九州大学先端医療イノベーションセンター臨床試験部門特任教授の池松秀之氏

 抗インフルエンザ薬イナビルのA/H3N2ウイルス感染例に対する臨床効果や吸入後ウイルス残存率は、2011/12年シーズンと2012/13年シーズンでほとんど変化が見られなかったことが分かった。吸入前後のH3N2に対するIC50値上昇も、2シーズンとも認められなかった。九州大学先端医療イノベーションセンター臨床試験部門特任教授の池松秀之氏が、共同開催された第61回日本化学療法学会西日本支部総会・第56回日本感染症学会中日本地方会学術集会・第83回日本感染症学会西日本地方会学術集会(11月6〜8日、開催地:大阪市)で報告した。

 池松氏らは今回、イナビルの市販後調査の一環として、臨床効果や抗ウイルス効果を2011/12年シーズンと2012/13年シーズンで、あるいは年齢別に比較検討した。安全性に関する検討も行った。

 対象は、インフルエンザ迅速診断キットにより陽性と判定されたA型またはB型のインフルエンザ患者で、来院時の体温が37.5度以上、インフルエンザウイルス以外のウイルスや細菌などの感染(二次感染含む)がないと考えられた患者とした。

 登録症例数は、2011/12年シーズン、2012/13シーズンでそれぞれ11都道府県24施設から235例の計470例。この470例から、吸入後の有害事象の有無が「不明」であった2011/12年シーズン1例、2012/13シーズン4例の計5例を除外した2011/12年シーズン234例、2012/13シーズン231例の計465例で安全性を解析した。さらに、465例から、吸入前のウイルス学的検査でウイルス型・亜型を特定できなかった2011/12年シーズン4例、2012/13年シーズン1例、来院時の体温が37.4℃以下だった2011/12年シーズン16例、2012/13年シーズン15例、来院時に他の感染が認められた2011/12年シーズン3例、2012/13年シーズン5例の計44例を除外した2011/12年シーズン211例、2012/13年シーズン210例の計421例で有効性を検討した。

 有効性に関する評価項目は、解熱時間、罹病時間、ウイルス残存率、IC50値。各評価項目は次のように定義した。解熱時間は、イナビル吸入から体温が平熱(10歳以上36.9℃以下、10歳未満37.4℃以下)に解熱するまでの時間。罹病時間は、イナビル吸入から、7つのインフルエンザ症状(頭痛、筋肉痛または関節痛、疲労感、悪寒または発汗、鼻症状、喉の痛み、咳)がすべて「なし」または「軽度」(ほとんど気にならない/症状が軽く、いつもどおり生活ができるレベル)に改善するまでの時間とした。ウイルス残存率は、イナビル吸入後5日目(4〜6日目)のウイルス力価が検出限界(1.5 logTCID50/mL)以上の場合を「残存」として算定したもの。IC50値は、イナビル吸入前、後にウイルスが分離された症例で、吸入前と吸入後5日目に求めた。

 まず、2シーズンのH3N2感染例における解熱時間を比較したところ、中央値は2011/12年シーズン33.0時間、2012/13年シーズン37.0時間で有意差はなかった。罹病時間はそれぞれ89.0時間、90.5時間でやはり有意差は見られなかった。

 さらに、2012/13年シーズンのH3N2感染例において、解熱時間を年齢別に検討した。解熱時間中央値は、10歳未満の症例(20mg単回吸入)32.0時間、10歳以上の症例(40mg単回吸入)で38.0時間で有意差は認められなかった。罹病時間はそれぞれ102.0時間、84.0時間であったが、有意差は見られなかった。

 一方、B型感染例は2011/12年シーズン21例、2012/13年シーズン4例と少なかったが、同じく2シーズンで解熱時間、罹病時間を比較したところ、解熱時間、罹病時間とも2シーズン間で有意な変化は認められなかった。

 イナビル吸入後5日目のウイルス残存率は、H3N2感染例で2011/12年シーズン25.8%、2012/13年シーズン21.4%で有意差はなかった。H3N2の10歳未満感染例、10歳以上感染例に分けて検討した場合も同様に、2シーズンのウイルス残存率に有意差は見られなかった。

 さらに、H3N2感染例でイナビル吸入前後のIC50値を2シーズンで求めた。2011/12年シーズンで吸入前のIC50幾何平均値は3.71nM、吸入後5日目3.68nM、2012/13年シーズンでそれぞれ4.56nM、4.38nM。いずれのシーズンでも吸入前後のIC50値上昇は見られなかった。

 安全性に関しては、2シーズン合計465例で有害事象の頻度を調べた。イナビルとの因果関係が否定できないとされた有害事象は下痢3例、高揚感1例。安全性に大きな問題はないと考えられたという。