名古屋大学医学部附属病院:非常時に運用する電子カルテ代替システムをユーザーメードで開発

BCPのシステムとしての役割も担う

 名古屋大学医学部附属病院(以下、名大病院)は、2012年1月に新たな総合病院情報システムを稼働させた。システム更新のために12月30日から1月2日までの3日間、電子カルテの運用を停止するのに伴い、その代替システムとしてFileMakerによる電子カルテ停止時システムを開発・運用。オーダーなど一部は紙運用を行ったものの、カルテ記録は平常時と同様なオペレーションにより混乱なく診療を継続でき、新電子カルテシステム稼動とともにデータは引き継がれた。この電子カルテ停止時システムは、災害時等の病院情報システムのBCP(事業継続計画)の一部として機能する実証も得たという。
 


 

 名大病院の総合病院情報システムは、電子カルテシステム(NeoChart、富士通中部システムズ)を基幹として、FileMakerによるユーザーメードの各種システムと連携する構成をとっている。2007年稼動の第5次総合病院情報システムでは、医療業界で初めて富士通製基幹サーバーのPRIMEQUESTを導入し、サーバーから端末内部まで完全二重化した。加えて、データベースにInterSystems Cachéを採用し、それと同期しながら稼動するFileMakerシステムを導入、といった新しい取り組みがなされていた。

基本構造から見直した電子カルテシステム「NeoChart」の画面

 
 新たな第6次総合病院情報システムでは、VMwareによるサーバーの仮想化に取り組んだほか、NeoChartのアプリケーションをすべて見直し、.NET Frameworkによって最新化した。「安定稼働している基幹アプリケーションの構造変更は通常行いません。しかし今回は、使い勝手とレスポンスの向上のために、あえて富士通中部システムズとともに基本構造の刷新に取り組みました」。メディカルITセンター長の吉田茂氏は、新システムにおけるチャレンジをこう述べる。
 

今年1月に稼働した新総合病院情報システムは、名大病院の第6次システムとなる

 
 この刷新により、電子カルテ端末画面のワイド化に対応できたのをはじめ、アプリケーションのマルチウインドウ化、レスポンスの高速化を実現。「過去10年に及ぶ数万件の診療記録がある患者さんのカルテデータも、瞬時に呼び出せるようになりました。おそらく現時点では、“日本最速の電子カルテ”だと自負しています」(吉田氏)。
 
●システム更新時に通常診療を実現できたバックアップシステム
 

名古屋大学医学部附属病院 メディカルITセンター長の吉田茂氏

 電子カルテシステムの更新時には、システムを数日間停止する必要が出てくるケースが多い。診療・業務を継続しなければならないので、現場のスタッフはもちろん、医療情報部門にも多大な負担がのしかかる。名大病院は今回のシステム更新に際して、3日間のシステム停止が必要だった。吉田氏は「5年前の更新時とは比較にならない不安がありました」と告白する。

 というのも、2007年以前はまだ手書き伝票が残っていたため、更新時に一時的に紙運用に切り替えても、混乱なく業務を遂行できたのに加えて、第4次システムが年に数回システム障害を起こし、元に戻るまでの間紙による運用を実施していたので、職員もシステム停止に慣れていた。

 「ところが、電子カルテ導入から10年が経過し、第5次システムは過去5年間システム停止を伴う障害を一度も起こさなかった。そのため、手書による記録や処方せん発行、各種オーダー伝票発行の経験がないスタッフが多くなりました」(吉田氏)。システム停止に不安を抱いた吉田氏が開発したのが、更新期間にほぼ通常業務が行えるFileMakerベースの電子カルテ停止時システムだ。

 名大病院では、各診療科・部門で開発・運用しているFileMakerによるアプリケーションが40数種類に上る。それらアプリケーションのポータルとして機能している「名大の森」は、電子カルテのデータベースと連携・同期しながら稼動しており、患者データをはじめ、職員、病名、薬剤、検査、病棟など各種マスターをFileMaker側で保持している。これら電子カルテの根幹となるデータをFileMakerで利用できる環境にあったため、電子カルテ停止時システムのアプリケーション開発はわずか10日ほどで済んだ。

電子カルテ停止時システムのログイン画面

 電子カルテ停止時システムは、起動画面からカルテ記載画面、入院患者一覧画面など従来の電子カルテ画面とまったく同じレイアウトで並んでいる。起動画面の利用者IDやパスワード入力フィールド、ログインボタンの位置も同じなら、利用者ID/パスワードを入力してエンターキーを4回押すとログインする操作も、従来の電子カルテと同じ。カルテの記事入力、処方せん・注射せん、その他各種オーダー操作など、すべて電子カルテと同じオペレーションができる。

 処方オーダーは薬剤名の頭3文字を入力すれば薬剤マスターから検索・一覧できるし、注射オーダーでは電子カルテ停止直前までのオーダーデータを保持しているためDoオーダーも可能。入院患者の移動オーダーは、転棟指示するとオーダー履歴が病棟マップ情報に反映されて更新されるなど、細かな点にでも電子カルテと同じ動きをする。

 「電子カルテ停止時システムの運用では、利用者に対する操作講習会は一切行いませんでした。通常利用している電子カルテと見た目も操作感も同じにすれば、業務が滞ることはないと考えたからです」(吉田氏)。電子カルテ運用と異なる点は、入院患者の処方オーダーの際に紙の処方せんを印刷して転送したこと、開発時間がなかったため放射線オーダーの紙伝票形式での運用を行ったこと、この2点だけだという。
 

電子カルテ停止時システムのカルテ記載画面。第5次システムの電子カルテとほぼ同じ見た目と操作感を実現した

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