レポート:伊藤喜一郎氏講演(大阪府立急性期・総合医療センター)

電子化は目的ではなく、ツールとして駆使してこそ実効がある

 2月15日、「NEC医療セミナー2008」がNEC本社ビルにて行われた。講演では、大阪府立急性期・総合医療センター クリニカルパス推進委員会委員長で泌尿器科主任部長の伊藤喜一郎氏が、「電子クリニカルパスによる新たな診療録への挑戦 〜For Realization of 4S&3C〜」と題した演目で登壇した。約1時間に渡る講演内容の骨子は、以下のとおり。




 私は医師になって29年になりますが、当時の医療体制は、治療方針や検査技師、看護師薬剤師などへの指示の根拠、スケジュールなどのすべての情報が医師の頭の中にだけあって、しかも、さざまな手順や基準、用字用語などもバラバラで「標準化」されていませんでした。自ずから、職種間の連携などなく、意思の疎通も図られていないわけですから、「チーム医療」などとはほど遠い旧態依然たるものでした。そのため、時代の流れとともに、新しいチーム医療の体制づくりが急務だったのです。


電子化の最大の目標は「医療従事者の省力化」と説く伊藤氏

電子化の最大の目標は「医療従事者の省力化」と説く伊藤氏

 チーム医療とは「患者中心の医療体制」を整えることであり、そのためには医療従事者が共通の価値観を持って、共通の目標を達成することが最も重要です。具体的には、標準化された医療を患者に信頼される形で、安全に、低コストで提供することです。私は7つのキーワード「4S&3C」を掲げ、それを実現することこそが「患者中心の医療」、「提供すべき医療」につながると考えます。

 「4S&3C」とは「Standard:標準化」「Safety:安全に」「Surely:確実に」「Speedy:早く」の4S、そして「Confidence:信頼」「Confortable:快適に」「Cost:低コスト」の3Cです。これらのキーワードを満たした「患者に提供されるべき医療」を実現するツールが、「クリニカルパス」なのです。

●電子化・電子カルテは医療の質を向上させるためのツール

 当センターでは紙カルテの時代からクリニカルパスを充実させてきており、その定義とは、『最終アウトカム(退院基準)において「4S&3C」を達成するのに何をすべきかの診療・看護工程』としています。

 パスに関する用語として「タスク」「アウトカム」「クリティカルインディケーター」「バリアンス」などがあります。このなかで「アウトカム」は、血圧・体温、言動、知識、合併症の有無など患者の状態を示すものです。「バリアンス」とは、患者に設定された「アウトカム」が達成されていない状態を指します。

 医療の質の向上のために、より良いクリニカルパスにするためには、「PDCA (Plan - Do - Check - Action)cycle 」を徹底的に繰り返すことですべてのバリアンスを分析し、患者に設定された「アウトカム」を医療者のタスクによって目標まで達成されることにあります。そして最も重要な点は、パス導入が、すべての医療者の省力化につながらなければ全く意味がないこと……ということです。

 当センターは2008年2月に、電子クリニカルパスを全面導入しました。電子化の意義は「情報の共有化」と「情報の再利用」にあります。そして、電子化の大前提には、用語などが「標準化」されていることが不可欠で、目的もなく漫然と、標準化が未整備のまま電子化してもなんら効果は期待できません。また標準化とあわせて、より本質的なポイントとして電子カルテの導入によって「医療の質向上につながるか?」「病院経営を変えられるか?」「そして果たして十分に機能するツールとなりうるか?」を問い直すことが必要です。すべてを満たしていなければ、導入による効果には疑問符を付けざるを得ないでしょう。

 電子カルテ導入の結果、「ペーパーレス、フィルムレスを実現した」という声をよく耳にしますが、電子化することが目的ではありません。あくまで電子化・電子カルテは医療の質を向上させるための手段、つまりそのためのツールとして捉えるべきなのです。

 そして、電子化(電子カルテ・クリニカルパス導入)の最大の目標は、「医療従事者の省力化」です。それを実現するためには、医療現場での用語を統一してコード化する「診療内容のデータ化」によって情報の標準化を図り、結果として医療者が楽にならなければ電子化の意味はまったくない、と言っても過言ではありません。

 繰り返しになりますが、電子化は目的でありません。(電子カルテなどの)ツールに振り回されるくらいなら、やめたほうがいいでしょう。あくまでツールとして駆使して初めて、医療の質の向上とともに、医療現場の省力化、ひいては経営の効率化・合理化に結びつくのです。電子化は5年、10年後を見据えた長期ビジョンに立った「戦略ツール」として電子化に取り組むことを、肝に銘じて欲しいと感じています。(まとめ=井関 清経)


■大阪府立急性期・総合医療センター
所在地:大阪市住吉区万代東3-1-56  病床数:768
 紙でのクリニカルパス運用において適用率7割以上を実現、2007年9月にはNEC製電子カルテシステム「MegaOakHR」によるクリニカルパス電子化を実現

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