国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センターの高下恵美氏

 わが国では近年、A/H1N1pdm09でタミフルラピアクタ耐性株の検出率が上昇する傾向が認められているが、2012/13年シーズンにおいてもわずかながら上昇傾向が見られたことが分かった。2012/13年シーズンの耐性株は、すべて抗インフルエンザ薬未投与例から検出されたものだった。国立感染症研究所(以下、感染研)と全国地方衛生研究所が共同で行っている、抗インフルエンザ薬耐性株サーベイランスの最近5シーズンのデータ解析より明らかになった。感染研インフルエンザウイルス研究センターの高下恵美氏らが、第54回日本臨床ウイルス学会(6月8〜9日、開催地:倉敷市)で報告した。

 抗インフルエンザ薬としてわが国では主に、ノイラミニダーゼ(NA)阻害薬のリレンザ、タミフル、ラピアクタ、イナビルの4剤が使用されている。厚生労働省の調査によると、2008/09年、2009/10年シーズンには、タミフル、リレンザが1千万人分以上使用され、そのうちの約6割がタミフルだった。2010/11年以降のシーズンは、全体の使用量が大幅に減少し、さらにラピアクタ、イナビルも使用できるようになったが、タミフルが占める割合は約5割で大きな変化は見られていない。タミフルに次いで使用量の多いイナビルは4割前後で推移している。

 抗インフルエンザ薬の使用量は、シーズンによって増減はあるものの、わが国が世界最多レベルであることに変わりはない。わが国には、耐性株の検出状況を迅速に把握し、国内外に向けて情報提供していく役割が求められる。

 そこで、感染研と全国地方衛生研究所による抗インフルエンザ薬耐性株サーベイランスが、2008/09年シーズンから開始された。全国のインフルエンザ定点医療機関約5000施設(小児科約3000施設、内科約2000施設)のうち、約500施設の病原体定点医療機関で検出された臨床検体について、地方衛生研究所が遺伝子解析を実施。検出されたすべての耐性変異株を感染症サーベイランスシステム(NESID)に登録し、そのうちの約5〜10%の株について、感染研で薬剤感受性試験、詳細な遺伝子解析を行っている。

 高下氏らは今回、サーベイランスで得られた2008/09年〜2012/13年の5シーズンにおけるインフルエンザウイルス流行状況、NA阻害薬耐性菌の検出状況を検討した。

 まず、ウイルス流行状況を見ると、2008/09年シーズンより認めれられたH1N1pdm09の検出報告数が、パンデミックを起こした2009/10年シーズンにピークを迎えた。翌2010/11年シーズンには著しく減少し、2011/12年以降の2シーズンではほとんど認められなくなった。2010/11年以降のシーズンではA/H3N2が流行している。B型の流行も少ないながら、ここ3シーズン認められている。

 次に、NA阻害薬耐性ウイルスの検出率を調べると、H1N1pdm09で、タミフル・ラピアクタ耐性株の検出率が、2008/09年シーズン0.5%、2009/10年シーズン1.1%、2010/11年シーズン2.0%と年ごとに増加する傾向が認められた。2011/12年シーズンは、H1N1pdm09の流行がほとんど見られず、解析株は約10株に留まり、耐性株も認められなかった。しかし、2012/13年シーズンでは、やはり解析株が73株と少なかったものの、タミフル・ラピアクタ耐性株が2株(2.7%)認められ、検出率は2010/11年シーズンに比べ、わずかながら上昇した。各シーズンで検出された耐性株はすべて、NA蛋白にH275Y耐性変異を有していた。一方、H1N1pdm09のリレンザ・イナビル耐性株は、5シーズンいずれにおいてもまったく認められなかった。

 患者の年齢を検討すると、H1N1pdm09の感染者では、シーズンが進むに連れて、10歳代の割合が減少し、2009/10年以降のシーズンでは10歳未満の割合が最も高かった。これに対して、H1N1pdm09耐性菌の感染者では、2011/12年シーズンを除くすべてのシーズンにおいて10歳未満が50%以上を占めた。2012/13年シーズンでは全例が10歳未満だった。

 さらに、H1N1pdm09耐性株感染者の抗インフルエンザ薬投与状況を調べると、シーズンが進むに連れ、未投与例が増えていた。その割合は、2010/11年シーズンで約50%、2012/13年シーズンでは100%に及んだ。

 H3N2では、タミフル・ラピアクタ耐性株が2010/11年シーズン、2011/12年シーズンにおいて各1株(0.7%、0.3%)検出された。検出された2株はともにNA蛋白にR292K耐性変異を有していた。そのほかのシーズンでは、2012/13年シーズンを含め、H3N2のタミフル・ラピアクタ耐性株は認められていない。リレンザ・イナビル耐性株は、H3N2においても5シーズンまったく認められなかった。

 B型では、5シーズンすべてで、タミフル・ラピアクタ耐性株、リレンザ・イナビル耐性株のいずれも検出されていない。

 高下氏は「検出された耐性株はいずれも地域への流行につながっていないが、今後も引き続き耐性株の発生状況を注意深く監視していく必要がある」と述べた。