JA静岡厚生連静岡厚生病院の田中敏博氏

 授乳婦への薬物投与は、母乳を介した乳児への影響が懸念される。インフルエンザに感染し、イナビル(一般名:ラニナミビルオクタン酸エステル)を投与された授乳婦の5例について母乳中の薬物濃度を測定したところ、吸入後1〜46時間の母乳において5例とも検出限界未満であったことが示された。1例については母児の血液検査も実施したが、児では授乳後30分において、LO、LAとも検出限界未満だったことも分かった。11月に横浜市で開催された第44回日本小児臨床薬理学会で、JA静岡厚生連静岡厚生病院の田中敏博氏らが成果を発表し、授乳婦に対するイナビル投与の安全性は高いとまとめた。

 授乳婦への薬物投与については、常に母乳を介した乳児への影響に留意しなければならない。この観点から田中氏らは、インフルエンザ感染症に対する抗インフルエンザ薬について、授乳婦の場合の安全性を支持するデータが不十分と判断。今回の検討を行った。

 イナビルは、4剤目となるノイラミニダーゼ阻害薬で、吸入剤としてはリレンザ(一般名:ザナミビル)に次ぐ2番目の製剤。同剤は、プロドラッグ(LO)であり、吸入後に加水分解によって活性代謝物(LA)に変換される。この活性代謝物が長時間にわたって、ウイルスの増殖部位である気道や肺に貯留してウイルスの増殖を抑制する。一度の吸入で治療が完結するという特徴がある。

 対象は2011/2012および2012/2013シーズンに、静岡厚生病院小児科でインフルエンザと診断されLOを投与された授乳婦。それぞれの患者に対して、インフルエンザ感染症とその治癒機転および治療と治療薬の選択肢を説明・提示し、授乳中治療の了解を得た上でLOを処方した。各患者には、LO吸入後に搾乳した母乳を家庭で冷凍保存してもらい、症状が回復した後に外来に持参してもらうよう依頼した。

 症例は、33歳(月例12)、37歳(月例7)、28歳(月例10)、35歳(日齢3)、37歳(日齢13)の5例だった。

◆症例1:33歳。12カ月の第三子の授乳中に、A型インフルエンザと診断された第二子と同じ日に発熱し、インフルエンザと診断された。

◆症例2:37歳。7カ月の第三子の授乳中に、第一子から4日遅れて発熱し、インフルエンザと診断された。

◆症例3:28歳。10カ月になる児の授乳中に、インフルエンザと診断された7歳の長女から5日遅れて発熱した。その日の迅速診断検査では陰性だったが、臨床的にインフルエンザと診断された。

◆症例4:35歳。日齢3の第四子の授乳中。出産後の入院中に発熱し、迅速診断検査でインフルエンザと診断された。

◆症例5:37歳。日齢13の第二子の授乳中。児とともに発熱し、迅速診断検査でインフルエンザと診断された。


 検体は固相抽出法にて前処理し、LC/MS/MS法によってLOおよびその活性代謝物であるラニナミビル(LA)濃度を測定した。LO、LAの検出限界は1ng/mLだった。

 その結果、各症例における測定結果は、症例1(搾乳時間;吸入後から1、2、3.5、4.5、5.5、6.5時間)、症例2(搾乳時間;吸入後から1、2、4、8、19、24時間)、症例3(搾乳時間;吸入後から7、22、31、46時間)、症例4(搾乳時間;吸入後から4、7、9、12、16、18、22、32、43時間)、症例5(搾乳時間;吸入後から4、36時間)のいずれにおいても、LOおよびLAの濃度は、それぞれ検出限界未満だった。

 なお、症例4においては、母親と児の血液検体の採取にも同意が得られた。血液検査から、母親は吸入後4時間で、LO 12.48ng/mL、LA 25.30ng/mLだった。一方の児のほうは、吸入後43時間(授乳後30分)において、LO、LAとも検出限界未満だった。

 これらの結果から田中氏らは、「授乳婦の場合、インフルエンザ感染症に対するラニナミビルの単回吸入療法は、母乳中に薬剤が移行して乳児に影響が及ぶという観点からは、安全性が高いものと推察される」とまとめた。