サンシャインスター薬局(香川県観音寺市)の浦上勇也氏

 吸入抗インフルエンザ薬イナビルのウイルス消失率は、経口薬タミフルとの二重盲検比較試験で、成人において非劣性、小児においてはタミフルより優れることが確認されている。ただし、臨床効果には吸入の良し悪しが大きく影響することが予想される。サンシャインスター薬局(香川県観音寺市)の浦上勇也氏らは、第46回日本薬剤師会学術大会(9月22〜23日、開催地:大阪市)で、小児患者におけるイナビル吸入状況と解熱日数との関係をアンケート調査により検討した結果、吸入を良好に行えた群は吸入不良群に比べて解熱日数が有意に短いという成績が得られたことを明らかにした。確実に吸入するには、吸入前に十分息吐きをすることが重要で、息吐きが不十分であった群では、息吐きを含めて吸入が良好であった群に比べ、解熱日数が有意に長かったという。

 イナビルは投与回数が1回のみ。10歳未満では20mg(1容器)、10歳以上では40mg(2容器)を単回吸入する。それだけに吸入を確実に行えるかどうかは臨床効果に大きく影響すると考えられる。特に小児の場合は吸入不良になりがちだ。吸入指導が大きな鍵を握っているともいえる。

 浦上氏らは、吸入の良否と臨床効果の関係、さらに適切な吸入指導のあり方を検討する目的で、吸入状況、熱の推移などに関する患者アンケート調査を行った。対象は、2013年1月〜3月にタミフルまたはイナビルが処方され、今回の調査に同意が得られたインフルエンザ患者(同薬局では主に小児科患者の処方箋を受け付けている)。

 アンケートでは、タミフル処方例には熱の推移などを回答してもらった。イナビル処方例には吸入状況(患者の希望に応じ、薬局で薬剤師が吸入指導し、その場で吸入してもらった患者の場合は薬剤師が記入)、吸入時の味覚(味を感じたか、どんな味だったか)、熱の推移などについて回答を依頼した。

 吸入状況は基本的に、(1)十分に息を吐いてから吸入器をくわえる、(2)吸入器をくわえ深く吸い込む、(3)苦しくない程度に息止めをする、(4)ゆっくりと息を吐き出す、の4項目で評価。4項目すべてできた場合を吸入良好、それ以外を吸入不良と判定した。

 吸入状況の評価項目としては、さらに吸入時の味覚を加えた。浦上氏によると、イナビル容器中には、ラニナミビル成分20mgのほか、乳糖80mgが含まれている。ラニナミビル成分は苦味、乳糖は甘味。十分吸入できた場合は、いずれも口内に残らないため、ほとんど味を感じない。しかし、うまく吸入できていない場合は、口内に成分が残るため味を感じる。吸入すると、粒子径の小さいラニナミビル成分が先に口内を通り、その後、粒子径の小さい乳糖が通ると考えられることから、甘味を感じる場合は、口内に乳糖が残っているが、ラニナミビル成分はある程度吸入されている可能性が高い。ところが、苦味を感じる場合は、ラニナミビル成分も口内に残っていることになり、吸入状態がかなり悪いと推測される。つまり、無味なら吸入良好、甘味ならやや不良、苦味なら不良と判断できる可能性があるという。

 アンケート用紙は271例に配布し、うち171例(63.1%)から回答(郵送または来局時に持参)が得られた。171例のなかから、受診時体温37.5℃未満、記載不備の患者、あるいは副作用などによる脱落例を除外した145例(平均年齢7.0歳、男性72例、女性73例、全例A型)の回答を解析した。処方薬はタミフル86例、イナビル59例であった。2群の年齢は、タミフル群5.1歳、イナビル群9.8歳で、イナビル群で有意に高かった。

 まず、2群の解熱(37.0℃未満)までの日数を比較すると、タミフル群1.53日、イナビル群1.81日で有意差はなかった。

 イナビル群59例を上記の4項目による吸入状況の良否で分けると、吸入良好が28例(47.5%)、吸入不良が31例(52.5%)だった。この2群の解熱日数を調べると、吸入良好群1.48日、吸入不良群2.10日で、良好群で有意に短かった(P=0.03)。さらに、息吐きだけがうまくできなかった息吐き不良は12例(20.3%)認められ、その解熱日数は2.46日で、吸入良好群に比べて有意に長かった(P=0.004)。

 吸入時の味覚に関しては、味を感じなかった患者が26例(44.1%)、味を感じた患者が33例(55.9%)だった。それぞれの解熱日数は1.62日、1.95日で、味を感じなかった群でやや短い傾向が見られたが、有意差はなかった。「味覚に個人差があることや、苦味の度合いなどの評価が難しいため、吸入時の味覚と吸入評価および臨床効果を結びつけるにはさらなる検討が必要と考えられた」という。

 以上より、浦上氏は「ラニナミビル(イナビル)は1度の吸入で、オセルタミビル(タミフル)と同等の臨床効果が得られるため、インフルエンザ治療の第1選択薬となり得る。しかし、正確な吸入が必要であることから、特に小児においては患者選択および適切な吸入指導が重要である」と結論した。

 小児患者への吸入指導のポイントについて、浦上氏は、まず、患者の目の前で吸入してみせ「強く長く吸う」を理解してもらう必要があるとした。次に「本番前に容器をスライドさせずに患者に吸わせ、吸入を体感してもらう」。「本番では、十分に吸入できるよう、吸入直前に息吐きを確実に行ってもらう」。さらに「イナビルは1回の吸入量が比較的多いため、吸入後にむせることが少なくないことから、吸入前に少量の水を飲んでもらう」。「最後に、コップ1杯の水を用意しておくことで、いつでも口をゆすげる安心感から、リラックスして吸入してくれるようになる」と述べた。