インタビュー:武田 裕氏(大阪大学大学院医学系研究科医療情報学講座教授)〔後編〕

IT化は本来の“EBM”を根付かせる契機とすべき

大阪大学大学院医学系研究科医療情報学講座教授の武田 裕氏

大阪大学大学院医学系研究科医療情報学講座教授の武田 裕氏

<→ 前編 から続く>

 IT化は本来、医療をより安全にかつ効率的に行うために実施すべきものだ。現在は紙の診療録の中に埋もれているデータを電子化し、そこからエビデンスを抽出してよりよい医療を患者に提供するために活用するのが、IT化の目的の一つである。事務処理の効率化に加え、蓄積されたデータをさまざまな視点から取り出せることが、IT化の最大のメリットだ。各科横断的な、統一された形式のデータであれば、病院全体でのデータベースを作り、診療支援や病院管理に役立てることができる。

 最初に、オーダリングシステム導入の機運が高まったときに、厚労省が標準的なシステムを定め、それを全国すべての医療機関に導入すべきだった。これによって、医師の診療行為をシステムに合わせるという方向への意識改革が行われていれば、既に、全国規模で、毎日の診療で得られた情報を集め、データを統合して分析する仕組みが完成していたはずだ。

●業務効率化のためのIT化から“EBM”のためのIT化へ

 もちろん、情報収集は諸刃の剣でもある。情報を分析する中で、これまで有効だと信じて行ってきた診療行為が、実はさほど有効ではないことが明らかになるかもしれない。医療機関ごとの成績を比べたときに、自分の病院では手術の成功率が低いことが明らかになるかもしれない。

 しかし、例えそうであっても、医療機関はすべての情報を開示して互いに競争すべきだ。そして、その結果、頑張っている医療機関が正当に目に見える形で評価される、これこそ「根拠に基づく医療(Evidence Based Medicine)」、そして「根拠に基づく病院管理(Evidence Based Management)」のあるべき姿だと私は考える。

 今は、従来の業務効率化のためのIT化から“EBM”のためのIT化へと、考え方を転換していく過渡期である。この考え方が医療界全体に普及するまでにはまだ時間が掛かるかもしれないが、手術の成績が良いとか、患者満足度が高いとか、さまざまな尺度で各病院の特色を出し、それを内外に公開することによって、病院の生き残り策を模索していくべきではないだろうか。

●診療報酬体系見直しなしのIT化はあり得ない

 私が現在のIT化の推進において最も危惧していることは、診療報酬体系に全く手を付けることなく、システムの導入をさらに進めようとしていることだ。今の診療報酬体系は、主に診療行為ごとに計算する出来高払い方式で、枝葉のたくさんある複雑な構造のため、IT化になじみにくい。


 例えば、一つの診療行為に対し幾つもの「算定要件」があり、さまざまな「加算」や「減算」がある。さらに、診療現場の実態が反映されていないために、例え実際には違う病気であっても、いわゆる“保険病名”を付けざるを得ないという深刻な問題もある。


 診療報酬体系をそのままIT化するために、システムを複雑なものにするのは本末転倒だ。これでは、各診療科ごとに異なる主張をすべて取り入れてカスタマイズ化を行ったために、価格の高騰を招き、標準的な仕組みさえ作れなかったオーダリングシステムの導入時と、同様の結果に終わる危惧を強く抱く。


 これについても、厚労省は明確なビジョンを示すべきだ。既に一部の病院に導入されているDiagnosis Procedure Combination(DPC)分類を拡大し、包括評価に一本化するなら、一本化すればよい。少なくとも、一連の診療行為を一つの価格にまとめれば、明細書を発行する患者にもわかりやすく、大きなメリットとなるはずだ。厚労省は、標準的なシステム作りのために何が最も必要なのかを、自らに今一度問い直してほしい。(おわり)


(談話まとめ:小又 理恵子)



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