阪神北広域こども急病センター(兵庫県伊丹市):iPadを用いたトリアージシステム構築

看護師が迅速に治療優先度判定、医療サービス向上を実現

 兵庫県伊丹市の阪神北広域こども急病センターは、夜間・休日の小児初期医療を担う施設として2008年4月に開設された。大きな特色は、来院時のトリアージ(重症度による優先度判定)を看護師が主体となって実施していること。夜間・休日診療では、限られた医療スタッフで医療サービスを提供する必要があり、看護師によるトリアージの貢献度は非常に高いという。そのトリアージを迅速かつ効率的に実施することを目指し、FileMakerによる独自のトリアージシステムを構築。iPadやiPod touchを活用して利便性を高めている。
 


 

病院のロビーの様子。子供に安心感を与えるよう内装を工夫している

 阪神北広域こども急病センター(以下、こども急病センター)は、夜間・休日に小児初期救急医療サービスを提供する目的で、2008年4月に開設された。兵庫県伊丹市、宝塚市、川西市、猪名川町の3市1町と県、3市医師会の相互協力により設立された阪神北広域救急医療財団が運営している。入院施設を持たず、開設以来、小児内科を中心とした初期救急を担い、2次、3次救急施設の負担軽減という意味でも重要な役割を果たしている。センター長と2人の常勤医に加え、3市医師会の医師約60人と、近隣の大学病院の研修医約40人により、365日稼動している。

●夜間・休日の初期救急で要となる看護師によるトリアージ

理事長の中村肇氏

 「従来、3市1町の夜間・休日診療は、地元の病院が輪番制で担当していました。しかし、軽症の患者も、本来は2次救急を担う市立病院を利用するケースが多く、特に4人の小児科医が在籍していた伊丹市立病院などではパンク寸前状態。過重労働から転職する小児科医も出て、地域の小児医療が揺らいでいました。そこで地元医師会と県の要請を受け、広域で小児の初期医療を担う当センターが開設されました」。神戸大学医学部附属病院長、兵庫県立こども病院長などを歴任し、財団設立とともに理事長に就任した中村肇氏は、こども急病センター開設の背景をこう述べる。

 中村氏は、夜間・休日の小児初期医療を、「患者も日替わり、医師も日替わりという環境の中で提供されるニッチ医療だ」とし、「成功させるためには、地域ネットワークの形成や子育て支援など住民への働きかけとともに、看護師による診療支援体制の構築とIT化による医療の標準化が重要」と指摘する。その具体的な取り組みが、開設時から実施している看護師に来院時トリアージと、FileMakerによるトリアージシステムや夜間・休日診療に特化した電子カルテシステムの構築だ。

 トリアージは患者の初期評価法の1つ。「子どもは主訴の把握が難しく、非定型的な訴えが多いのが特徴です。重篤そうに見えて軽症だったり、軽そうに見えて深刻な状況だったりします」と述べるのは看護師の川村桃子氏。「症状を評価して治療の優先度を決め、重症者の診療待ちを短縮するとともに、当院で対応できない重篤例をいち早く、2次救急施設など適切な医療機関に送る上で、看護師によるトリアージは効果を上げています」と指摘する。こども急病センター開設と同時に着任した川村氏は、開設後まもなく小児救急看護認定看護師の資格を取得した。有資格者は全国で約110人、兵庫県内ではわずか7人。特に同院のような初期救急施設では希な存在だという。

 看護師によるトリアージの取り組みについて中村氏は、「初期救急では(災害現場などと異なり)、治療開始を緊急に判断する必要はほとんどありません。一方、対応できる医師数が限られているので、看護師が来院後すぐに患者に声をかけ、状態を把握する意義は大きいと思われます。医師による診療を効率化できると考え、当初から導入しました」という。

iPod touchでの操作画面例(1)

 

iPod touchでの操作画面例(2)

 

●小児初期救急の現場に合ったトリアージシステムをFileMakerで構築

 トリアージは、全身状態の評価、来院の理由と簡単な病歴、生理学的評価のステップで行い、患者を「蘇生」「緊急」「準緊急」「非緊急」の4段階に振り分ける。こども急病センターでは、国立成育医療研究センターのガイドラインをベースにして、初期救急に応じた独自の評価基準を作り運用している。「入院が必要な患者さんをすぐに後送することが使命の1つなので、迅速な他科受診が必要な場合は、成育医療センターのガイドラインよりも診察の優先度を上げています。また、盲腸や腸重積、あるいは3カ月未満の乳児については、他院転送が不可欠なので、自動的に緊急度を上げるようにしています」(川村氏)という。

 トリアージのフローと評価判定には、主に全身状態の評価に用いられる「小児評価トライアングル」(PAT)という手法とバイタルサインを用いている(図参照)。PATは、外観からうかがえる全身状態(アピアランス)と呼吸、皮膚への循環状態という3つの要素から判断する。また、バイタルサインとしては、体温、心拍数、呼吸数、SPO2(経皮的酸素飽和度)、血圧を指標にしている。これらと症状や発症歴、アレルギーなどの問診情報を基に判定支援を行うのがFileMaker版トリアージシステムである。

 開設当初は、導入した電子カルテシステム(パッケージ版)のトリアージ機能を使ったが、機能的に十分ではなかった。また、デスクトップPCで運用したため、問診室に患者を誘導する必要があり、患者の負担が大きかった。結局、紙ベースで運用してきたが、2009年の新型インフルエンザ流行時に患者数が急増、対応に苦慮するようになったため、2009年7月にFileMakerで開発したシステムに移行した。
 
 FileMakerを選定した理由について中村氏は、「コストをかけず、現場に合ったシステムを容易に開発できるから」と指摘する。中村氏自身、神戸大学在籍時から研究データの整理にFileMakerを利用しており、さらに以前勤務していた兵庫県立こども病院でも医療情報システムとして用いていた。中村氏は、「日本ユーザーメード医療IT研究会」(注)の発足時から役員を務めていて、FileMakerなど市販のソフトを使った医療ITの開発に積極的にかかわってきた。

●使いやすさを求めてiPad/iPod touchによる運用を開始

 こども急病センターで2009年7月に稼動したFileMakerベースのトリアージシステムは、FileMaker Serverと、FileMaker Proをインストールした富士通のタブレットPC「LOOX」で運用を開始した。

阪神北広域こども急病センターでのトリアージのチャート図

 

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