事例研究:三重大学医学部附属病院

最新の医薬品情報を提供するシステム基盤を整備し
病棟業務と調剤業務のさらなる拡充と連携をはかる

 三重大学医学部附属病院では、従来、紙ベースだった院内医薬品集のオンライン化に着手。最新の情報を各診療科の医師や看護師が入手できるプラットフォームを整備している。「薬剤師は、病棟における薬剤活動を通じて、患者や医師からもっと“見える”存在にならなければいけない」と述べる同院薬剤部長の奥田真弘氏を筆頭に、薬剤部では、服薬指導などの病棟業務や調剤業務の強化にも活用。薬剤部の担う役割と、今後の医療におけるあり方を聞いた。




安全な医療を支える正確な医薬品情報の提供


薬剤部長の奥田真弘氏

 製剤試験室 注射薬品製造室の薬剤主任 村木優一氏は「病棟業務においては、患者一人ひとりの症状や容態に適した医薬品の投与などの服薬指導が求められている」と述べる。

 現在、ほぼ全ての病棟に、病棟担当薬剤師が配置される。一人の薬剤師が担当するのはおよそ40床。2005年1月に導入した電子カルテシステムを用いて、患者の情報を確認して服薬指導などを行う。

 同時に、抗がん剤の調製や、ICUにおける緊急度の高い治療に必要な薬の調剤など、薬剤部が手掛ける領域は、より広く深くなっている。しかし、薬剤師はゼネラリストであるとの考えに基づき、全ての病棟担当薬剤師は調剤などの中央業務も兼任している。薬剤部の人員もこれまでの35名から、採用枠を10人ほど増やした。

 こうした薬剤業務の基盤に位置づけられるのが、医薬品情報活動だ。正確かつ最新の医薬品情報の入手と提供は、安全で的確な薬剤業務にとって、なくてはならないものとなっている。

 薬剤部では、各診療科に医薬品の添付情報の改訂や製造販売中止などに関する情報を知らせるための週報「DI Weekly」を発行。さらに、週に一度行われる医師を交えた病棟カンファレンスで、薬剤師が医師や看護師に、直接、情報提供したり処方の相談に乗ったりしている。だが、医薬品情報は日々更新される。


 そこで薬剤部では、よりタイムリーに必要な情報を提供する基盤、オンラインで情報を検索できる医薬品集の導入を、2005年頃から検討してきた。


 「病棟の一員として薬剤活動を行う上で、病院のいたるところで必要なときに調べることができる情報提供プラットフォームは必須だった。その一環で、オンライン医薬品集の院内への浸透は、是が非でも成功させたかった」と村木氏は述べる。


 紙ベースの院内医薬品集には、発行コストと情報の鮮度という2つの問題もあった。「院内でハンディタイプの医薬品集を2〜3年に一回発行していたが、その度に、印刷費が200〜300万円ほどかかっていた。また発行間隔によっては、2〜3年前の古い情報が載ったままになっていた」(薬剤部長の奥田真弘氏)という。


診療科と薬剤部のダブルチェック体制を強化


製剤試験室 注射薬品製造室の薬剤主任 村木優一氏

 「医薬品医療機器総合機構のホームページを参照すれば、電子化された医薬品情報を手に入れられる。だが、院内LAN上に統合し、薬剤部が責任を持って、データを一元管理できない点が不満だった」と村木氏は述べる。

 代わって採用したのが、医薬品情報統合システム「JUS D.I.」である。JUS D.I.は、日本ユースウェアシステム(東京都品川区)が開発したシステムで、医薬品医療機器情報提供ホームページに掲載されている最新の情報を自動更新し、添付文書のすべての内容と添付文書のPDFファイル、薬品の剤形写真、院内医薬品情報などをサーバで一元管理し、院内LANに繋がれたパソコンから医薬品情報が自由に閲覧できるのが特長だ。

 同院がJUS D.I.の運用を開始したのは、2006年3月から。運用管理は当初、村木氏が担当し、2006年10月のバージョンアップ以降は、医薬品情報室 薬剤主任の川瀬亮介氏に引き継いでいる。

 現在のアクセス件数は月3000件ほど。運用開始から着々と増え、診療科への浸透がうかがえる(下のグラフ参照)。いまのところ、医薬品データベースへの同時アクセス数は、契約が5ライセンスなので制限されているが、診療科からの利用頻度が増えて、アクセスしにくい場面が増えるようであれば、アクセス数に制限のない最新バージョン(Advance、Standard)への切り替えも視野に入れている。

JUS D.I. のアクセス数月別推移


 「JUS D.Iのデータベースは、毎朝更新している。週報に間に合わない緊急情報は、Web上に載せて、医師がいつでも閲覧できるようにしている」(川瀬氏)。


 JUS D.Iの導入により、処方する立場の医師の業務の効率化や安全性向上といった面では、どのような変化があったのだろうか。


感染制御部 副部長の田辺正樹氏

感染制御部 副部長の田辺正樹氏

 感染制御部 副部長の田辺正樹氏は、「医師にとって、まず知りたいのは、用法・用量、禁忌、保険適用の有無など。例えば用法・用量などは、十分に注意してはいても、ベテラン医師でさえ間違える可能性がある。独断に陥らないために不明点は薬剤部にすぐ確認をとるようにしている。各診療科と薬剤部のダブルチェック体制によって、安全性をより高めることができる」と話す。薬剤部から診療科の医師への回答も、JUS D.Iの導入によって、迅速になった。

 また、医師が医薬品の情報を得る方法も効率化された。「当院は、人事異動が多いが、新しく赴任してきた医師でも、すぐに院内採用薬かどうかの判定をはじめ、代替できる医薬品などをキーワード検索で即座に一覧できるようになった」(奥田氏)。

「診療科から薬剤部に、薬の臨時採用を依頼する場合、必要な資料を要望書と一緒に提出する必要があるが、その作成にともなう手間も簡素化されている」(村木氏)。

 薬剤部に対する、各診療科からの問い合わせの内容にも変化がうかがえる。

 「添付文書に記載されている内容に関わる質問は減っている。それは、JUS D.I.ですぐに確かめられることが理由だと考えられる。逆に、記載されていない内容、たとえば『この薬を、透析患者に投与する場合の留意点は何か』といった踏み込んだ質問が増えている」と川瀬氏はいう。

オンラインとオフラインの情報を組み合わせる

医薬品情報室 薬剤主任の川瀬亮介氏

医薬品情報室 薬剤主任の川瀬亮介氏

 村木氏は、さらに多くの医師や看護師に、JUS D.I.を利用してもらいたいと考えている。

 「紙の医薬品集の使いやすさに慣れている医師は多い。だが、信頼できる最新の情報が日々アップデートされるオンラインの医薬品集の特長を理解してもらうことは、医療の安全性を高め、患者一人ひとりに適した医療を提供するためにも大切。診療科のニーズをもとに機能や操作性などを改善するとともに、使い方の周知徹底など、薬剤部が解決するべき課題はまだある」(村木氏)。

 医師にとっては、オフライン(紙媒体)の医薬品集も必要だ。ポケットサイズの医薬品集は、携行しやすく一覧性があり、また書き込みしやすいなどの長所もあり、手放せないのが実情だ。

 そこで、現在検討しているのが、院内医薬品集の刷新だ。現時点では計画段階だが、同院では現在、半年に一度、約1400の院内採用薬に関係する情報を、JUS D.I.の機能を活用して編集し、簡易印刷後、配布するアイデアも温めている。実現すれば、コストを抑えつつ、情報の鮮度は高まりそうだ。年6回開催される院内の薬事審議委員会で決定した内容についても、タイムリーに盛り込める。さらに、最新の情報が必要であれば、オンライン医薬品集で検索すればよい、というイメージだ。院内の医薬品情報が次第に整流化されてきた。

患者が安心して相談できる情報ステーションを目指す

 同院では2010年をメドに、院内システムの大規模な更新を予定している。その次期院内システムでは、電子カルテシステムとオンライン医薬品集のより緊密な連携も検討する。緊急情報をアラートとして画面に表示する仕組みも取り入れ、いっそうの安全性の向上を図るほか、シェーマをスキャナーで取り込むなど、電子カルテの内容充実と普及も図っていく考えだ。

 「電子カルテ、オーダリング、会計システムなど散在するデータベースの統合により、データの整合性をさらに高めていく」と奥田氏は述べる。

 こうした情報基盤の上で、薬剤部が院内における情報ステーションとしての機能を提供したい、と村木氏は将来を見据える。「院内のよく見える場所にカウンターを設け、医師や看護師がいつでも情報を入手できるようにする。プライバシーと風通しの良さに配慮した、患者が気軽に相談できるコミュニケーションの場を提供したいと考えている」(村木氏)。いままさに、その構想が実現に向けて動きだそうとしている。(柏崎 吉一=ライター)



■病院概要
名称:三重大学医学部附属病院
住所: 三重県津市江戸橋2−174
病床数:一般:685床
Webサイト:http://www.hosp.mie-u.ac.jp/index.html
システム開発・導入:日本ユースウェアシステム(東京・品川)
総販売元:スズケン




ページの先頭へ戻る

関連記事

Information PR

ログインしていません

もっと見る

人気記事ランキング

  1. トイレにこそ、人間の尊厳がある Dr.西&Dr.宮森の「高齢者診療はエビデンスだけじゃいかんのです」 FBシェア数:479
  2. 「どうしてこんな急に!」急変時の家族対応は 平方眞の「看取りの技術」 FBシェア数:12
  3. 輸液の入門書 医学書ソムリエ FBシェア数:0
  4. オピオイドの用量調節とスイッチングの基本方法 国分秀也の「ゼロから学ぶオピオイド」 FBシェア数:105
  5. わいせつ容疑の外科医、初公判で無罪を主張 「乳腺科医のプライドにかけて無罪を主張します」 FBシェア数:582
  6. 「真面目なメンタルケア」が真面目ちゃんを苦しめる 研修医のための人生ライフ向上塾! FBシェア数:0
  7. 難治性皮膚潰瘍を再生医療で治す リポート◎大リーガー田中将大投手のケガも治したPRP療法とは? FBシェア数:20
  8. インフル入院患者、届出数が100人を超える インフルエンザ診療Next:トピックス FBシェア数:109
  9. 医療者は認知症家族との暮らしが分からない 患者と医師の認識ギャップ考 FBシェア数:196
  10. 下血? 血便? 赤いの? 赤くないの? 薬師寺泰匡の「だから救急はおもしろいんよ」 FBシェア数:180