仙台厚生病院感染対策部門(ICT)の本田芳宏氏

 高齢者施設に対するアンケート調査で、過去1年間に入所者、職員でインフルエンザが認められた施設はそれぞれ5割、8割、感染性胃腸炎は3割、5割に上ったこと、通常入所者の汚物処理(おむつ交換)で職員が手袋、マスク、ディスポエプロンをすべて使用している施設は26%に留まることなどが分かった。アンケート調査は、仙台厚生病院感染対策部門(ICT)の本田芳宏氏らが、同院と連携する高齢者施設71施設に対して行ったもので、感染対策に関する情報の共有、教育・支援やマニュアルの作成支援などの必要性が示唆された。同氏が第28回日本環境感染学会総会(3月1〜2日、開催地:横浜市)で報告した。

 本田氏は「現在、医療提供の場は急性期病院、療養型病院に留まらず、介護・社会福祉施設から在宅診療まで広がっている。それに伴い、感染対策も地域全体で推進する必要が生じており、感染対策での地域連携が求められている」と指摘。高齢者施設への感染対策支援をいかに行うべきかを検討する目的で、社会福祉施設などを対象に、感染対策の現状に関するアンケート調査を行ったという。

 2012年9月に、同院の連携施設である介護老人保健施設(老健)、特別養護老人ホーム(特養)、療養型病床を有する病院(療養病院)の計71施設にアンケート用紙を送付した。回答は約6割に相当する42施設(老健15施設、特養17施設、療養病院10施設)より得られた。

 アンケートではまず、過去1年間の感染症発症状況を尋ねた。インフルエンザに関しては「入所者感染あり」48%、「職員感染あり」81%、感染性胃腸炎ではそれぞれ31%、50%。疥癬も30%、24%と少なくなかった。結核感染があった施設は入所者、職員とも5%以下だった。

 入所時のMRSA検査やその結果に基づく入所制限については、「検査を依頼する」施設は62%あったが、その結果で「入所制限をする」施設は21%に留まった。本田氏は「おそらく20年ぐらい前、MRSAが大きく社会問題化した時に、検査の結果によって入所制限をするといった取り決めがあったのだと思われるが、だんだん内容が変わり、最近は制限しない施設が増えてきているようだ。ただし、検査そのものにどういう意味があるのかは全然吟味されていない」と述べ、MRSA対策についてより深く理解する必要性を指摘した。

 感染防護策に関して「通常入所者の汚物処理(おむつ交換)における個人防護具は?」という質問に対する回答を見ると、手袋は95%の施設で使用されていたが、その他の使用率はマスク52%、ディスポエプロン38%などとあまり高くなかった。3種すべて使用している施設は26%に留まった。さらに「通常入所者の汚物処理における個人防護具はどんな時に交換するか」(複数回答可)という問いには、62%の施設が「処置ごと」と回答した。処置ごとに交換しているのは主に手袋だった。汚物処理時に手袋、マスク、ディスポエプロンのいずれも使用している施設のほとんどが「処置ごと」と回答していた。「定期的に交換」は47%、「重症患者のみ交換」は19%だった。

 施設での対応に苦慮すると考えられる感染性胃腸炎の診断においては、38%が迅速診断キット、10%が遺伝子検査を利用していた。発症者の隔離解除の時期については、入所者、職員いずれの場合も「症状消失後数日」という回答が約40%で最も多かった。

 職員に対するワクチン接種は、インフルエンザに関してはすべての施設が行っていたが、B型肝炎ワクチンは「全員接種」が約15%、「希望者に接種」約20%で、「接種しない」施設が60%を超えていた。小児感染症のワクチンについては、ほとんどの施設が「接種しない」と回答した。

 疥癬の感染対策として、マニュアルの整備状況を聞くと、環境整備、治療、検査、隔離解除基準に関しては、いずれも5割以上の施設が「マニュアルあり」と回答した。皮膚科医によるサポート体制に関しては、「往診」が40%、「患者送迎」が50%で、「自施設で完結」している施設は26%と少なかった。

 以上の結果から、本田氏は「高齢者施設では、インフルエンザ、感染性胃腸炎、疥癬などが少なからず認められており、感染対策上の情報の共有が必要と考えられた。また、個人防護具の使用など、適切な感染対策が徐々に普及しつつあるが、まだ教育、支援の必要性があるようだ。感染対策マニュアルについても、整備する施設は多いが、内容の吟味を含め、作成支援が必要と思われた」と結論した。

 同院は5年前から年2回、「地域連携院内感染セミナー」を開催しており、毎回多数の高齢者施設が参加している。高齢者施設からは「施設ラウンドを行ってほしい」「施設内研修を支援してほしい」「マニュアルの改訂を支援してほしい」「入所時にチェックすべき感染症の地域での共通化を進めてほしい」などの要請があるという。