医療の透明性・質の向上と“医療連携”の先進的取り組み

米国医療ITレポート(後編)

 7月22日から28日、米国・ボストンでの先進的な医療ITを視察してきた。「前編」ではWebベースの患者ヘルスサービスの提供と、ナレッジマネジメント導入による医療の質向上の取り組みについてレポートした。「後編」では、医療機関の情報公開とデータの相互活用による「医療の透明性と質の向上」への活動と、“Connected Healthcare” (接続された医療)を構築して質の高い医療サービスを展開する退役軍人省病 院のケースなどを紹介する。(橋澤 満貴=インターシステムズジャパン)




●医療の透明性と質の向上 --- 医療機関の情報公開とデータの相互活用


 「医療品質の透明性(情報公開など)」に関しては、米国で品質やサービスに関する比較情報はそれまでなかったという。しかし、ここにきて連邦および州政府は、医療機関に対して品質情報を報告するよう働きかけ始めた。米国の保健福祉省(Department of Health & Human Services)のホームページでは、CMS(Center for Medicare and Medicaid Services)HQA(Hospital Quality Alliance)などとの協力し、特定疾患での診療プロセスがきちんと行なわれているか――など20項目について、公開に同意した医療機関の情報を「Hospital Compare (病院比較)」という形で、2005年4月よりオープンにしている(http://www.hospitalcompare.hhs.gov/下はその1画面


Hospital Compare のWebページ画面

Hospital Compare のWebページ画面



 今回訪問した「ケアグループ」(「前編」参照)の主要病院であるベスイスラエル長老派教会病院では全米に先駆け、自ら院内感染に関する指標や特定疾患治療プロセスについての数値を、地域や全国平均と比較してWebサイトで公開している(http://bidmc.harvard.edu/default.asp?node_id=8332)。

 「医療の質の向上」については、「パートナーズヘルスケア」では“High Performance Medicine” (高品位医療)の提供をミッションとし、重要視している医療ITへの取り組みがいくつかある。その1つに、すべての医療・業務システムをコンピュータ化することを掲げており、オーダーエントリーは2007年度中、外来カルテは2009年度中に、100%の電子カルテ化を目指している。

 現在、「パートナーズヘルスケア」では、電子化されたデータはCDR(Clinical Data Repository)およびDWH(Data Warehouse:注1)に格納し、活用している。50施設を超えるグループ内病院のシステムから、ほぼリアルタイムにデータを蓄積し、CDRは電子診療記録に統合されて臨床に、DWHは主に研究を中心に利用している。またDWHでは研究以外に、グループ内、各病院、医師ごとに、さまざまパフォーマンス指標のレポートを作成している。例えば、医師ごとに担当患者の状態の推移(コレステロール値など)をリアルタイムで表示し、疾病に対するパフォーマンスを目に見える形で必要な関係者に告知し、“High Performance Medicine”の指標の1つとして活用している。

●“Connected Healthcare” --- 退役軍人省病院に見るIT活用した連携医療

今回視察した「エディスノースロジャー記念退役軍人病院」

今回視察した「エディスノースロジャー記念退役軍人病院」

 今回は、最も優れた“Connected Healthcare” (接続された医療) を提供している医療施設の1つといわれる、退役軍人省病院での総合医療情報システムを紹介する。

 退役軍人省は、退役軍人とその家族向け(潜在患者 約7000万人)に医療および福利厚生サービスを提供しており、全米に1279の医療施設を有している。今回は、マサチューセッツ州 ベッドフォールドにある エディスノースロジャー記念退役軍人病院写真)を視察した。

 同病院は1995年から、電子診療記録、オーダー、画像、看護、検査、薬局、会計にいたるまで統合的な医療情報サービスを提供するアプリケーション・スイート(注2)「VistA (The Veterans Health Information Systems and Technology Architecture)」を運用している。「VistA」は、全米171箇所の病院、約900の診療所で使用されており、患者記録をネットワーク経由で、すべてのデータの閲覧が可能で、統合された医療情報ネットワークの規模としては世界でも最大級という。

 「VistA」が接続されているネットワークは、西海岸、中西部、中東部、東海岸の地域に区分されており、それぞれがさらにネットワークで接続されている。4つの各地域には、2カ所のデータセンターがあり、医療施設は、そこに接続する。

 複数の地域に患者データが分散されていても、1人の患者の記録は各施設から検索でき、画像も含め一覧リストとして表示される。例えば、住まいはボストンだが、夏はフロリダで過ごしている患者で、旅行先のサンフランシスコで急に入院したといった場合でも、各地に分散しているその患者に関するすべての情報を、即座に見られるという。検査や臨床情報だけではなく、「VistA」での処方はもちろん、「VistA」以外での投薬記録も管理されいる。医師が使うアプリケーションはモニターの1画面で表示され、そこからあらゆる操作ができ、さまざまな情報を引き出すことができるのだ。

●米国医療ITに接して --- ワークフローに合ったシステムづくりがカギ

 今回視察した、先進的な医療施設/グループにおける“Connected Healthcare”の取り組みを通じて感じたことは、医療従事者にとって使いやすい医療システムを構築しているということだ。すべての訪問先では、システムの設計・構築に、使う医師、あるいは医師の資格もつ者が直接、携わっていた。医師が使うポータルは「一覧性」に重点を置いて構築されており、そのため、非常に多くの項目と情報にあふれている。一見するととても見づらく、使い勝手が悪そうに感じたが、「現場の医師にとってすべてのことを1つの画面で行なえることが、実際に使う場合には利便性に優れる」(退役軍人省病院看護師/地域臨床コーディネータのロバート・ボッティーノ氏)のだという。

 今回の視察では、各施設で面会した病院の医師・もしくは医療情報担当者の口から、「ワークフローに合ったシステムや仕組みでないと使われない」という言葉を、何度も耳にした。医師自らが自身のワークフローに沿ったシステムを開発、構築しているからこそ、「より質の高い医療を提供できる環境を支えるIT化」が進むのは間違いないのであろう。

 視察に参加された熊本大学附属病院医療情報経営企画部長の宇宿功市郎教授は、「ハードや技術レベルでは日本の医療ITシステムは優れており、米国と比べ決して遅れているわけではない」という。ただし、「臨床に即したシステム開発がなされなければ、安易なIT化は意味がない」(同じく視察に参加された名古屋大学病院 医療経営管理部副部長・吉田茂助教授)と言われる通り、それぞれの医療現場に即したシステム開発・構築こそが、これからの日本の医療IT化に求められている最大の課題なのであろう。(米国医療ITレポート:おわり)

注1)DWH(Data Warehouse)=企業戦略の立案や意思決定などに役立てるため、組織内の各種データを1カ所に集約する仕組み。直訳すると「データの倉庫」。製造、物流、販売など部門ごとに蓄積していたデータを集めて、それを基に相関分析を行う。ここで集められるのは集計分析後のデータではなく、例えば売上伝票のような生データである。この仕組みを利用すれば、「ある商品を買った人がほかにどのような商品を欲しがるか」といった詳細な分析が可能になる
注2)スイート=特定用途の複数のソフトウエアをパッケージしたもの。その製品群を総称する

「前編」:先進地域に見る”Connected Healthcare”構築の取り組み

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