インタビュー:吉原正彦氏(内科医/ダイナミクス代表取締役)

医師同士の交流でソフトに独自機能が加わり進化する

 開業医の幅広い支持を受け、ユーザー数がすでに2100件を突破したといわれる診療支援ソフト「ダイナミクス」。開発者の吉原正彦氏は内科医であり、株式会社ダイナミクスの代表取締役でもある。意外にも「僕はコンピューターにはあまり興味がないんです」と話す吉原氏に、ダイナミクスの現状について語ってもらった。




―― 今やダイナミクスは診療所開業医の間で最も有名な電子カルテになりつつあると思われますが、ユーザー数はどのくらいですか?


内科医でダイナミクス代表取締役の吉原正彦氏

内科医でダイナミクス代表取締役の吉原正彦氏

吉原 ダイナミクスの契約は1年単位なので、使ってみた後におやめになった方もおられます。現時点(2007年10月)で実際にお使いいただいているユーザー数は2100件を超えていると思います。ただ、僕自身がダイナミクスを作ったときは、電子カルテを作ろうとしていたわけではありません。最初は、自分の日常診療をとりまく無駄や不合理をなくすことがまず第一の目的で、そのための工夫が結果としてダイナミクスになったわけです。後から考えると、ダイナミクスには電子カルテに該当する機能もありますが、電子カルテの定義に合わない部分もあるでしょう。使う医師にとって便利な道具であれば、電子カルテと違う種類のソフトに分類されもかまわないと思っています。


―― すると、ご自身ではどのようなソフトと位置づけられますか?


吉原 レセコン機能の延長線上にある診療支援ソフトでしょうか。今から10年ほど前ですが、当時のレセコンには機能的な制約が多すぎて、あまりにも不便だと感じていました。もっと簡単で安価に日常診療に役立つものが出来るはずだと思って作り始めたのがダイナミクス誕生のきっかけです。


―― それまでプログラミングのご経験は?


吉原 ありません。親しい先生は僕の経歴をご存じですが、一度社会人を経験してからもう一度医学部に入り直して内科医になりました。最初は工学部を卒業して自動車メーカーのマツダに勤務していました。エンジニアの仕事は経験しましたが、プログラマーではなかった。自分用のパソコンを始めて購入したのは1996年のことです。OSはもうMS-DOSではなくてWindows3.1になっていたと思います。アップルのマッキントッシュも使ったことがない。インターネットが普及する前からパソコンを使っておられたベテランに比べると、むしろ初心者ユーザーに立場が近いんです。


―― 実用化までどのくらいかかりましたか?


吉原 パソコンを買ってから1年くらいです。最初のダイナミクスは97年から使い始めました。インターネットで公開したのが98年で、自分以外のユーザーが始めて導入してくれたのが99年です。


―― するとまだ運用開始から10年ということになりますが、ここまで多くのユーザーに支持された理由は何でしょうか?


吉原 いくつか理由は考えられますが、大きくは2点挙げられます。製品としてのダイナミクスの位置づけの独自性と、ユーザー同士の交流に恵まれたことです。


―― では、まず製品の位置づけの方からうかがいます。


吉原 まず自分と同じ不便な問題を抱えている診療所医師のためのソフトであること。マイクロソフトのOSウィンドウズと、同社のデータベースソフトのアクセスが使えるパソコンならどれでも動くこと。ソースはオープンで、知識のあるユーザーは自分で自由に独自の機能を追加できること。それにほかの製品に比べ、価格が安価なことでしょう。ダイナミクスの使用料(日立ソフテックによるサポート料を含む)は1年目が29万4000円、2年目以降は13万6500円です。メーカーさんが独自に開発した商品は、ここまで安くできないでしょう。


―― ユーザー同士の交流とは具体的にどんなものですか?


吉原 ダイナミクスを使ってみたいという先生が増え始めた99年から、メーリングリストを活用したユーザー同士の情報交換が始まりました。2001年からは年1回の全国大会を開催して、全国のユーザーが実際に同じ会場に集まって情報交換する場が出来ました。今年も横浜で開催され、約350人の先生が集まってくれました。これらは単に交友関係を暖める場ではなく、研究発表があります。アクセスの使いこなしに詳しい先生は、ダイナミクス本体にはない独自機能をどんどん開発されます。便利なものができたら、公表し共有する。ユーザーが優れた機能を追加して、それを持ち寄って意見交換してくれるおかげで、ダイナミクス本体を大幅に変えなくても、いろいろな機能が追加されていくわけです。


―― ユーザーが一緒に開発も手伝ってくれる製品というのは極めてユニークな特徴ですね。


吉原 僕自身はコンピューターそのものにはあまり興味がないんです。いろいろなアイデアを試してみることが楽しいので、道具としてのパソコンは使いますが。ユーザーの先生方の中には、僕よりプログラミングがうまくコンピューターを自在に使いこなすドクターがたくさんおられます。そんな先生方とアイデアや意見を交換するのは非常に有意義です。ダイナミクスの最大の財産は、人の輪にあると言えるでしょう。このような人間関係ができたのは、早期にダイナミクスを導入されたユーザーの一人、故・松岡正己先生のお人柄によるところが大きい。松岡先生には大変感謝しています。


―― コンピューターにあまり興味がないというのは意外ですが?


吉原 アイデアを試す道具はコンピューターだけに限らないということです。例えば携帯電話用にmerodyというツールを作りました。これはMedical record from Dynamicsの頭文字を取ったもので、文字通りダイナミクスの診療データを取り出して、携帯電話で見られるようにするものです。阪神淡路大震災のときに大阪にいたので、患者さんの情報をすぐに取り出せる道具があれば便利だと思って作りました。医師が自分の携帯電話で患者さんのデータを確認するためのものです。一方、患者さん用のツールとしてcandyも作りました。Carrying karte from Dynamicsの頭文字を取ったもので、ダイナミクスの記録から出力用データを作成し、赤外線通信で患者さんの携帯電話にご自身の診療情報を転送します。


―― ツールの評判はいかがですか?


吉原 candyは約200カ所の診療所で数100人の患者さんに使っていただいています。しかし、実際に作ってみると当初の予想とは使われ方が違いました。僕自身は、災害時とか患者さんが旅先で病気になった時など、緊急時の対策用を想定して作ったんです。ところが、実際には糖尿病患者の食事指導とか、慢性疾患の患者さんに対する情報提供などの用途に使われる方が多いようなのです。アイデアは試して見ないと、実際に思った通りのものができるかどうか分からないですね。ですが様々なアイデアを試してみることに興味があります。最近は、リストバンドやアクセサリーに2次元バーコードを付けて患者さんのデータを呼び出すシステムなども試作してもらっています。親しい先生からは、「患者さんが自分で持つものなら文字テキストを貼ればいいじゃない。バーコードにする必然性がないよ」と言われていますが(笑)。


―― レセプトオンライン請求の問題については、どうご覧になっていますか?


吉原 医療機関は平成22年度からオンライン請求が義務化されることになっています。医療費は政治問題になりやすいので、政治状況によっては将来事情が変わる可能性もあるかもしれません。しかし、レセプト請求行為自体は、オンラインの方が紙でするよりはるかに楽で経済的です。たくさんのユーザーにお使いいただいている以上、ダイナミクスが対応するのは当然です。本質的には、診療データをCSV(テキストデータをカンマで区切ったファイル形式)で出力することですから、それほど難しいことではありません。既にオンライン請求を実行した医療機関が官報で公表されていますが、ダイナミクスユーザーが半数を超えています。


―― CSV出力はできると思いますが、それでうまく診療データを記述できますか?


吉原 病名コードの問題ですね。確かに「厚生労働省の病名コードだけでは足りない、正確な病状を記載するのに不十分なのでもっとコードを増やすべきだ」という意見もあります。ですが、医学研究が進めば、病態概念や病名が変わることもあるわけで、より良いコードへの改良を続けることを前提に、ある程度見切り発車しなければ、いつまでたってもデータ請求できないのでは困ります。


―― ダイナミクスの今後の展望や課題についてはいかがでしょう?


吉原 一番の課題は、ユーザーの多様化に関する対応です。内科以外に外科系の診療科のユーザーが増えてきたことももちろんですが、透析や訪問診療など科目だけでなく診療スタイルへの対応が期待されるようになってきました。昔のようにユーザーの数が少なく、お互いに顔の見える状況ではなくなってきたので、ご希望にすぐに対応できないケースもあると思います。できるだけご要望に添えるようにしたいと思いますが。


聞き手=平田 尚弘


〔参考〕
・ダイナミクス研究会のWebサイト
http://www.superdyn.jp/index.html

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