インタビュー:石井 敏明氏(橋本市民病院)

医療レベル向上にIT導入は大きく貢献した

橋本市民病院事業管理者の石井敏明氏

 和歌山県の橋本市民病院は市が運営する公的医療機関だが、経営のプロである病院事業管理者を置いている。今回は、その任にある石井敏明氏に、医療経営とIT活用について話を聞いた。(聞き手:野本 幹彦=ライター)

−−病院事業管理者の立場から、2004年の新設移転に伴うITシステム導入(別掲記事を参照)をどのように捉えていますか。

 医療レベルを向上させるためには、オーダリングシステムや電子カルテの導入は大きな効果がありました。地方の市民病院がDPCの適用を受けられたのは、ITシステムを導入したおかげと言ってよいと思います。クリティカルパス、入退院の指針、看護師やコメディカルの意識向上などにも貢献していると思いますね。一方で、コスト面と医師の負担が増えてしまう点は大きな課題です。

−−経営面ではITが貢献していない、ということでしょうか。

 診療面だけでなく、データを経営に活用するためのソフトが充実してくればよいと考えています。経営に役立つデータは既に蓄積されているはずですが、それを取り出す手段がまだできていないというのが当院の現状です。診療に関するデータはレセプトの内訳まで細かなものが出てきますが、部門ごとの原価計算システムがまだ確立されていません。各診療科に原価をどう振り分けるかなど、明確にできない原価を手動で計算しなければならないシステムでは意味がありません。細かな計算まで自動化できれば、経営に役立つシステムになるはずです。

−−今後のITシステムに望むことはありますか。

 民間企業では、個々の取引先に対して、どれくらいのコストや出張費を使っているかをすべて調べられるようなシステムを導入しています。民間に対抗し得る公的病院を作っていくためには、何にどれくらいのコストがかかったのか、そのコストをかける目的は何なのか、といった細かな計算も今後は不可欠になっていくのではないかと思います。

 電子カルテをもっと普及させるには、使い勝手が良く、安価で医師の負担を減らせるシステムが必要です。それに加え、電子カルテと絡めたサブシステムとして経営指標の算出が可能なソフトをセットにしていくことが、今後は求められていくのではないでしょうか。

−−病院事業管理者とは、どのような役割を持っているのでしょうか。

 橋本市民病院は、地方公営企業法の「全部適用」を受けた医療機関です。この全部適用事業者は病院事業管理者を置き、市から独立した形で病院経営を行うことができます。現在では、全国の公的病院の4分の1から5分の1は病院事業管理者を置いています。今後も増えてくると思います。

−−柔軟な病院経営ができるということですね。

 そうです。この制度の適用が広がっているのは、公的事業の経営の厳しさや、世の中の自主独立の動きが背景となっていると思います。

−−具体的には、どのような権限があるのでしょうか。

 独立した人事配置や予算の執行が可能です。ただし、住民代表である議会に対しての提案権はないので、病院で何か新しいことをしようと考えた場合は、市長から議会に提案して合意を得なければなりません。

−−経営の自由度が高いとはいっても、公的病院としての役割もあるわけですよね。

 橋本市民病院は地域の中核病院であり、“市民病院”という使命を放棄するわけにはいきません。経営ベースばかりで考えることはできないわけです。地域医療を充実させるため、“急性期疾患に対応する地域完結型病院”を掲げ、医療の最先端で信頼を勝ち取れる経営形態に脱皮しようとしているところです。

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