―― 2群に無作為に割付けて比較検討したのではなく、あくまでも実臨床の現状にそって、それぞれの治療薬の効果を追ったわけですね。

石黒 私たちは、送ってもらった患者用調査票、医師用調査票、さらには検体をもとに解析を行いました。

図3 吸入型抗インフルエンザ薬の解熱効果に関する研究デザイン

―― 2群間の患者背景をみますと、リレンザ群は338例(年齢5〜18歳、平均9.4歳)、イナビル群は314例(5〜16歳、平均9.8歳)となっています。

石黒 結果的に、2群間でバランスのとれた症例数となりました。患者背景をみても、2群間では年齢、男女比、予防接種を受けた患者の割合、ウイルス型の分布(両群とも約7割がA/H3N2型)には著しい差はありませんでした。また、発症から治療開始までの時間は、リレンザ群が18.6時間、イナビル群が20.1時間で、やはり有意差は見られませんでした。

―― 治療効果に2群間で差はあったのでしょうか。

石黒 吸入開始から解熱までに要した時間(解熱時間)をみると、図4のようになりました。全体では中央値が29.2時間でした。リレンザ群では29.5時間、イナビル群では28.8時間で、2群間に有意差はありませんでした。

図4 吸入開始から解熱までに要した時間

―― A型やB型、あるいは年齢の違いで見た場合は、いかがでしたか。

石黒 全体では、A型が中央値26.0時間で、B型の35.5時間に比べて有意に短かいという結果でした(P<0.001)。これは、それぞれの治療群でみても、同じ結果でした。

 また、年齢別でも検討しましたが、年齢が低いほど解熱時間は長くなっていました。例えば、7歳以下の群では中央値が35.5時間で、他の年齢層に比べて有意差が認められました(P<0.001)。

―― 着目された二峰性発熱の方はいかがでしたか。

石黒 まず二峰性発熱の定義ですが、「いったん37.5℃未満に解熱後、24時間以降に再び37.5℃以上に発熱したもの」と定義しました。

 解析の結果、二峰性発熱は全体の5.2%で認められました。年齢別に検討すると、13歳以上が2.7%、10〜12歳が4.0%、8〜9歳が5.9%、7歳以下が7.6%と、年齢が低いほど高率でした。特に小学生以下で目立つことが分かりました。

―― 処方薬別ではいかがでしたか。

石黒 リレンザ群が1.8%、イナビル群が8.9%で、イナビル群で有意に高率でした(P<0.001)。これは、A型症例、B型症例に分けて検討した場合でも同様でした。A型では、リレンザ群が1.4%、イナビル群が7.0%、B型ではリレンザ群が1.9%だったのに対し、イナビル群が12.9%認められました。いずれもイナビル群で有意に高率でした(P=0.005、P=0.003、図5)。

図5 処方薬別にみた二峰性発熱例の発現頻度

―― なぜこのような違いが現れたと考えられますか。

石黒 まず、なぜ二峰性発熱が発現するのかですが、3つの原因が指摘されています。1つはインフルエンザウイルス自体の性状が考えられます。佐久間先生の論文では、抗インフルエンザ薬の治療がなかった場合、かなりの高率で二峰性発熱がみられていました。もともとウイルス自体に二峰性発熱を起こす性質が備わっているという考え方です。

 2つ目はウイルスではなく、宿主側、つまり感染した人間の方に原因があるとする見方です。サイトカインなどの体の反応が二峰性発熱を引き起こしているという考え方です。

 3つ目は、抗インフルエンザ薬を使った場合になりますが、例えば今回、同じ吸入薬であるリレンザとイナビルで違いがありました。これは、投与回数あるいは薬剤そのものの特性に原因があるのではないかという考え方です。

―― リレンザは吸入回数が1日2回、5日間で合計10回です。一方のイナビルは、1回の吸入で済みます。

石黒 リレンザで二峰性発熱の頻度があまり高くなかったのは、吸入回数が多いことにも関係していると考えられます。イナビルは1回の吸入で済むというメリットはありますが、十分吸入できないと二峰性発熱を起こす可能性が高くなるのではないかと推測されるのです。

 私たちは、二峰性発熱に関与する因子についても分析しました。その結果、年齢と抗インフルエンザ薬が影響していたのです。年齢は1歳下がると二峰性発熱を起こす確率が1.19倍高くなり、またイナビルはリレンザに比べて5.80倍高いことが分かりました(それぞれP=0.016、P<0.001)。

―― 今回の研究結果から得られた、インフルエンザ診療へのメッセージは何でしょうか。

石黒 小学生以下のお子さんの場合、吸入が不十分になる可能性があるということです。本番で十分に吸入できないお子さんの場合、二峰性発熱を起こす可能性があるということを念頭に置いた診療が必要になると思います。