医療IT推進シンポジウム:厚生労働省大臣官房企画官・大島一博氏

保険制度を含めた医療分野全般でのIT活用に期待

 日本人の高齢化が進んでいるにもかかわらず、急性期医療の担い手である医師や看護師が慢性的な不足傾向にある。このままでは高齢者数がピークを迎える2050年頃までに、日本の医療は破綻しかねない。6月25日に行われた「医療IT推進シンポジウム」の基調講演で厚生労働省大臣官房企画官の大島一博氏は、スピーディーな医療改革の必要性を改めて強調するとともに、変革期を迎えた医療におけるIT活用の方向性を示した。




 「国立社会保障・人口問題研究所」の調査などによると、2025年に第一次ベビーブーム世代は75歳以上を迎え、2200万人に達する見通しだ。大島氏はまず、「認知症の高齢者数は現在の2倍以上の400万人になるともいわれる。現在30兆円の医療費のうち、75歳以上の高齢者医療に充てられる分は3分の1だが、2050年には2分の1まで増加する」と指摘した。

 死亡者数も、高齢化に伴って増えるのは避けられない。「第一次ベビーブーム世代は、2040年には90歳以上になり、年間166万人が死亡する」と大島氏は続ける。これは現在より60万人程度多い数字だ。

 「今日、死亡する場所の内訳は病院8割、在宅1割だが、この比率でいけば、急性期病院の役割の中で、看取りが大きな割合を占める。死因の多くは脳卒中、心筋梗塞、肺炎、認知症などで、医療の内容自体も変わる。特に都市部で、今後30年間は高齢者医療のあり方が問題になる」と指摘した。

 2008年度「医療費適正化対策」によれば、日本の保険医療行政は、これまでの患者負担引き上げ対策から、医療費増加の根本要因に対処した伸びの抑制策、医療の質や患者・国民のQOLの向上にかなう対策へと舵を切った。

 その柱のひとつが、予防医療の重視。2008年4月からは、医療保険者による基本検診と個別保健指導を義務付けている。

 もうひとつが、医療と介護の役割分担、在宅ケアの重視。長期医療保険病床の介護保健施設への転換や、在宅医療に24時間対応できる診療所の制度化だ。

急性期の拠点病院を中核に各種機関の連携が必要

 医療現場における改革についても、行政として取り組むべき課題は多い。

 「相次ぐ医療事故を背景に、特に急性期病院の医師、看護師が萎縮している。患者からの信頼回復には、まず病院機能の役割分担が重要。急性期の拠点病院を明確にし、人材と財源を重点的に投下すべきだ。勤務医の厳しい労働環境の改善も図らなければならない」。

 機能・役割の分担については、「拠点病院以外は、たとえば高齢者が肺炎に罹患したり、脱水状態に陥ったりした時、あるいはリハビリ期の受け皿として、各機関間の連携した対応が期待される。診療所(開業医)については、一時的な地域医療の窓口、休日・夜間における一次救急の対応、臓器別ではない総合的・全人的な診療や家族支援が求められる」。

 さらに、「医師らの萎縮を防ぐための死因究明制度や医療紛争処理制度の整備も必要。これについては警察とは別の組織が必要ではないか。労働環境の改善では、医師と医療関係職、事務職との役割分担が大切だ。地域の魅力ある中核的病院を利用するなど、大学の医局を補完する新たなキャリアアップシステムや医師の配分機能も検討していきたい」とした。

 医療のIT化については「診察面のみならず、保険制度を含めて医療分野全般におけるIT活用の期待は大きい」。レセプトや健康診査結果などの自己情報の個人による管理、電子化されたデータに基づく診療報酬単価設定や疫学利用といった公益的利用、保険手続きの簡素化と保険サービスの向上、保険資格の窓口確認や二重加入・未加入の防止に資する保険制度の適正運用……などを挙げる。

 医療IT浸透に必要な基礎的要件については、「レセプトや健康診査結果の電子化およびデータベース化については来年以降順次スタートし、医療機関・審査支払機関・保険者間のオンライン接続も2010年度開始のメドがつく。ただ、保険者共同の被保険者資格データベース、情報の自己管理のためのICカード、保険者共通の被保険者番号などは、セキュリティの確保や国民の総背番号制に対する抵抗感の解消などが前提条件となる。一方、労災や雇用保険を含めた社会保障制度全般を視野に入れた発展形態については、今年度くらいにスケジュールを固めたい」とした。(談話まとめ:柏崎 吉一=ライター)

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