アブストラクト

  • 胃潰瘍・十二指腸潰瘍は、消化性潰瘍と一括して総称され、胃あるいは十二指腸粘膜が欠損した病態を指す。
  • 胃潰瘍・十二指腸潰瘍発症の二大要因は、Helicobacter pylori(H. pylori)感染および非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)投与であり、これら2つの要因以外による潰瘍の発症頻度は2%程度と低い。
  • NSAIDsに関連しない胃潰瘍・十二指腸潰瘍の治療は、プロトンポンプ阻害薬(PPI)と抗菌薬の併用によるH. pylori除菌治療を実施する。
  • H. pylori除菌治療によらない治療では、PPIを第1選択薬とする。PPIを投与できない場合は、H2受容体拮抗薬(H2RA)を優先する。

疾患概念

 胃潰瘍・十二指腸潰瘍は、消化性潰瘍と一括して総称され、胃あるいは十二指腸粘膜が欠損した病態を指す。粘膜欠損のなかでも潰瘍とは、粘膜筋板を越え粘膜下層以深の欠損を指し、それより浅い粘膜のみの傷害はびらんと呼ぶ。

 胃や十二指腸は、常に攻撃因子である胃酸、ペプシンにより傷害を受ける可能性があるが、胃粘膜には、粘液、アルカリ分泌、粘膜血流、プロスタグランジン(PG)、増殖因子などが防御因子として働く防御機構が存在する。これらの攻撃因子と防御因子の均衡が複合的な要因により破綻すると、潰瘍を発症する。

 潰瘍の二大発症要因は、グラム陰性のらせん状桿菌であるHelicobacter pyloriの感染、および低用量アスピリンを含む非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)の投与であり、海外のメタ解析では、潰瘍発症のリスクはH. pylori感染単独で18.1倍、NSAIDs服用単独で19.4倍、H. pylori感染かつNSAIDs服用で61.1倍に増加すると報告された(Huang JQ, et al. : Lancet 359:14〜22,2002.)。また、わが国の関節リウマチ患者を対象とした検討では、NSAIDsの長期投与患者における潰瘍の発現率は、胃潰瘍15.5%、十二指腸潰瘍1.9%であった。これらの二大要因以外による潰瘍の発症頻度は2%程度にとどまるが、その病因として、組織血行障害を来す基礎疾患としての肝硬変、糖尿病など、NSAIDs以外の薬物としてビスホスホネート製剤、抗癌薬の肝動注療法、サイトメガロウイルス、単純ヘルペスウイルス、結核、梅毒などの感染症、クローン病、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病などの血管炎が挙げられる。

疫学

■胃潰瘍・十二指腸潰瘍の現状と推移

 厚生労働省の患者調査によれば、胃潰瘍の1987年の患者数は61万3000人であったが、2011年には35万5000人に減少した。十二指腸潰瘍の1987年の患者数は23万7000人であったが、2011年には4万2000人に減少した。また、厚生労働省の人口動態統計によれば、胃潰瘍および十二指腸潰瘍を死因とする死亡者数は、1950年の1万9323人から大きく減少したものの、1990年前後から横ばいとなり、例年3000人を超える程度で推移してきた。そして、2012年の死亡者数は3132人であったが、2013年には2804人と3000人未満に減少した。1990年までの死亡者数の減少は、栄養の改善、受療機会の増加、内視鏡による診断および治療法の進歩、H2受容体拮抗薬(H2RA)やプロトンポンプ阻害薬(PPI)などの薬剤の登場が減少要因として挙げられるが、1990年以降に死亡者数が横ばいとなったのは、人口の高齢化に伴う合併症の増加を反映していると考えられる(小早川雅男, 他 : 治療 92:419〜423,2010.)。

 また、過去には保険適用が胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、早期胃癌内視鏡治療後胃などに限定されていたH. pylori除菌が、2013年2月からは「ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎」という新しい保険病名によって、上部消化管内視鏡検査により、慢性胃炎の診断がつけば疾患の枠にとらわれず感染者全員に対して除菌療法の施行が可能となった点も(平田賢郎,他 : Medicament News 2151:1〜3, 2014.)、今後の患者数や死亡者数の動向に影響する可能性がある。

胃潰瘍・十二指腸潰瘍の臨床

■診断法

〈胃潰瘍・十二指腸潰瘍を疑う愁訴・症状〉
 胃潰瘍・十二指腸潰瘍に特異的な症状はないが、悪心・嘔吐、上腹部痛、食思不振、腹部膨満感などを認めた場合は、本症を疑って精査を行う。吐血や下血を認めた場合には、本症による出血を念頭に内視鏡検査を検討する。

〈初診時に必要な検査〉
 血液検査により貧血、血中尿素窒素/クレアチニン比(BUN/Cr比)開大の有無を確認し、腹膜刺激症状のある場合は、腹部単純X線にて消化管穿孔の徴候となるfree air(遊離ガス)の有無も確認する。

 診断には、おもに上部消化管内視鏡検査が必要となるが、内視鏡検査では出血の有無、潰瘍の形態の観察が重要である。また、良性潰瘍と悪性疾患の鑑別が必要となるため、潰瘍の形態、潰瘍面とその辺縁・集中するひだ・周囲粘膜の性状について詳細に観察する。観察だけでは判断に迷う症例もあり、初回もしくは経過観察中に除外のための組織診断を行う。

 H. pylori感染が疑われる場合には、内視鏡検査による迅速ウレアーゼ試験、鏡検法、培養法、内視鏡を用いない尿素呼気試験(UBT)、糞便中H. pylori抗原測定法、血清もしくは尿中H. pylori抗体測定法のいずれかにより実施する。迅速ウレアーゼ試験、UBTを実施する場合は、PPIなどの静菌作用のある薬剤を少なくとも2週間休薬する。(図1)。

図1●保険適用によるH. pylori感染症の診断と治療
(高橋信一 他:H. pylori除菌治療の最近の話題.日消誌107:1273,2010.より一部改変)日本ヘリコバクター学会より許諾を得て転載

〈鑑別診断〉
 2型・3型胃癌、陥凹型早期胃癌、十二指腸癌、転移性腫瘍、悪性リンパ腫、消化管間質腫瘍(GIST)などの粘膜下腫瘍の自壊、異所性膵、カルチノイドなどとの鑑別が必要である。

<確定診断>
 内視鏡検査で診断し、胃潰瘍の場合は組織診断で悪性を否定する。十二指腸潰瘍でも、悪性を疑う場合は組織診断を行う。

■治療法

〈管理・治療の目標〉
 胃潰瘍・十二指腸潰瘍の管理・治療の目標は、止血、症状軽快、潰瘍の治癒、再発防止である。

〈内視鏡的止血〉
 改変Forrest分類(表1)における「噴出性出血」「湧出性出血」「非出血性露出血管」の症例が、内視鏡的治療の適応である。止血法には、レーザー法、純エタノール局注法、血管収縮薬局注法、硬化薬局注法、高周波凝固法、ヒーターグローブ法、フィブリン糊局注法、クリップ法がある。

表1●改変Forrest分類
(Kohler B、et al:Upper GI-bleeding:Value and consequences of emergency endoscopy and endoscopic treatment, Hepatogastroenterology 38:198,1991より一部改変)

H. pylori除菌治療〉
 NSAIDs非服用例で、H. pylori陽性胃潰瘍、十二指腸潰瘍症例では、H. pylori除菌治療を実施するが、除菌治療には潰瘍治癒を促進する作用もある。1次除菌ではPPI+アモキシシリン+クラリスロマイシンが、2次除菌ではPPI+アモキシシリン+メトロニダゾールが保険適用である。除菌判定については、除菌治療終了後、少なくとも4週間の期間をおいて実施する。除菌判定には特異度の高いUBTおよび糞便中H. pylori抗原測定法を用いる。除菌率は、現在一次除菌は70%台まで低下しているが、2次除菌では90%前後の除菌率となっている。2次除菌でも除菌されない症例では3次除菌を検討するが、3次除菌は保険適用外である(図1)。

 H. pylori除菌が成功した場合の再発はまれであり維持療法の必要はないが、除菌治療を行わない場合には、初期治療で潰瘍が治癒した後、再発抑制のための維持療法が勧められ、H2RAまたはスクラルファートが適応となる(図2)。

図2●消化性潰瘍治療のフローチャート
(日本消化器病学会編『消化性潰瘍診療ガイドライン』. 南江堂, 東京, 2009.より)

〈薬物療法〉
 H. pylori除菌治療によらない治療では、PPIを第1選択薬とする。PPIを投与できない場合は、H2RA、選択的ムスカリン受容体拮抗薬もしくは一部の防御因子増強薬のいずれかを投与する。PPIと防御因子増強薬の併用療法の、潰瘍治癒の上乗せ効果は示されていないが、H2RAと防御因子増強薬の併用療法では、一部の薬剤で上乗せ効果が示されている。

 薬物性潰瘍に対する治療では、NSAIDs投与中の症例には、まず、可能であればNSAIDsの投与を中止する。NSAIDs継続投与下では、PPI(胃潰瘍で8週間、十二指腸潰瘍で6週間)またはPG製剤を投与する。NSAIDs潰瘍の予防には、高用量のNSAIDs投与を避け、PPI、H2RA、PG製剤を併用する。選択的シクロオキシゲナーゼ(COX)−2阻害薬は、非選択的COX阻害薬に比べ、潰瘍発症率および出血を含む潰瘍合併症が減少するため、選択的COX−2阻害薬への変更を考慮する(図2)。

 なお、専門医へ紹介すべき症例は、内視鏡的止血が必要な症例および2次除菌によっても除菌不成功の症例である。

診療ガイドライン

 日本消化器病学会および日本ヘリコバクター学会から、診療ガイドラインが出されている。

・日本消化器病学会編『消化性潰瘍診療ガイドライン』. 南江堂, 2009.
http://minds4.jcqhc.or.jp/minds/pu/peptic-ulcer_gl.pdf

・日本ヘリコバクター学会ガイドライン作成委員会:H. pylori感染の診断と治療のガイドライン 2009改訂版. 日本ヘリコバクター学会誌 Vol. 10 Supplement,2009.
http://www.jshr.jp/pdf/journal/guideline2009_2.pdf