キーパーソン:向井 保氏(医療情報システム開発センター理事長)

標準化を積極的に働きかけていきます

 医療情報の標準化やセキュリティの必要性は繰り返し叫ばれてきたが、未だに十分ではない。新たなコストや診療報酬などの点で、医療機関やベンダーにとってのメリットが希薄なことが理由の一つだ。医療情報システム開発センター(MEDIS-DC)は30年以上にわたって医療情報の標準化を推進してきた公的団体だが、「ともすれば標準コードを作ればおしまいという体質があった」という。

 しかし、ここにきて、メーカー独自コードから標準コードへの変換を容易にする「マッピングテーブル」公開など、標準化を受け入れやすい仕組み作りに乗り出した。地域医療連携を進める都道府県などへの働きかけも強めている。医療IT発展に、MEDISがどのような役割を果たしていくのか、理事長の向井保氏に聞いた(聞き手:中沢 真也=日経メディカル オンライン)



医療情報システム開発センター理事長の向井 保氏

 MEDISでは、医療情報の標準化とセキュリティ確保を事業活動の主軸に位置付けています。

 標準化については、診療情報にかかわる用語やコードを標準化した10種類の「標準マスター」を、病院やベンダー(IT事業者)に提供しています。こうした標準コードの整備は一応完了したと考えています。

 セキュリティも重要です。医療情報を外部とやりとりする際、途中で漏洩や改ざんされないようにしなければなりません。

 このため、保健医療分野に最適化した公開鍵暗号基盤(Health Public Key Infrastracture:HPKI)の開発と普及活動をベンダーと組んで進めています。既に、山科医師会(京都府)や加古川市などで、HPKIを使って病院と診療所の情報のやりとりを行おうという動きが始まっています。

 個人情報保護についても取り組んでいます。2005年に個人情報保護法が全面施行され、あらゆる段階で患者の同意を得る、学会であっても同意がない限り患者情報を出さない、出す場合には匿名化する、などの対応が求められるようになりました。

 MEDISは、医療機関がこれらの情報をきちんと扱っているかどうかを審査する「プライバシーマーク:Pマーク」制度の審査機関になっています。これまでに約200医療機関にPマークを発行しています。

標準普及の道は険しい

 しかし、率直に言って、標準の普及は十分とは言えません。

 各医療機関には固有の用語体系があるため、標準コードへの切り替えには大きな壁があります。それなのに、標準化に踏み切る経済的メリットはあまりありません。医療機関の収益に貢献しないことも導入が進まない原因のひとつです。

 標準病名については、診療報酬請求のオンライン化に伴って普及することが期待できますが、それ以外の分野では、ベンダー独自のコードを採用している方が、ユーザーの囲い込みに有利という側面もあります。

 導入やリプレースに要する期間が短くなっていることも阻害要因です。短期間の立ち上げ作業の中で、標準コードへの変更などに取り組む余裕がないからです。

 一方、MEDIS側にも問題がありました。これまでは、標準用語やコードの作成にエネルギーの大半を費やしてきたためか、組織内に「標準が完成したら終わり」「普及しないのは使わない側が悪い」という意識がどうしても強かったことです。

積極的に医療機関やベンダーに働きかける

 今後は医療機関やベンダーと接触を深め、標準の採用を働きかける活動を重視しようと思っています。情報システムは5〜6年でリプレース(交換)するのが一般的です。システム稼働中にコードを入れ替えるのは困難なので、リプレース時に目標を定め、常々からベンダーにアプローチしていきます。

 「マッピングテーブル」情報の公開も検討しています。これは、ベンダーの固有コードと標準コードを対応させた一覧表のようなものです。これがあれば、標準化におけるベンダーの負荷を減らすことができ、結果として標準化を促すと期待されます。こうした取り組みはMEDISだけで実現するのは難しいので、有志のベンダーを募ってコンソーシアムを結成したいと思っています。

 最近では、レセプトオンライン化やIT導入の中心が、市民病院や民間病院に移ってきています。こうした医療機関では医療ITの導入目的として、高額な費用がかかるカスタマイズなどより、合理性や、経営への寄与、医療の安全などを重視する傾向があるため、標準化にも前向きだと思われます。

 新規開業の診療所も、IT導入には抵抗がありません。オンライン請求では週に2回などといった、より頻繁な請求が可能になるため、資金繰りが楽になるというメリットがあります。是非はともかくとして、請求用のデータを一部利用することで、感染症の流行などを知るサーベイランスも可能になるのではないでしょうか。診療所における医療情報の標準化については、日本医師会とも連携をとって進めていくつもりです。

 MEDISでは、地域に対する標準コード採用を働きかけています。標準化によって県立病院などのコストダウンや住民に対するサービス向上が実現し、都道府県の税金投入額を減らせる可能性があるからで、地域医療計画が新たに作られる時に、計画の中心となる公立病院群と協業していきます。(談)

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