南三陸診療所(宮城県南三陸町):クラウド環境で実現した被災患者の循環器リスク予防

遠隔支援と血圧データ管理、限られた医療資源で効率的な医療を提供

東日本大震災の津波で被害を受けた公立南三陸診療所(宮城県南三陸町)と自治医科大学は、被災者の循環器疾患のリスク評価と発症予防のために、2011年5月からクラウドを利用した災害時循環器リスク予防(Disaster Cardiovascular Prevention = D–CAP)システムを運用している。循環器疾患リスクの高い被災患者を対象に、家庭血圧計と診療所に設置した血圧計からデータをクラウド上のデータセンターに送信。自治医科大による遠隔医療支援を受けて、現地診療所で高血圧のコントロールと治療を実施し、成果を上げている。
 


 

イスラエル軍所属医療団が残していったプレハブで診療している公立南三陸診療所

 D–CAPプロジェクトは、自治医科大学循環器内科学部門主任教授の苅尾七臣氏が主導し、インテル、エー・アンド・デイ、アライヴ、トッパン・フォームズ、パナソニック、菱洋エレクトロ、キュートの7社が、復興支援のためのボランティアとして参画している。循環器疾患の発症リスクが高い被災者を見つけて、心筋梗塞や脳卒中などの発症と死亡を抑制することが目的。苅尾氏が考案したリスクスコアを計算する方法を採用し、システムを利用してその評価と被災者の血圧のモニタリングを遠隔で実施。南三陸診療所の医師と共同でハイリスク患者への積極的な医療介入を行っている。
 

X線撮影装置もプレハブ棟で運用されている

 プロジェクト開始当初は、南三陸町最大の避難所だったベイサイドアリーナ、南三陸ホテル観洋の2カ所に据え置き型全自動血圧計を設置した。測定で非常に血圧の高い人、約50人に上腕巻き取り巻き付け型の全自動血圧計を渡して家庭血圧測定を指導。避難所での測定データは、Bluetooth通信で小型のゲートウエイサーバーを介してデータセンターのシステムに自動的に転送。被災者に配布した血圧計で測定・蓄積されたデータは外来診療時にPCに取り込まれ、データセンターにアップロードされた。全自動血圧計やゲートウエイサーバー、患者認証用のICカードリーダーなどは、インテルなどが提唱している健康・医療情報の通信・相互運用のための国際的共通規格であるコンティニュア規格に準拠した製品で構成されている。

 避難所がすべて閉鎖された現在は、南三陸診療所に据え置き型血圧計を設置(2台)しているのに加えて、被災者に約260台の携帯型血圧計を配布して家庭で測定してもらっている。こうして、循環器疾患の管理を継続実施している。

●災害時の循環器リスク予防スコアを基に疾患管理を徹底

自治医科大学内科学講座循環器内科学主任教授の苅尾七臣氏

 脳卒中や心筋梗塞など重症の循環器疾患は、災害時の被災者の多くが発症する危険があるとされる。阪神淡路大震災が起った当時、震源地近くの診療所(淡路島・北淡町)で診療にあたっていた苅尾氏は、心筋梗塞や発症後24時間以内の突然死、脳卒中の発症頻度が震災後3カ月にわたって上昇傾向にあったことをつかんでいたという。地震による被害の程度、それによるストレス、さらに避難所暮らしなどの生活環境の悪化が循環器疾患発症のリスク要因になるためだ。そうした研究を踏まえて苅尾氏は、災害時の循環器リスク予防スコアを作成した。

 スコアは、リスク要因として年齢(75歳以上)、家族や家屋の被害状況、高血圧(収縮期血圧160mmHg超)など7項目(7点)、予防として睡眠の改善、運動の維持、血栓予防、血圧管理など8項目(8点)からなる。リスクスコア4点以上をハイリスク群と見なし、予防スコアが6点以上になるよう環境改善と血圧コントロールしていくことで循環器疾患の発症を抑制しようというものだ。

 
 

苅尾氏が阪神淡路大震災の経験をもとに考案した循環器のリスクスコア・予防スコア



   「災害で家族を亡くしたり、家屋が全壊したり、これまで暮らしてきたコミュニティーが消失したりすると、その精神的ストレスからリスクが一気に高まります。加えて、避難所暮らしで十分な睡眠や良質な食事を維持できない環境が、さらにリスクを高めます。これらが極度の高血圧症を招き、循環器疾患の発症の大きな原因となります。リスクスコアでハイリスク患者を同定し、被災者の生活環境改善に努力してもらうと同時に、積極的な医療介入によって予防スコアを上げていくことが重要です」(苅尾氏)。それを効率的・効果的に実施していくための支援ツールとして構築したのが、D–CAPシステムだという。

被災した公立志津川病院。左手の新館5階を除いて津波に呑み込まれ、75人の入院患者、職員が犠牲になった

 システム構築のきっかけは、東日本大震災発生の2〜3週間後に南三陸町、石巻市、気仙沼市の避難所で暮らす約380人の被災者を対象に実施した最初のD–CAP評価だった。「フィールド調査でアンケートと血圧測定を行ったら、4人に1人が血圧180以上という結果が出て、驚愕しました。そうした状況を看過できないという思いに駆られ、ともかく血圧管理を徹底しようと医療用血圧器メーカーの担当者に連絡しました」(苅尾氏)。それをきっかけに医療機器やITベンダーなどの担当者が急遽集まってプロジェクトが立ち上がり、南三陸町の被災者を対象に実施していくことになった。

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