九州大学先端医療イノベーションセンター臨床試験部門特任教授の池松秀之氏

 A/H3N2ウイルスは、2012/13年シーズンに分離されたインフルエンザウイルスの大半を占めた。このH3N2感染例に対するノイラミニダーゼ(NA)阻害薬4薬の平均解熱時間は、4薬とも30時間を切ったことが明らかにされた。九州大学先端医療イノベーションセンター臨床試験部門特任教授の池松秀之氏が、日本臨床内科医会による多施設共同研究の2012/13年シーズンの解析結果として、第62回日本感染症学会東日本地方会学術集会(10月30日〜11月1日、開催地:東京)で報告したもの。同氏は「今シーズンもH3N2主体の流行となる可能性はかなり高い」としている。

 日本臨床内科医会はインフルエンザ研究班を組織し、全国の会員の協力を得て、2000/01年シーズンから、インターネットを活用したインフルエンザに関する多施設共同研究を行っている。解析結果をシーズンごとに報告し、わが国のインフルエンザ診療の実態やあり方を探るうえで多くの重要な知見を提供してきた。

 池松氏は、同研究の2012/13年シーズンにおける解析結果を次のように報告した。まず、NA阻害薬の年齢別使用状況を見ると、0〜4歳ではタミフルが99%、5〜9歳ではタミフルが70%、イナビルが20%に使用されていた。10〜19歳ではイナビルが54%、リレンザが35%。20〜59歳ではタミフル、イナビルがそれぞれ41%、42%でほぼ同等、ラピアクタは12%に使用されていた。60歳以上ではイナビルが49%、ラピアクタが29%だった。

 2012/13年シーズンのウイルスはH3N2が約80%を占めた。このH3N2感染(培養確定)例で、各NA阻害薬の治療開始から解熱までの時間(解熱時間)の平均を調べたところ、タミフル23.5時間、リレンザ28.1時間、イナビル28.1時間、ラピアクタ23.0時間と、4薬とも30時間を切っていた。B型に対する効果は、4薬とも例年、A型よりも劣っている。2012/13年シーズンも同様だったが、B型におけるタミフルの解熱時間は平均46.8時間と、A型との差が例年より顕著だった。

 なお、池松氏は、早期解熱効果においては、過去シーズンの分析から、NA阻害薬間で大きな差が認められていることを明らかにした。リレンザまたはイナビルにより、投与開始から24時間以内に解熱した症例の割合を、6時間から24時間まで、3時間ごとに区切って検討すると、H3N2感染例では、より早期に解熱した患者がイナビル使用例よりもリレンザ使用例で高率だった。B型でも、リレンザ使用例で早期解熱例の割合が高かった。

 リレンザの早期解熱効果が高かったデータを受け、池松氏は「それぞれの薬剤そのものの効果の違いなのか、あるいはザナミビル(リレンザ)が、プロドラッグであるラニナミビル(イナビル)と違って活性物質であるためなのか、高濃度が速やかに得られるという性質が影響しているのか分からないが、各NA阻害薬でそれぞれメリット、デメリットがあることがうかがえる」とコメントした。

 池松氏はさらに、今シーズンの流行ウイルスについても言及した。日本臨床内科医会でウイルス分離を開始したのは2002/03年シーズンからだ。以降、2006/07年シーズンまでは、B型のほうが多かった2004/05年シーズンを除き、H3N2が毎シーズン最も多く分離されていた。2007/08年、2008/09年シーズンは、数シーズン前から分離例が認められていたA/H1N1がメーンになり、H3N2分離例は大幅に減少した。2009/10年にはA/H1N1pdm09に全面的に入れ替わり、2010/11年もH1N1pdm09がほぼ半数を占めた。しかし、2011/12年シーズンにはH1N1pdm09は消失し、H3N2が再び多数を占めた。同様の傾向は2012/13年シーズンも認められた。こうした推移から、同氏は「今シーズンも2011/12年、2012/13年シーズンと同様に、H3N2主体の流行となる可能性はかなり高いのではないか」と述べた。

 一方、パンデミックを危惧する声もある鳥インフルエンザA/H7N9ウイルスについては、池松氏は深刻な展開予測に対しては否定的な考えを示した。鳥との濃厚な接触が重要なリスクファクターになっており「非常に限られた範囲でしか感染していかないことは間違いない」とした。また、H7N9はヒトからヒトへ感染する能力をすでに獲得していると言われているが「実際にヒトからヒトへと感染していくかは分からない」とも語った。

 さらに、H7N9に対するNA阻害薬のIC50値は非常に低いことも指摘。「仮にヒト−ヒト間で感染が見られても、現在のNA阻害薬でかなりコントロールできるのではないか」と予想した。ただし、鳥インフルエンザH5N1感染例が世界各地で発生した際には、若年層で死亡例が多く出て、その原因の1つとして、NA阻害薬の投与が遅れたことが推測されたとし、NA阻害薬を適切な時期に投与する重要性も示唆した。

 その他、NA阻害薬とは異なる機序で働く薬剤の開発への期待ものぞかせた。現在は、既存の季節性インフルエンザウイルスにおいて、耐性化が進んでほとんど使用されなくなったアマンタジンは、M2蛋白阻害作用により、細胞内におけるウイルスの脱殻を抑制して、感染細胞を排除する。また、承認申請中のRNAポリメラーゼ阻害薬のT-705(ファビピラビル)は、細胞内のウイルスRNA合成を阻害して、ウイルス複製を抑える。池松氏は、例えばH7N9ウイルスがヒトに感染し、増殖がひどくなった場合などに、M2蛋白阻害薬やRNAポリメラーゼ阻害薬といった、NA阻害薬とは異なる機序の新しい薬剤が必要になるとの見方を示した。