北海道大学・ツルハ:ICTを活用した遠隔健康相談の実証実験を実施

継続的にサービスを続けられるビジネスモデルを模索

 「コンティニュアは、測定データを相談員がすぐに参照できることがポイントです。USB接続の場合は、データを取り込む際に手動でアプリケーション起動を行う必要がありました。しかしコンティニュアは、測定後瞬時にデータが自動でアプリケーションに取り込まれてポップアップ表示されるので、余計な操作が不要です。また、オムロン社製の血圧計が2人分のデータを個別管理できる仕組みだったので、電源投入・使用者選択などと4回ボタンを押さなければなりませんでした。診之介の場合は、待機電源時であれば1回のボタン操作で完了します。相談者が簡単に操作できるという点で、遠隔健康相談システム向けと言えます」(岩丸氏)。

●相談者の満足度は高く「街の保健室」として一定の成果

ブースの外観(ツルハドラッグ元町駅前店で撮影)

 実証実験では、2010年3〜4月に道内にあるツルハドラッグの中標津東店(中標津町)、岩見沢大和店(岩見沢市)、元町駅前店(札幌市)の調剤薬局を併設する3店に遠隔健康相談システム端末を設置して開始した。3店を選定したのは、過疎化が進む地域(中標津)、大都市部(札幌)、その中間的な市部(岩見沢)、という特徴の異なる地域における健康相談者のデータを収集・分析するためである。当初、3カ月の予定で始められた実験だが、期間を大幅に延長した。12月には実証実験を拡大し、恵み野西店(恵庭市)と北海道以外では初となる小竹向原店(東京都板橋区)の2店に追加設置した。

 実際の遠隔健康相談は、まず相談者から実証実験協力のための同意書を取り、店舗の薬剤師が利用方法や内容の説明を行った上で、ブース内のシステム端末の前に座って北大保健科学研究院の保健師(相談員)と遠隔相談を開始する。通常血圧の測定を実施し、喉頭炎や口内炎などがある場合はハンディカメラを使って患部を撮影するなどして、相談員と情報を共有しながら健康管理、食事指導などを実施する。場合によっては、受診のためのアドバイスなどを行う。

 相談員が入力した指導内容や取り込んだ血圧データは、大学側から操作して店舗ブースのプリンターから印刷して渡せるようになっている。健康相談終了後に、相談者は性別・年齢・家族構成、居住地から店舗までの距離、相談内容とアドバイスに対する満足度、機器操作についてなど15項目に及ぶアンケートに回答。これに、プリントアウトされた内容などを加えて店舗の薬剤師に提出し、アドバイスを受けることができる。
 

北大内にあるブースの様子。依頼のあった店舗のブースを画面に映して健康相談を実施する

 実験開始から約8カ月で、遠隔健康相談を利用した人は約130人。相談時間は、当初の予定を上回り、1人30分を超えるケースもある。「保健師や看護師が、まず気軽に話してもらえる雰囲気づくりをして、その後に相談者が抱えている問題の本質を引き出すのですが、そこにたどり着くまでに時間を要しているようです。」(小笠原氏)。

 これまでの相談結果やアンケート結果を集計すると、相談者の年齢層は30代・40代が全体の3分1で、20代を加えた50歳未満が4割と、若い年代層の相談者が多いという印象を受ける。「実証実験の主要ターゲットがメタボ予備軍だったので、その点では計画通りの結果」(小笠原氏)という。岩見沢大和店に関しては、岩見沢市が協力して高齢者の健康相談を推奨しているため、60〜70代の利用率が高い。相談内容は、体調管理が66%を占め、特定の疾患に関する相談も多い。一方、後藤氏によると、元町駅前店の上階には保育園があるため、園児を迎えに来た母親が育児相談、発育相談に利用するケースも目立つという。

 相談者の全体的な傾向を見ると、健康に関する関心が高い人がより健康管理の上でより具体的なアドバイスを求めるケースと、何らかの不安を抱えながら病院に行きたくない、あるいは病院に行くかどうか悩んでいて相談に訪れるケース、この2つに分類できるという。後者については、「診断にならないよう注意しながら受診を勧め、適切な診療科のアドバイス、公平な立場での病院紹介などを実施しています」(小笠原氏)。

デジタル血圧計や患部などを撮影するハンディカメラ

 満足度については、約半数が「とても満足」と回答しており、「やや満足」を加えると9割近い相談者が満足している。小笠原氏は「相談場所へのアクセスの問題はありますが、地域住民の方の健康意識をどう変えていくか、健康不安を抱えないよう相談できる『街の保健室』という環境づくり、システムづくりが当初の目的。その意味で、実験進行中ながら一定の成果を出せているのでは」と評価している。

 店舗側から見た場合、設置場所の問題がある。等身大を表現できる大型画面を使用して現実感や臨場感を持たせるという目的があるため、現在は37インチの大画面を設置している。しかし運用の現実面を考えると、高品質な映像を確保できれば大画面は必ずしも必要でないという意見もある。そこで、新たに追加した実験店舗では、IPフォンと一体化した小型のデスクトップ型端末を導入した。

 ツルハの後藤氏は「実証実験ということもあり、相談者のプライバシー保護のため完全に囲われたブース内で相談する環境にしていますが、利用者は密室に入るという抵抗感もあるようです。調剤カウンターで患者さんに処方薬などを説明する日常的な業務を考えると、顔が隠れる程度の大きさのパーティションがあれば、ある程度オープンな環境でもプライバシー的に問題はないのでは。実際の運用ではコスト面も問題になりますから、スペース的にも利用説明をする上でも調剤カウンターの脇に設置できる省スペース型でよいのでは、と考えています」と、小型のデスクトップ型端末への期待を述べる。

●継続運用に向けたビジネスモデルを模索

IPフォンと一体化した小型のデスクトップ型端末を設置している様子(ツルハドラッグ恵み野西店・北海道恵庭市で撮影)

 これまでの実証実験では、テレプレゼンスを活用した遠隔健康相談の有効性が明らかになりつつある。ただし、実際の運用では継続性の観点からビジネスモデルをどう構築するかが大きな課題となる。「会社の理念の下、『ドラッグストアのヘルスケアホットスポット化』を目指しているとはいえ、赤字の垂れ流しでは継続は不可能。何らかのビジネスモデルで収益を上げることが重要でしょう」(後藤氏)と指摘する。その1つとして同社は、自己採血による健康管理の実証事件を開始し、その結果を遠隔健康相談と連携させようという試みを行っている。

 2010年10月に始めた「自己採血で自己管理」と称するサービスは、来店者が薬剤師の指導のもと、自己採血と51項目にわたる健康生活調査(アンケート)に回答し、検査機関の結果と医師の所見や食生活・運動などに関するアドバイスを利用者にフィードバックするもの(実証実験期間中は2625円で実施)。「自己採血の結果に基づいてHNSで遠隔健康相談を受けられれば、相談内容をこれまで以上に充実させることが可能でしょう。今後は、自己採血サービス以外にもさまざまな自己検査キットによるサービスの提供と、遠隔健康相談とをセットにしたビジネスモデルを模索していきたい」(後藤氏)と語る。

 利用者アンケートでは、有料化した場合1回いくらなら支払うかという設問に、使用料300円なら約5割、同500円では約3割、同700円では約2割5分の人が「確実に払う」と回答している。一方、「払わない」と回答した人は、同700円では約2割5分、同300円および500円では1割だった。「現状の健康相談のみでは実質的には徴収は難しいでしょう。専門性の高い相談であれば、相談料徴収の可能性もあると考えます」(小笠原氏)。北大保健科学研究院は、あくまでもインキュベーターという立場だが、どのような運営組織によるビジネスモデルが成り立つか探っていく必要があると認識している。

 有力なモデルの1つが、特定保健指導の枠組みの中に遠隔健康相談を組み入れるケースだという。「実際に、ある健康保健組合から具体的な相談も受けており、実施モデルの構築に向けて検討しています。その他にも、スポーツクラブや温泉施設などの一部に組み込むこといったことも考えられます。北海道内のある町立病院の先生から、町内にある温泉施設に健康相談ブースを置いたらどうかという話もいただいています」(小笠原氏)と、さまざまな実施・運営モデルを模索している。

 一方、医療者の地域偏在を解消する1つの方法として、出産・育児で離職した看護師や保健師の有効活用として遠隔健康相談システムに組み込むことも考えている。現在、相談員側はヘルスサポートセンターに常駐する形式。しかしシステム上は、IPコールセンター方式を採用して、在宅の相談員にインターネットを介して相談者を振り分けることは可能である。これが実現すれば、相談員は自宅で相談業務を実施できる。ただしそうしたモデルでは当然相談員の報酬が必要になるので、やはり収益を確保できるビジネスモデルが重要となろう。

 最後に小笠原氏は、「今回の実証実験を通して、ツルハドラッグ、地域住民、シスコシステムズのそれぞれがWin-Winの関係になることが大切。どのようなビジネスモデルでも、継続的な運用をしていくためには、関係者がお互いにメリットを享受できる仕組みが必要です」と結んだ。

(増田克善=日経メディカルオンライン委嘱ライター)


■実証実験実施者概要
名称:北海道大学 大学院保健科学研究院
所在地:北海道札幌市北区北12条西5丁目(北海道大学内)
設置年:2008年4月1日
北海道大学における第17番目の大学院組織として設置。医学部保健学科や看護学部などを卒業した医療専門職者(看護師、保健師、助産師、診療放射線技師、臨床検査技師、理学療法士、作業療法士など)を主な入学対象者とする研究教育組織。
Webサイト:http://www.hs.hokudai.ac.jp/

名称:株式会社ツルハ
本社所在地:北海道札幌市東区北24条東20丁目1番21号
設立:1975年5月
ツルハホールディングス傘下のグループ会社とともに全国930店舗(うち調剤薬局は208店舗)、北海道では354店舗(調剤55店舗)を展開。
Webサイト:http://www.tsuruha.co.jp/

導入システム:シスコシステムズ「Cisco HealthPresence」

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