愛知医科大学大学院臨床感染症学主任教授の三鴨廣繁氏

 インフルエンザの症状、特に発熱は基本的に、ウイルス量の変化に伴って増強、軽減することが知られている。また、ウイルス量はインフルエンザ脳症の発生やウイルスの伝播性にも影響する。こうしたことから、愛知医科大学大学院臨床感染症学主任教授の三鴨廣繁氏は、臨床症状のみならず、ウイルス量の変動も意識したインフルエンザ治療の重要性を強調した。共同開催された第61回日本化学療法学会西日本支部総会・第56回日本感染症学会中日本地方会学術集会・第83回日本感染症学会西日本地方会学術集会(11月6〜8日、開催地:大阪市)における講演で言及したもの。

 インフルエンザ患者の予後は、合併症の有無によって大きく違ってくる。予後を著しく悪化させる合併症としては、肺炎球菌などによる細菌性肺炎やインフルエンザ脳症が知られている。このうち、インフルエンザ脳症はいまなお、年間100〜300例の小児が罹患している。予後不良で、致死率は10%近くに及ぶ。後遺症を認める患者も多い。こうしたインフルエンザ脳症の対策について、三鴨氏は「われわれ臨床医にできることはviral load(ウイルス量)をできる限り早く下げてやることだろう」と述べた。

 一方、ウイルス量は伝播性にも影響する。インフルエンザウイルスは主に、くしゃみ、咳などの飛沫によって伝播するが、相手との距離が近いほど、またウイルス量が多いほど、伝播しやすくなる。一般的には、100〜1000個程度以上のウイルス量があると伝播すると言われている。したがって、三鴨氏は、ウイルス量を早く減少させ、残存を抑えることにより、伝播を防ぐことも期待できると語った。

 ウイルス量の増減は、インフルエンザの臨床症状、特に発熱の経過とも関連すると考えられている。ノイラミニダーゼ(NA)阻害薬で得られる解熱効果も、NA阻害作用によってウイルスの感染細胞から他の細胞への感染が阻害され、ウイルス量が減ることにより認められると推測されている。

 こうしたことから、三鴨氏は「患者にとっては、つらい熱が下がるか下がらないかは非常に大事なことだが、医療者はさらに、viral loadがどうなっているかもきわめて重要と考えるべきだ」と指摘。臨床症状のみならず、ウイルス量の変動も意識したインフルエンザ治療の重要性を示唆した。

 そのうえで、三鴨氏は、ノイラミニダーゼ(NA)阻害薬による治療とウイルス量の関係について検討した最近の報告を紹介した。

 まず、ウイルス力価はNA阻害薬投与後5日でほぼゼロに達するという東北大学・渡辺彰氏の報告。同報告では、ウイルス消失はインフルエンザの罹病時間よりも解熱時間から推定することが適切であること、ウイルスが解熱後2日以内に消失した患者が約85%を占め、「解熱後2日」はウイルス消失判断の目安になることが示された。

 さらに、日本臨床内科医会による2012/13年シーズンの調査研究で得られた、NA阻害薬4薬のウイルス残存率のデータを紹介した。A/H3N2ウイルスの残存率、すなわち各NA阻害薬投与開始後5±1日目のウイルス培養検査でウイルス残存が認められた症例の割合を検討したもの。

 研究の結果、H3N2の残存率はタミフル22.7%、リレンザ5.3%、ラピアクタ12.5%、イナビル12.5%と、有意差はなかったものの、タミフルに比べ、他の3薬で低い傾向が認められた。B型ウイルスの残存率は、タミフル31.3%、リレンザ0%、ラピアクタ25.0%、イナビル25.0%だった。症例数は少ないものの、リレンザは残存率の低さが目立ち、B型に対する解熱効果がリレンザで高いというデータと一致するとした。

 三鴨氏は「viral loadと発熱は本当にパラレルに動く。(NA阻害薬投与開始から)5日ぐらいたつと、viral loadはほとんどなくなり、人に伝播させなくなる。こういうことを肝に銘じてインフルエンザ治療にあたることが大事だ」と訴えた。