H7N9ウイルスの電子顕微鏡写真(国立感染研究所)

 「この冬はインフルエンザH7N9型を警戒しなければならない」と見聞きした方も多いことでしょう。またパンデミックが起こってしまうのでしょうか。

 今年の春、中国で鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスのヒト感染例が相次いで確認されました。つい先日も浙江省で半年ぶりにヒト感染例が見つかりました。これでWHOが確認したヒト感染例は、10月16日現在で136例となりました。このうち45人が死亡しています。感染が確認された事例の中での死亡の割合(致死率)は、33.1%となりました。

 警戒しなければならない理由の1つは、限定的ながらヒトからヒトへの感染事例が確認されているからです。国立感染症研究所が8月30日現在で発表した「鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスによる感染事例に関するリスクアセスメントと対応」によると、「限定的なヒト−ヒト感染が起こっていると指摘されていることから、国内に入国した感染者から家族内などで2次感染が起こりえる」と指摘しています。

 例えば、台湾で確認された感染例は、発病前に仕事で中国の江蘇省蘇州に渡航していました。台湾衛生署は「輸入症例」と位置づけており、渡航先だった中国本土で感染した可能性が高いとの見方を示していたのです(参考記事)。幸い、この感染者から家族らに感染が広がることはありませんでしたが、日本でもこうした「輸入症例」が確認される可能性があるわけです。

 感染源あるいは感染経路が見えにくいことも、警戒する理由になっています。中国では生きたままの鶏などを扱う市場があります。このライブバードマーケット(生鳥市場)から集めた1万件余りの検体を調べたところ、52件からH7N9ウイルスが検出されたのです。さらに、ヒト感染例から検出したウイルスと比較したところ、99%の近似性でした。つまり、ほとんど同じウイルスであることが分かりました。このことから、ほとんどの事例は、生鳥市場で売られている鶏などからウイルスが感染したと考えられています。

 ただ、感染経路を調べていくと、ヒト感染例の中には、生鳥市場との接点が見つからない事例もあります。生鳥市場以外で、家禽類との接触が確認できていない事例もあるのです。感染研では「家禽が主な感染源であるというエビデンスがいくつか報告されているが、結論は得られていない」と指摘しています。

 感染源が分かりにくく、感染経路が見えにくいのは、鳥インフルエンザH7N9型ウイルスが「家禽類などにとって低病原性である」ことに関係があります。ヒトから分離したウイルスを鶏に感染させたところ症状がみられなかったのです。いわゆる不顕性感染です。

 不顕性感染であると何が困るのでしょうか。症状が現れないわけですから、目の前の鶏がH7N9に感染しているのかどうかは、見ただけでは分からないということになります。このため、感染している家禽類を監視することが難しく、ヒトへの散発的な感染をコントロールできないという事態になっているのです。

 中国では感染者の多くが生鳥市場で感染したと考えられることから、市場を閉鎖する対応をとりました。これにより、新たな感染者が激減し、一定の効果があったと考えられています。

 しかし、夏を迎え新たな感染者が確認されない期間が長く続いたことから、こうした対策も解除となり、現状、多くの生鳥市場は再開されたそうです。浙江省で半年ぶりに確認された背景として、生鳥市場の再開によって、ウイルスを持っている家禽類と接触する機会が増えていることが考えられます。

 新潟大学大学院医歯学系国際保健学分野教授の齋藤玲子氏の解説によると、中国の研究者により、H7N9感染の地理的なリスクファクターが分かってきました。

 生鳥市場の密度、気温(15℃付近)、灌漑農地の割合、建築物の割合の4つだそうです。

 すでにみてきたように、生鳥市場の密度が高いとH7N9ウイルスと接触する機会が増えます。また、灌漑農地の割合が高い地域では、用水路などが多くて野鳥も集まりやすく、その結果、野鳥と家禽類とが遭遇する機会も増えると考えられるからです。H7N9ウイルスはアヒルなどの水禽類が持っており、これが家禽類にも広がったとみられています。また、建築物の割合については、都市部で確認された感染者が多いことと関係があります。

 最後に残った気温(15℃付近)ですが、これはH7N9ウイルスが活動性を増すのに適した温度があるということです。振り返ると、中国で確認されたヒト感染例の最初の事例は、発症したのが2月でした。気温の高い夏を迎えるにつれて感染者が少なくなっていったのは、もちろん生鳥市場の閉鎖をはじめとする公衆衛生的な対策が功を奏した結果なのでしょうが、気温が高くなってウイルスの活動性が落ちていったという事情もあるわけです。

 冬を迎え警戒しなければならないのは、H7N9ウイルスの活動性に適した気温の季節となるからと言えます。 

 警戒感を高めなければならない理由もあります。それは、このH7N9ウイルスがヒトに容易に感染するウイルスに近づいていることが分かってきたからです。

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