すのはCoMetの運営にかかわる洛和会音羽病院(京都市山科区)本部部長の児島純司氏だ。

 CoMetには、カルテ閲覧、紹介・逆紹介フォーム、メールサービスに加え、基幹病院のカンファレンスや医師会の勉強会の動画、山科地区の感染症情報、医療ニュースなどコンテンツが多種多彩。これもインターネット環境があれば利用できる。山科医師会会長の鈴木学氏は「あまり外に出ることのできない開業医にとって、カンファレンスの映像は刺激になる」と話す。ネットワークには地域の4つの中核病院が参加し、診療所の参加率も約8割と高い。

 コンテンツの充実には「診療所の医師に、パソコンのスイッチを入れてもらうという狙いもあった」(児島氏)という。紙の連携では、情報が送られてくればすぐに分かる。だが電子化すると能動的に情報を見に行かない限り、医師の目に情報が飛び込むことはない。「多くの医師がパソコンを使って、自ら参加するような基盤ができてこそ、初めてITを使った連携システムが生きてくる」と児島氏は話している。(江本 哲朗=日経メディカル オンライン)


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