芳賀赤十字病院(栃木県真岡市)ICTの近藤義政氏

 病棟内でインフルエンザ罹患者が発生した際に、多床室同室者に対して抗インフルエンザ薬予防投与を行うと、比較的短期間で収束でき、かつコストの軽減も可能と考えられる事例が報告された。芳賀赤十字病院(栃木県真岡市)ICTの近藤義政氏(泌尿器科部長)が、第62回日本感染症学会東日本地方会学術集会(10月30日〜11月1日、開催地:東京)で明らかにしたもの。

 同院では2012/13年シーズンに、6病棟で計29例のインフルエンザ罹患者が発生したが、抗インフルエンザ薬の予防投与を行い、いずれの病棟も8日間以内で収束にこぎつけた。予防投与の費用(病院負担)は治療費用を若干上回る程度。入院患者の入院期間延長はなく、職員休職を抑えることもでき、結果的にコスト軽減につながると考えられたという。

 近藤氏によると、芳賀赤十字病院(400床)では2011/12年シーズンに、インフルエンザのアウトブレイクが認められた。内科(循環器・呼吸器)病棟(54床)で3月22日〜4月6日の16日間に、入院患者17人、看護師6人の計23人が罹患(入院患者1人は退院後に発症)した。17人は男性8人、女性9人、年齢35〜97歳(平均78.94歳)。ICTが介入し、罹患患者の個室隔離、発生病室への入院制限、面会制限などの対策を講じたが、収束まで16日間要した。

 このアウトブレイクを契機に、同院ではそれまでの院内感染対策マニュアルを改訂した。罹患者の個室への収容期間は、発症後5日を経過し、かつ解熱後2日(幼児は3日)を経過するまでとした。また、多床室で罹患者が発生した場合は、その後5日間、新規入院患者を受け入れないこととした。罹患者発生時にはICTに報告するが、さらに、複数病室で同時期に発生した場合には、緊急対策会議を院内感染対策委員長が必要と考えた時点で開催することにした。

 同院がこのような対策強化を進めていた2012年8月に、日本感染症学会提言2012「インフルエンザ病院内感染対策の考え方について(高齢者施設を含めて)」が発表された。提言では、インフルエンザ院内発生時に他の入院患者に対して、抗インフルエンザ薬の予防投与を行うことを推奨した。予防投与は、発症者に接触した入院患者や入所者に対して、承諾を得たうえで行う。開始はできるだけ早期、可能なら初発患者発症から12〜24時間以内とする。また、予防投与は、シーズン前の予防接種の有無にかかわらず行う。抗インフルエンザ薬としては、予防投与の適応があるタミフルかリレンザを用いる。タミフルは1日1回1カプセル、リレンザは1日1回吸入。投与期間は7〜10日間としている。

 提言を受け、同院では予防投与を次のように行うことにした。予防投与は、多床室同室者で、発症者との接触があった場合に開始する。基本的にタミフルを1日1回5日間投与する。複数病室で同時期に発生した場合は、緊急対策会議で投与対象を決定する。予防投与薬の費用は病院負担とする。

 2012/13年シーズンになり、同院で再びインフルエンザ罹患者が発生したため、上記の基準に基づいて予防投与を実施した。罹患者は、12月27日〜2月18日までに6病棟で計29人(個室発生例2人含む)を数えた。罹患者と同室で、予防投与の対象になると考えられた入院患者は71人。家族の同意が得られなかった1人、病状により投与できなかった7人の計8人を除く63人に予防投与を行った。63人のうち、予防投与中に罹患した入院患者は1人だった。また、予防投与を行わなかった8人中1人で罹患を認めた。

 6病棟中2病棟では、ほぼ同時期に職員の罹患者も発生した。そこで、2病棟の職員72人に予防投与を行った。72人のうち、罹患した職員は2人。また、予防投与を行わなかった職員4人中2人が罹患した。

 罹患者の発生は、6病棟とも長くても8日以内に収束することができた。2011/12年シーズンよりも規模が大きかったにもかかわらず、およそ半分の期間で収束に至ったことになる。

 予防投与の費用は約21万円だった。入院患者の入院期間延長はなく、職員の休職も抑えることができたことを考えると、予防投与はコスト軽減にも寄与した可能性が示唆された。

 以上より、近藤氏は「2012/13年シーズンに複数病棟でインフルエンザが発生したが、予防投与により、比較的短期間でまん延を防止できたと考えられた。予防投与は罹患者の増加を抑制でき,高齢者が多く入院している当院では特に有用であった。また、結果的に医療費の軽減にもつながると思われた」と結論した。