インタビュー:吉田 茂氏(名古屋大学医学部附属病院 医療経営管理部副部長)

医療者がシステムづくりに取り組んでこそ医療の質に貢献する

 医療情報システムを道具として捉え、ユーザーフレンドリーであることをフィロソフィー(哲学)とコンセプト(概念)にシステムを構築し、2007年1月に稼動させた名古屋大学医学部附属病院。そのシステム構築の陣頭指揮を執った同院医療経営管理部副部長の吉田茂氏に、日本の電子カルテシステム普及の現状と今後の展望について聞いた。

――日本の医療現場で電子カルテ化がなかなか進展しない背景をどう捉えていますか。

名古屋大学医学部附属病院 医療経営管理部副部長の吉田茂氏

名古屋大学医学部附属病院 医療経営管理部副部長で名古屋大学医学部准教授の吉田茂氏

吉田 これまでのIT化の実情を振り返ってみると、レセコンの導入、オーダリングのシステム化、電子カルテの導入という流れが間違いだったと思います。レセコンは医療事務の効率化であり、オーダリングシステムも部門を主体にした効率化のための受発注システムであり、いずれも発生源入力によって診療現場に負担を強いる仕組みで、臨床に携わるスタッフの業務効率化にも、医療の質の向上にも、なんら役に立つものではありませんでした。

 本来の医療のIT化をつきつめて考えるならば、診療業務の効率化や安全性の向上、診療の質の向上に寄与する、診療情報の活用という視点からIT化を進めるべきものだったと思います。テクノロジーがそれを実現できるレベルでなかった……という声ももっともではありますが、現在のような高度なテクノロジーを使わずとも、診断書などの文書作成や簡単な診療データ活用の仕組みは作れたはずです。医療現場に貢献する仕組み、という視点を持たずに進められたことが問題だったと思っています。

――医療現場の視点に欠け、IT化が進んでしまったのが問題と……。

吉田 はい。加えて、普及の足かせとなったのもうひとつの原因は、ITベンダー各社の電子カルテシステムが独自性をもって優位性を発揮しようとしたことで、それぞれに互換性がなかったことです。あわせて、開発に膨大な投資を必要としたことも普及を遅らせた理由と指摘していいでしょう。

 現在の電子カルテシステムは、旧国立の大学病院の研究者にITベンダーが協力する形で開発が進められてきたのは周知の事実です。研究開発は独自性があってこそ認められることであり、ベンダーも優位性を出すために独自性を求めたという利害一致の結果、互換性のないさまざまなシステムが登場したといえます。電子カルテシステムが高額なものになったのも、研究開発者の予算獲得力を背景に、開発費として多額を注ぎ込んだ結果といってもいいでしょう。

――今後、電子カルテを浸透させていくための要件は?

吉田 ITが医療の質に貢献するという視点が重要であり、私は以前より、三層構造の電子カルテという概念を提唱しています(右図)。

 最下層は病院運営の基幹を支える運営管理システムであり、人の流れ、モノの流れ、お金の流れを管理する、いわゆるERP(enterprise resource planning:※文末注1)システムです。医療業界としてみれば、ほとんどどこも必要とする機能であり、このレイヤーは共通的な機能を持ったパッケージ・ソフトでいいと思います。

 中間層は、最上層で発生するオーダー情報を管理し、必要なところに情報を渡し、その結果も受け取って返す情報連携基盤としての役割を果たすレイヤー。ベンダー各社で特色はあっていいものの、病院ごとに開発する必要はないでしょう。そして、最上層が実際の診療業務を支援するべき機能を持ち、それに加えて医学知識や経験を蓄積し、必要なときに利活用できる機能を有するもので、初めてITが医療の質に寄与することができると考えています。

 このレイヤーは、現場の医療者の業務に深く関わるため、ユーザーの特性に合わせたカスタマイズやシステム構築が自由にできる必要があり、病院の規模や形態、診療科によって医療者自らがシステムづくりに取り組むべき層と考えます。この層に開発リソースを投入しても、共通的な中間層や最下層に接続できる仕組みであれば、IT投資も効率化できるし、真に医療現場を支援する電子カルテが実現できるはずです。こうしたコンセプトのもとに構築した電子カルテシステムであれば、投資効果も高く、普及を加速させることができると考えています。

――IT化に関する医療行政のあり方について、どうお感じになっていますか。

吉田 医療のIT化を提言していくためには、医療の現場を熟知している人材をもっと迎え入れる必要があると強く感じます。医療・介護分野の情報化グランドデザインにかかわったメンバーも、その内容を見る限り、たぶん臨床経験の豊富な人はいないように思われます。厚生労働省の医系技官にしても、その採用基準が卒業後5年以内という臨床経験の少ない人が対象になっています。医療現場の業務を肌で知っている人を行政側が取り込んでいく必要があるでしょう。(聞き手は、増田 克善=フリーランスライター)

ERP=経理、生産管理、販売管理、人事管理などの基幹業務を個別に行うのでなく、コンピュータ・システムを使って密接に関係付けながら実行すること。ERPを実現すれば、部分的にではなく全体として最適化された企業活動が可能になる。(日経BP社 情報・通信用語辞典から抜粋)

■関連記事
事例研究:名古屋大学医学部附属病院 「医療者にとって理想的な電子カルテシステムの構築に向けて」


ページの先頭へ戻る

関連記事

Information PR

ログインしていません

もっと見る

人気記事ランキング

  1. 職員が2グループに分裂、退職相次ぐ事態に 榊原陽子のクリニック覆面調査ルポ FBシェア数:40
  2. 83歳男性。両下肢の脱力 日経メディクイズ●救急 FBシェア数:0
  3. 保険者の突合点検で発覚した検査料の誤請求 あのレセプトが削られたわけ FBシェア数:46
  4. 慈恵医大、画像診断所見放置で新たに2人死亡 画像診断報告書の確認漏れが相次ぐ FBシェア数:192
  5. “根室の奇跡” 耐性肺炎球菌を減らせた秘策 事例研究◎抗菌薬を適切に使えば必ず地域社会を変えられる FBシェア数:245
  6. 怒りのピーク「7秒間」を制する極意 太田加世の「看護マネジメント力を磨こう」 FBシェア数:24
  7. 医者だとバレたくない うさコメント! FBシェア数:14
  8. ハーボニーが使えないC型肝炎患者はどうなる? 記者の眼 FBシェア数:0
  9. やる気のある職員が定着しない…打開策は? 診療所経営駆け込み寺 FBシェア数:116
  10. 「What can I help you wit… 実践!医療英語「このフレーズ、英語で何と言う?」 FBシェア数:1