沖縄県立中部病院感染症内科の高山義浩氏

 沖縄県で近年、夏のインフルエンザ流行がほぼ毎年続いている。沖縄県立中部病院感染症内科の高山義浩氏らは、沖縄県における夏(6〜9月)の流行の実態や特徴を調べた。その結果、患者数は冬(12〜3月)に比べると少ないものの、最近規模拡大の傾向にあること、成人、特に高齢者の割合が冬より高く、しかもワクチンがないこともあり、院内感染対策上でも大きな問題になっていることが分かった。同氏が第28回日本環境感染学会総会(3月1〜2日、開催地:横浜市)で報告した。夏の流行の原因については、夏にインフルエンザ流行が見られる東アジアからの旅行者の増加が影響している可能性も考えられるようだ。

 高山氏によると、沖縄県における夏の流行は、2005年に初めてサーベイランスで捉えられた。以後、冬に比べると小規模ながら、2009年夏まで毎年認められた。新型インフルエンザが流行した2009/10年冬を経た2010年夏には「なぜか一旦消失した」。しかし、2011年夏に再来し、2012年夏は前年より規模拡大の傾向が認められた。

 2012年夏における沖縄県の定点当たり患者数は218.3人。2011/12年冬の288.0人のおよそ4分の3に相当した。年齢別に見ると、2011/12年冬は14歳以下が58%、15〜59歳が35%、60歳以上が7%と、小児が圧倒的に多かったのに対して、2012年夏はそれぞれ36%、47%、17%と、成人の増加が目立った。特に60歳以上の割合は冬の2倍以上に及んだ。

 高山氏らは、沖縄県立中部病院での患者数も調べてみた。すると、2012年夏に外来受診した患者は約500人で、2011/12年冬とほぼ同等だった。しかし、院内発症患者は15人、スタッフ発症者は57人を数え、2011/12年冬に比べそれぞれ2倍、3倍に増えた。院内感染が増加した原因について、高山氏は「夏の流行が冬に比して成人に偏っていたことがまず考えられる。また、利用できるワクチンがないため、曝露機会の多い医療関係者が発症しやすい状況になっていた可能性もある」と分析した。

 なぜ、沖縄県では近年、夏の流行が繰り返されるのか――。高山氏によると、夏の流行が始まった2005年頃は、東アジアから沖縄に訪れる旅行者が増え始めた時期と一致する。その後、旅行者数はほぼ右肩上がりで増えた。2011年には、台湾からの約11万3000人、香港からの約5万1000人、中国本土からの約3万3000人を合わせ、約20万人に達した。これらの地域(中国本土は華南地方)はいずれも夏季のインフルエンザ流行が認められている。また、分子疫学的に、沖縄と台湾のウイルスで相同性が認められたとする報告もある。

 こうした状況から、高山氏は「インフルエンザは東南アジアで通年で流行しながら、初夏から徐々に北上し、中国の華南地方へと拡大する。冬になると、これらの地域と交流が活発な沖縄に、東南アジアや中国など(一部は沖縄そのもの)でくすぶっていたウイルスが持ち込まれ、夏の流行へと発展するのではないか」との仮説を示した。さらに「沖縄でも近年、エアコンが急速に普及している。エアコンによる閉めきった乾燥寒冷環境が夏の職場に増えていることも後押ししていると思われる。実際に、秋の訪れとともにエアコンの使用率が低下すると、流行は沈静化する。夏は学校が休みであるため、子どもの間では感染拡大しにくいのだろう」とも付け加えた。

 沖縄県における夏の流行が明確になったことを受け、高山氏は「県では、夏の流行についての注意喚起を県民および医療関係者に徹底する必要がある。院内感染対策についても、現時点では使用できるワクチンがないため、より厳格な対策が求められよう。夏の流行に備えるワクチンの開発にも期待したい」と訴えた。さらに、国際的な取り組みとして「沖縄県への侵入経路を含めた、通年の東アジアにおけるインフルエンザ流行動態について情報交換しながら、東アジア全体の防疫強化につなげていければ」とも語った。

 2012年夏には、鹿児島などでも夏の流行が確認されている。夏のインフルエンザ流行が日本全体に広がる前兆なのかもしれない。