医療IT推進シンポジウム:赤穂市民病院病院長・邉見 公雄氏

微々たる電子化加算は十分な「報酬」には値しない

 医療費抑制政策のもとで、少子高齢化にともなう人材難やマーケットの縮小にあえぐ地方病院の多くはいま瀬戸際に立たされている。そうした中、兵庫県の赤穂市民病院では、病院が地域コミュニティの中核的存在なることを目指し、患者を交えたイベントなどを積極的に開催して住民参加型の病院運営に取り組む。6月25日の「医療IT推進シンポジウム」で赤穂市民病院病院長の邉見公雄氏は、地方病院の現状を報告するとともに、行政や医療界の動きについて意見を述べた。




 「医療と福祉、それと教育は日本の二大基幹産業。そこに安易な競争原理を持ち込むのは疑問」と邉見氏は述べる。だが医療費抑制政策のもとで「地方の自治体病院はしんどい。柱になってほしい30代の医師が辞めていく。でも、私たちが下を向いていても雰囲気が暗くなるだけ。元気な地方の街づくり、病院作りにもっと取り組んでいくべきだ」と、固い決意を露わにした。

病院を地域のコミュニティセンターとして活用する

 兵庫県赤穂市の赤穂市民病院では地域のコミュニティセンターとしての役割を担うため、住民参加型のイベントなどを通じて地域住民との交流を深めているという。「恒例の赤穂市民病院祭りは今年、約5000人が参加した。また患者らを交えてのコンサートや絵画展、院内でのカルタ大会なども随時開催している。住民ボランティアも170〜180人近くを数える。その方たちへ感謝の気持ちを込めて、手話教室なども開いている。老健施設もあるが、病院全体を自宅に近い形にしたいというのが私の考え。患者にとってもスタッフにとっても楽しく明るい病院にしたいと頑張っている」と邉見氏は話す。

 「日本の病院はもっと胸を張っていい。医療費削減といわれるが、国民負担率は諸外国と比較して低い。そのような中で、平均寿命、健康寿命、乳幼児死亡率の低下、コストパフォーマンスなどは世界トップの水準にある」と強調。国は医療費抑制傾向を強めるが、その中身をもっと議論すべきであるという。

 「たとえば、透析患者。現在の医療技術水準であれば、癌や心不全にでも罹患しない限り、長生きは可能だ。そのような患者が全国で26万人いる。そのなかには深夜透析や土日透析をして懸命に働いている人も多い。そこに一兆円の医療費が投じられている。少子化で労働力不足が課題とされる中で、この一兆円は無駄な医療費といえるのだろうか」と、首をかしげる。

 「医療・福祉、そして教育は日本の二大基幹産業。安易に競争原理を持ち込むのはおかしい」。

医療ITの推進も地方病院活性化の鍵になる

 邉見氏は、「地方病院が生き残るにはIT化が必須」と述べる。赤穂市民病院では、1998年にオーダリングシステム、2003年に電子カルテシステムを導入している。「予防重視の治療や患者へのアカウンタビリティを推進する上でも、また働く者にとって魅力ある職場作りという観点でも、情報基盤を整備することは時代の流れである」という。

 邉見氏は、行政に対する働きかけについても言及した。「厚生労働省の諮問機関である中央社会保険医療協議会(中医協)の場にも変化の兆しが見えつつある。ひとつは、協議会の中に医療事故で死亡した患者の遺族代表が入ったこと。その方々は、非常によく勉強している。遺族が参加することに反対意見もあったが、我々医師はよく話しを聞かないといけない」。

 さらに、国内の病院の約9割、病床数で95%をカバーするという、11の主要病院団体からなる日本病院団体協議会(日病協)が厚生労働省に提出した『平成18年度診療報酬改定 統一要求』では、医療費抑制政策の転換を求めている。要求項目は、『医療安全への点数評価』(日本病院会)、『手術の施設基準による診療報酬逓減制の廃止』(全国自治体病院協議会)など12項目にのぼる。

 その中に『診療記録管理体制加算』(全日本病院協会)があり、「ここに医療ITが絡む。IT加算は微々たるもので、十分なインセンティブにならない。もう少し考えてほしい」と語気を強める。

 なお、日本医師会は医療IT推進には反対姿勢を示しており、今後さらなる議論が必要のようだ。「中医協では財源を保険から出すのはなく財務省が出すべきという意見もあったが、一理ある。いずれにせよ、あくまでも患者の視点から検討することが大原則だ」と語った。(まとめ:柏崎 吉一=ライター)

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