原因と対策:医療機関に配布したシステムが利用不能に


村中 直樹氏
クレッシェンド 代表取締役


 筆者がのべ400以上のExcelシステムに関わってきた経験を踏まえ、保守できない「Excelレガシー」の発生原因と対策をお伝えしていきたい。今回は「利用者がExcelシステムを改変する権限」について取り上げる。前回は「Excelマクロの自動記録」について取り上げているので、ご興味があれば参照していただきたい。




治験データを収集するシステムを構築

 医薬品や医療器具を開発・販売するB社は、Excelを使って臨床検査のデータを収集するシステムを構築した。全国の医療機関で実施した新薬などの臨床検査の結果をExcelのワークシートに入力してもらい、医療機関からExcelファイルを収集してデータを集計処理する仕組みである。新薬として厚生労働省から認可を得るためには、研究開発段階で一定の効果が得られた後に、数100名〜数1000名の患者に新薬を適用して効果や副作用の有無を確認する“治験”作業が必須だ。

 B社は、Excelのワークシート上にデータの誤入力を防ぐ複数の仕組みを実装した。厚生労働省に提出するデータは、正確性が問われるためだ。例えば、合併症を入力欄は、プルダウンメニューで「合併症有り」を選択すると初めて、各症状を表示して選択できる仕組みにした。臨床検査の数値については、基準値を大幅に上回る(下回る)異常な値を入力すると、イタリック体の赤字で表示して入力ミスを未然に防ぐ仕組みも実装した。機能とデータも分離することで、機能変更に柔軟に対処できるようにした。B社は当初、Webアプリケーションでシステムを構築する案も検討したが、データの誤入力を防ぐ仕組みの実装に工数がかかるなどの理由から採用を見送った。

誰でもいじれる実装が問題に

 B社は、約500カ所の医療機関にExcelシステムを配布して運用を開始した。誤入力を防ぐ機能が奏功し、入力ミスはほとんど発生しなかった。

 システムを長期間運用するうちに、B社は想定していない3つの課題に直面した。

 コンピュータの知識に長けた医師たちが、興味本位でExcelシステムの機能を変えたことで誤動作したり利用不能になってしまったのだ。ある医療機関では、使い慣れていない医師が誤操作でワークシート自体を壊してしまった。Excelシステムを自宅に持って帰って利用しようとしたところ、システムが正常に動作しない現象も発生した。

 1つ目と2つ目の問題は、「いじろうと思えばいじれてしまう」システム設計が原因である。B社は、ワークシート自体を保護していなかった。誤入力を防ぐためにExcelの「入力規則」機能で入力データに制限を掛けていたがセルを移動したり消すことはできてしまう。パソコンに不慣れな医師の中には、ノート・パソコンに備わるタッチパッドに不用意に触れたことで、意識せずにセルを移動してしまうケースも発生した。

 3つ目の問題は、Excelシステムの構造の理解不足に起因している。今回構築したシステムは、機能とデータが別のExcelファイルに分離しており、それぞれ保存場所があらかじめ決まっている。医師がExcelシステムを持ち帰り、自宅のパソコンに保存した際、本来あるべき場所にデータ・ファイルを保存しなかったためデータを読み込めなかったのである。

改変に関する3つのルール

 B社から相談を受けた筆者は、改変に関する対策を講じたExcelシステムを開発。新しいファイルを各医療機関に再配布することで問題を解消した。元々、機能とデータを分離していたため、機能を実装したファイルを上書きするだけでよかった。

 改変に関する対策は、主に以下の3点である。


●「シートの保護」機能を使って、行や列の追加や式の変更などが一切できないようにしておく
●「上書き保存」と「名前を付けて保存」機能を無効化する。誤操作でExcelシステムを壊したとしても、保存機能を使えなくしておけばシステムは保護できる
●データの保存場所を指定することでデータを再読込する機能を追加する。この機能により、データを格納する場所を変更しても対応できる


 Excelシステムは、改変が容易であるなど自由度の高さが魅力だが、不必要に自由度が高いとミスを誘発しかねない。業務に直接関係ない機能は、あらかじめ制限したり無効化しておくのが望ましい。


村中 直樹氏(クレッシェンド 代表取締役)
 金融機関の情報システム部門等でシステム開発に従事。約20年前にExcelと出会って以来、その機能と利便性に惚れ込み、日常の仕事にExcelを活用。2000年に独立してExcel専門の受託開発会社クレッシェンドを設立、今に至る。

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