那覇市立病院看護部の山城奈奈氏

 沖縄県では、2005年から夏(6〜9月)のインフルエンザ流行がサーベイランスで認められるようになった。夏にはすでに、シーズン前に接種したワクチンの効果は薄れているうえ、夏のインフルエンザに備えられるワクチンはない。このため、抗インフルエンザ薬の予防投与がより大きな意味を持つ。那覇市立病院看護部の山城奈奈氏らは、発症者が続けて2名(累計3名)出た日に、発症者と同室の患者に対する予防投与を開始、さらにその1〜2日後に全職員への予防投与を開始した病棟では、最終患者発症から8日以内にアウトブレイク収束宣言を出すことができたと、第28回日本環境感染学会総会(3月1〜2日、開催地:横浜市)で報告。予防投与を速やかに判断する重要性を示唆した。

 沖縄県における夏のインフルエンザ流行は、冬よりも小規模ではあるが、新型インフルエンザが流行した翌年の2010年夏を除き、毎年繰り返されている。2011年、2012年では、患者数の増加傾向も指摘されている。

 山城氏によると、那覇市立病院でも2012年夏に流行が認められた。A型抗原陽性は週当たり100件前後を数えた。

 アウトブレイクを認めたのは血液内科病棟。7月末に看護師1名が発症したのを皮切りに、4日目に患者1名、5日目に看護師1名が発症した。ここまでに発症した看護師は、家族にも発症者が認められた。7日目にはさらに、患者1名、看護師2名の計3名が発症した。

 累計6名の発症を認めた7日目の時点で、4日目発症患者の同室者4名、および発症看護師が発症前日に担当した化学療法後で好中球減少傾向の患者に対して予防投与を開始した。加えて、ポスター掲示、個人防護具(PPE)設置、面会制限、職員の体温チェック、発熱患者全員への迅速診断キット検査などを始めた。8日目には入院受け入れを停止した。

 しかし、発症者はさらに、8日目に患者1名、9日目に患者1名、看護助手1名の計2名、11日目に患者1名と続いた。発症者が累計10名となった11日目の時点で、事務職員を含む病棟全職員40名に対する予防投与を開始した。また、微熱を認めた職員は出勤停止とすることとした。

 アウトブレイクが収束して、入院受け入れを開始したのは、最初の患者発症から22日目、病棟における最後の患者発症(全職員の予防投与開始)から12日目だった。山城氏は「発症者が続けて出始めた時点で、少し様子を見ようか迷ったところもあり、全職員への予防投与の開始判断が遅れてしまった」と振り返った。

 しかし、その後、インフルエンザ発症が認められた別の2つの病棟では、予防投与の開始を比較的速やかに判断することができた。1つの病棟では、8月半ば過ぎに、職員1名が発症。6日目には患者2名が発症した。この時点(発症者累計3名)で、発症患者の同室者に対して予防投与を開始。さらに、患者2名、職員1名の発症者が出た8日目(累計6名)で、病棟全職員に対する予防投与を開始した。もう1つの病棟では、同じく8月半ば過ぎに職員1名が発症。8日目には患者1名、職員1名の発症者(累計3名)を認めたため、同室者の予防投与を開始した。さらに、患者4名、職員1名の発症者が出た9日目(累計8名)には、病棟全職員に対する予防投与を開始した。その結果、2病棟とも、最後の患者発症から8日以内にアウトブレイク収束宣言を出すことができたという。

 抗インフルエンザ薬の予防投与については、2012年8月に発表された「日本感染症学会提言2012〜インフルエンザ病院内感染対策の考え方について〜(高齢者施設を含めて)」において、一定の基準が示された。まず、病院では「インフルエンザ患者の発生が1つの病室に留まっている場合は同意取得の上、その病室に限定して抗インフルエンザ薬を予防投与」、「病室を越えた発生が見られたら、病棟/フロア全体での予防投与も考慮」する。一方、高齢者施設では「インフルエンザ様の患者が2〜3日以内に2名以上発生し、迅速診断でインフルエンザと診断される患者が1名でも発生したら、施設や入所者の実情に応じて同意取得を心がけたうえで、フロア全体における抗インフルエンザ薬予防投与の開始を前向きに考慮する」と記載されている。

 山城氏は「流行の予測が難しいうえ、ワクチンの効果が低減している夏季流行の感染対策は困難で、アウトブレイクを見た病棟では予防投与開始のタイミングが遅れた。今後は、『提言2012』に準じて、予防投与を早期から積極的に行い、被害を最小限に留めるようにしたい」と述べた。