大阪市立大学呼吸器内科学の栩野吉弘氏

 実臨床におけるインフルエンザ治療はどのように行われているのか。その治療成績はどうなのか――。大阪市立大学呼吸器内科学の栩野吉弘氏(写真)らは、この問の答えを求めて、2010/11シーズンから、葉書によるインフルエンザ治療実態調査に取り組んでいる。これから始まる流行シーズンの診療に役立つデータは何なのか。2011/12シーズンまでの成績から明らかになったことを語ってもらった。

―― そもそもなぜ先生方は、葉書アンケートによるインフルエンザ治療実態調査に取り組むようになったのですか。

栩野 ご存知のように、インフルエンザ治療の中心は現在、ノイラミニダーゼ阻害薬です。2010年からは4種類の薬剤が使用可能となっています。5日間の内服薬であるオセルタミビルと吸入薬であるザナミビルに加え、1回完結型の吸入薬であるラニナミビルと点滴静注薬であるペラミビルが発売され、治療の選択肢が増えました。

 私たちは、治療の選択肢が増えたことを踏まえ、経年的に実臨床の実態を把握することがインフルエンザの患者さんを診療していくうえでとても重要であると考えました。しかし、冬季の外来診療は多忙であり、詳細な調査を行うことは多大な労力を必要とすることから、何とか簡単にインフルエンザ治療の実態を把握できないかと考え、葉書によるアンケート調査に行きついたのです。

写真1 葉書アンケートの内容

―― 葉書アンケートの実際をご説明ください。

栩野 2年目となる2011/12シーズンは、2011年12月から2012年4月末までに調査協力医療施設(19診療所、17病院の36施設)に来院し、インフルエンザの迅速診断キットで陽性と診断され、抗インフルエンザ薬を処方された患者さんを対象としました。

 まず葉書アンケート(写真1)を用意し、各施設に配布しました。施設では、診療に当たった医師が抗インフルエンザ薬を処方された患者さんに、アンケートの趣旨を説明し、理解を得られた患者さんに葉書を渡しました。患者さんに葉書にある調査項目を記入してもらい、その後に投函してもらいました。

 患者さんにはまず、昨シーズンにインフルエンザに罹患したかどうか、昨シーズンのインフルエンザワクチンの接種の有無、今シーズンのインフルエンザワクチンの接種の有無、インフルエンザ感染症以外の合併疾患(なし、高血圧、高脂血症、糖尿病、喘息、アレルギーから選択)を記入してもらいます。次に、治療後から4日目までの朝と夜の熱を測定してもらい推移を把握するようにしました。

―― 咽頭痛や倦怠感、頭痛などを挙げていますが、これは何のためでしょうか。

栩野 特に強かったインフルエンザ症状を把握することと、その症状が完治するまでの日数を把握するためです。さらに、その他として「何かお気づきのことはありますか?」と尋ね、例として「薬でお腹が痛くなった」を示すことで、有害事象も把握するようにしました。

―― 患者さんだけが記入するのでしょうか。

写真2 医師が記入する欄

―― 患者さんだけが記入するのでしょうか。

栩野 葉書の宛先は、われわれの大阪市立病院になっています。その宛先面の下側に、診療した医師が記入する欄があります(写真2)。ここで患者さんの年齢、性別、インフルエンザの型(A型かB型か)、処方された薬(イナビル、タミフル、リレンザ、ラピアクタ)、その他抗生剤などを記入してもらいます。その上で医師は患者さんあるいは家族に葉書を手渡すのです。

―― 回収率はどれぐらいだったのでしょうか。

栩野 2011/12シーズンは最終的に833枚が配布され、330枚が回収されました。回収率は39.6%でした。1年目の2010/11シーズンが25.8%でしたので、回収率は改善しました。

―― 解析の結果、明らかになたことを教えてください。

栩野 2011/12シーズンは330枚が回収され、そのうち3枚が未記載のものでしたのでこれを除き、327枚のデータを解析対象としました。

 まずインフルエンザの型ですが、A型が284人、B型が40人、A/B型が1人、不明2人でした。注目した抗インフルエンザ薬ですが、オセルタミビルが120例、ザナミビルが67例、ラニナミビルが119例、ペラミビルが9例に処方されていました。薬剤未使用あるいは記載漏れは12件ありました。

―― A型、B型の違いで抗インフルエンザ薬の使われた割合はいかがでしたか。

栩野 全体ではオセルタミビルが38.1%、ザナミビルが21.2%、ラニナミビルが37.8%、ペラミビルが2.9%でした。オセルタミビルとラニナミビルの処方割合がほぼ同じという結果でした。型別では、A型がオセルタミビル108例、ザナミビル57例、ラニナミビル102例、ペラミビル7例でした。B型ではそれぞれ12例、10例、15例、2例でした。

―― 1年目の調査結果と比べて何か変化はあったのでしょうか。

栩野 2010/11シーズンの処方割合は、全体でオセルタミビルが47%、ザナミビルが29%、ラニナミビルが22%、ペラミビルが2%でした。つまり2年目は、ラニナミビルの使用頻度が上昇していることが分かりました。これは、1回完結型の吸入であるという簡便さから使用頻度が高まったと考えられます。また、薬局を中心に各医療施設でも吸入指導を積極的に進めていることも背景にあると思われます。

―― 実際の治療効果はいかがだったのでしょうか。

栩野 受診日朝の体温が37.4℃以下の症例を除外した266例について解析しました。その結果、36.9℃以下に解熱するまでの日数に、薬剤間に有意差はありませんでした。9歳以下と10歳以上で分けてみても、またA型とB型別にみても、4薬に有意差はありませんでした。24時間以上36.9℃以下を維持し続けた日数をみても、薬剤間に有意差はありませんでした(図1)。

図1 薬剤別解熱効果(24時間連続36.9℃以下の未達成割合の推移)(出典;臨牀と研究 90巻4号 2013)

 また、症状回復が一番遅い日を改善日とし、咽頭痛や倦怠感、頭痛などの症状が改善するまでの日数をみたところ、やはり4薬間に有意差はありませんでした。

―― 有害事象や最近注目されている二峰性発熱についてはいかがでしたか。

栩野 有害事象の発現には4薬間に有意差はありませんでした。また、二峰性発熱については、調査の1年目と2年目のデータをもとに解析を行いました。

 二峰性の定義は、いったん解熱した後で、24時間以上あるいは36時間以上経過してからの発熱としました。その上で、二峰性発熱の頻度を検討したところ、24時間以上でも36時間以上においても、薬剤間で有意差は見られませんでした(表1)。

表1 二峰性発熱の頻度

―― 4薬の治療効果、有害事象の発現、二峰性発熱の頻度などには、違いがなかったという結論でよろしいのでしょうか。

栩野 今回の調査では抗インフルエンザ薬間の治療効果に有効性に差は見られませんでした。有害事象、二峰性発熱も同様です。今シーズンへ向けてのメッセージとしては、抗インフルエンザ薬の使用に当たっては、投与経路、投与回数、副作用、耐性ウイルスなどを考慮した上で、選択すべきだということになると思います。

 もちろん、葉書アンケートによる調査という限界はありますが、インフルエンザ治療の実態を把握する上では、簡便さという利点があり、実態調査としての有用な手法になると思います。今後も継続し、インフルエンザの動向を調査し続ける予定でいます。