富山大学大学院ウイルス学の白木公康氏

 インフルエンザは、細菌との混合感染によって増悪、重症化することが知られている。細菌が、インフルエンザウイルスの増殖を可能にするトリプシン様プロテアーゼTLP)を産生するためと見られている。富山大学大学院ウイルス学の白木公康氏らは、第54回日本臨床ウイルス学会(6月8〜9日、開催地:倉敷市) で、肺炎球菌、クレブシエラなど、さまざまな細菌がTLP活性を有することを明らかにするとともに、新規経口抗インフルエンザ薬のT-705(承認申請中、ファビピラビル)が、インフルエンザウイルスとTLP活性を有する細菌との混合感染下でも、強い抗インフルエンザ作用を示すと考えられる実験データを報告した。

 インフルエンザウイルスは、トリプシンや細菌性のTLPによってヘマグルチニンが活性化されることで増殖可能になる。TLPを産生する細菌が混合感染すると、細菌性TLPによってインフルエンザウイルスが増殖し、重症化する可能性がある。細菌との混合感染による重症化は臨床で少なからず認められるが、現在のところ重症化阻止に有効な治療法はない。

 T-705は、ウイルスのRNA依存性RNA合成酵素を特異的に阻害するという、これまでにない作用機序を持つ抗インフルエンザ薬。T-705の抗ウイルス作用は、インフルエンザウイルス以外の黄熱病ウイルス、ポリオウイルス、RSウイルス,アレナウイルス,ノロウイルスなどのRNAウイルスにおいても認められている。また、抗インフルエンザウイルス活性は、A型、B型、C型、およびH1N1pdm2009やヒト分離高病原性鳥インフルエンザH5N1ウイルスなど、幅広い型、亜型で確認されている。抗ウイルス作用が強いことも特徴とされる。高力価ウイルスを感染させたマウスの実験で、既存の抗インフルエンザ薬(オセルタミビル、商品名タミフル)に比べ、きわめて良好な生存率が得られている。こうしたことから、細菌との混合感染によるインフルエンザ重症化を阻止する手段として、T-705が有効である可能性が推測された。

 そこで白木氏らは、TLP活性を有する細菌をスクリーニングした。次いで、インフルエンザウイルスとTLP活性を有する細菌との混合感染を想定したin vitroの実験系でT-705の抗ウイルス活性を検討し、タミフルと比較した。

 TLP活性のスクリーニングを53種の細菌株について行ったところ、肺炎球菌、クレブシエラ、黄色ブドウ球菌、緑膿菌、エンテロバクターなどでTLP活性が認められた。次に、歯周病の原因菌として知られるPorphyromonas gingivalisもTLP活性を有することが分かった。したがって、P. gingivalisなどによる歯周病を起こして、口腔内から気道へ常に細菌を嚥下していると考えられる患者も、インフルエンザに罹患した場合に重症化する可能性が高いと考えられた。

 次に、トリプシン存在下でのインフルエンザウイルス増殖に対するT-705、タミフルの影響を、MDCK細胞を用いた50%プラック減少法により評価した。その結果、T-705のインフルエンザウイルス増殖に対する抑制効果は、細胞内外において、タミフルに比べ、約100倍〜約5万倍強いことが明らかとなった。特にT-705によってRNA合成が阻害される細胞内では、インフルエンザウイルスの増殖がほぼ完全に抑制された。

 以上より、白木氏は「市中肺炎や口腔内感染を引き起こすような細菌との混合感染下では重症化が予想されるが、それに対するオセルタミビルの効果は限られると思われる。しかし、T-705は、TLP活性を有する細菌との混合感染下でも、強い抗インフルエンザ活性を発揮することが期待される」と結論した。