事例研究:名古屋大学医学部附属病院

医療者にとって理想的な電子カルテシステムの構築に向けて

ファイルメーカーProの活用で利用者開放型のユーザーインタフェースを実現

 医療情報システムの真の目的は、診療データをいかに活用して医療の質を向上させるかにある。その前提として、医療スタッフが使いやすく工夫できるユーザーインタフェースによって、有用な診療情報をいかに蓄積して活用できる環境を作るかが重要になる。

 「ゴミを入れてもゴミの山が出来上がるだけで、その中から有用な情報を引き出すことは非常に困難。既製の電子カルテシステムは有用な情報を入力できる仕組みがあるとは言えないのが現状です。各診療科は自分たちの診療支援に有効なデータを利用できるよう、さまざまな工夫を凝らしたツールを利用しています。電子カルテシステムは情報一元化のもとに、そうした手作りの有益な情報共有・活用ツールの使用を阻むことになります。利用に開放されたユーザーインタフェースを持つツールをいかに電子カルテシステムと連携させて、有用な情報の共有と活用を実現できるかが、真の診療に役立つ医療情報システムとなりうるかを左右します」(吉田氏)。診療データを電子カルテから二次利用するのではなく、診療科がそれぞれ自分たちで工夫したデータベースに入力・整理された記録を電子カルテシステムに書き込んで利用できるようにすれば、診療情報の一元化と有用なデータ活用が両立できるというわけである。

ファイルメーカーのインターフェース

電子カルテシステムにログインし、メニューの各種ファイルメーカーを起動すると、利用者情報を引き継ぐとともに、患者マスターと連携して属性およびファイルメーカー上の各種データにアクセスすることができる

 名大附属病院では、これまで全体の8割以上の診療科がファイルメーカーProを使って独自の診療データベースを持っており、ほとんどが部門や診療科で共同利用してきた。例えば麻酔科では、麻酔台帳に手術後24時間以内に詳細な麻酔記録を残して利用してきた。しかし、電子カルテに麻酔記録を入力する項はあっても使いにくく、有用なデータを記録する仕組みになっていないため利用されていなかった。また、個人情報を各診療科で独自に管理することの問題もあった。

 そこで、各部門のファイルメーカーのサーバーを電子カルテシステムと同じネットワーク上に構築し、患者情報や病名などの属性と利用者情報を電子カルテから引き継ぎ、詳細な診療データをファイルメーカーで管理して、電子カルテで残したい記録だけを書き戻すという連携を実現している。つまり、ファイルメーカーを電子カルテシステムの外部に位置する一部門システムとして位置付け、マスター情報だけを連携させることにより、真に診療に役立つサマリーは使いやすく自由に記録できる部門システム(ファイルメーカー)で個別に共有・活用しようというものだ(文末の図参照)。

 「このようにファイルメーカーをユーザーインタフェース(フロントエンド・ツール)として利用することで、いろいろな部門システムの詳細な情報を入手できるようになります。また、電子カルテシステムでは機能追加するために多くのコストと工数をかけなければ実現できないものも、利用者に開放されているファイルメーカーなら、独自に簡単に作り込むことが可能です。例えば、地域連携予約など電子カルテシステムの患者マスターに登録されていない患者の検査予約なども、ファイルメーカーで作成した予約システムにいったん仮登録し、正式な患者情報が届いた段階で正式オーダーとして電子カルテシステムに登録することで問題を解決しています」(吉田氏)。

 こうすれば、基幹システムに手を加えることなく、診療科ごとの特性を反映した入力画面を作成したり、機能を追加したりといったカスタマイズが自分たちの手によって行えるようになる。つまり、診療現場に立った医療情報システムを実現できるわけだ。

インテリジェントな医療情報システムを目指して患者状態適応型パスの電子化に注力

 医療現場スタッフのための、医療の質に寄与する医療情報システムを強く指向している吉田氏であるが、いま最も実現に向けて力を入れているのが「患者状態適応型パス」の電子パス化である。

 従来の電子カルテシステムは、臨床プロセスの計画系がサポートされていない。「クリティカルパス機能」「クリニカルパス機能」の実装をうたっているシステムでも、標準的なプロセスを直線的に描いたもので、患者の状態に応じて最適な治療法を提供できるように複数のパターンの分岐・結合を構成できるような「患者状態適応型パス」を電子化したものは未だ存在しない。吉田氏は2004年からファイルメーカー版の患者状態適応型パスシステムの研究を続けており、パスのコンテンツを増やすことと電子カルテシステムと連携した電子クリニカルパスとしての完成を目指して開発を進めている。

 「この患者状態適応型パスに代表されるような、臨床知識を電子カルテシステムで有効に扱えるインテリジェントなツールを作り上げることが、本当の意味で医療の質に寄与する医療情報システムであり、ドクターのためのシステムであると考えています」。吉田氏はこう強調する。(増田 克善=ライター)

図

図:電子カルテシステムとファイルメーカーのマスター・データベースは、病名・患者・検査などマスター連携を主にした疎連携を実現し、詳細な診療データはファイルメーカーで管理する



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インタビュー:吉田 茂氏(名古屋大学医学部附属病院 医療経営管理部副部長)
「医療者がシステムづくりに取り組んでこそ医療の質に貢献する」





■病院概要
名称:名古屋大学医学部附属病院
住所:名古屋市昭和区鶴舞町65
病床数:1035床(一般病床985床、精神病床50床)
Webサイト:http://www.med.nagoya-u.ac.jp/hospital/





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