―― 医学のテーマとして「心」がとりあげられるのはとても今日的です。

 人の気持ち、感情、意思、理性、これらはすべて心の働きです。「心」はあまりに広範囲な概念ですし、これまでは技術的にもこれを科学としてとらえることが難しかったのです。ところが最近、特に画像系の技術が発達して、心の動きをある程度目で見ることができるようになってきました。こういう背景があって、今回の柱のひとつになりました。

―― 医学的にいうと心の働きは脳内の活動と理解すればよいでしょうか。

 その通り、「心」の研究は脳に関するサイエンスです。脳以外で心の動きが生じることはありません。「胸が痛む」という言葉がありますが、実際には脳内で何かが起こって「胸が痛む」気持ちになるのです。

―― とても幅広い議論に発展しそうですね。

 今回の総会は「分野横断的」という性格が特色ですが、「心」のサイエンスはまさにこれにふさわしいテーマです。霊長類やロボット研究がある一方で、医学本来の脳神経外科、神経内科、精神科などを横断する内容が含まれています。さらに現代社会が抱える課題である自殺の問題、超高齢社会で避けて通れない認知症の問題まで極めて広範囲です。

―― 霊長類やロボットの研究とはたいへん興味深いです。

 たとえば霊長類についてはサルに心はあるか、サルとヒトとの心の類似性と違いについてなど、サルと人間の心について興味深い話が期待できるでしょう。また、ロボットの研究を通じて見えてきた人の心の問題もとりあげられます。

―― 心の動きまでが科学的に捉えられるのでしょうか。

 ニューロイメージングといって、さまざまな画像技術を使って脳の活動を可視化、計測することができるようになってきました。これによって脳機能の理解を深めることができます。具体的な手法としてMRIやFunctional MRI、PET、近赤外光トポグラフィなどが開発され、各種の刺激に対して脳のどの部分がアクティブに働いているかがわかるようになってきました。総会シンポジウムでは最新の技術を駆使した画像をたくさんご披露します。

―― 社会的課題としてはまず認知症が大きな問題になりつつあります。

 認知症といえば、一般にはアルツハイマー病と受け止められがちですが、一概にはそうは言えず、実際には変性疾患ではなく正常圧水頭症や脳炎によって引き起こされる認知症もあります。これらは明らかな治療効果の期待できる認知症なのです。治る可能性のある患者さんを一人でも減らすことができれば、これからの高齢社会の負担はそれだけ軽減されるはずです。総会ではこのような認知機能障害を見逃さないための診断の最新知見も披露される予定です。

―― 心の問題としての自殺は重い課題です。

 わが国では長期にわたって、年間の自殺者数が3万人前後で推移しています。社会的にこれは大きな課題といわねばなりません。このことを踏まえ、医療機関が特にハイリスクな事案に対してどう対処すべきか、総会では議論します。精神科の先生はもちろんですが、医療管理責任者やメディカルスタッフの皆さんにもぜひ聞いていただきたいテーマです。  このように、心の問題はどなたにも関わりのあるテーマですので、広く一般の方々にも興味深く聞いていただけるセッションも用意します。また医学生の諸君には、「心」のサイエンス最新の成果をぜひ知っておいて欲しいと願っています。

学術講演 柱7
サイエンスからみた心の問題・心の発達

柱7-1 ひとのこころはどのように作られたか?
(2015/4/11 13:00-15:00)
座 長
武田 雅俊(大阪大学 医学系研究科)
櫻井 芳雄(京都大学 大学院 文学研究科 心理学研究室)
演 者
松沢 哲郎(京都大学霊長類研究所)
笠井 清登(東京大学大学院医学系研究科精神医学)
岩田 仲生(藤田保健衛生大学医学部精神神経科学講座)
石黒  浩(大阪大学大学院基礎工学研究科)

柱7-2 こころを画像化する
(2015/4/12 8:45-10:45)
座 長
村井 俊哉(京都大学・精神医学)
福山 秀直(京都大学 医学研究科附属 脳機能総合研究センター)
演 者
髙橋 英彦(京都大学大学院医学研究科 精神医学)
須原 哲也(独立行政法人 放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)
林  拓也(独立行政法人 理化学研究所 ライフサイエンス技術基盤研究センター)
飯髙 哲也(名古屋大学 大学院医学系研究科)

柱7-3 認知症の最新情報とその対策
(2015/4/12 11:00-12:30)
座 長
玉岡  晃(筑波大学 医学医療系 神経内科学)
高杉 敬久(日本医師会)
演 者
三村  將(慶應義塾大学医学部 精神・神経科学教室)
荒井 啓行(東北大学加齢医学研究所)
池田  学(熊本大学大学院 生命科学研究部 神経精神医学分野)

柱7-4 自殺予防に向けて医療にできること
(2015/4/13 9:00-11:00)
座 長
竹島  正(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所)
橋本 廸生(公益財団法人 日本医療機能評価機構)
演 者
椿  広計(情報システム研究機構 統計数理研究所)
松本 俊彦(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 自殺予防総合対策センター)
山田 光彦(国立精神・神経医療センター 精神保健研究所精神薬理研究部)
高橋 祥友(筑波大学 医学医療系 災害精神支援学)
大塚耕太郎(岩手医科大学医学部 災害・地域精神医学講座)