インフルエンザ流行シーズンに、マスクを着用する目的は何でしょうか。自分を感染から守るためであれば、N95などに代表されるレスピレーターの着用が必要となります。一般的なマスクは、咳やくしゃみなどの症状のある人が着用して、ほかの人に感染を広げないために使うことを目的としています。ただし、手洗いとマスク装着の複合的な介入試験では有意なインフルエンザ予防効果が認められています。自分を感染から守るためのマスクのエビデンスを中心に、北里大学医学部公衆衛生学准教授の和田耕治氏に解説していただきました。

北里大学医学部公衆衛生学准教授の和田耕治氏

 健康な人が外出時にマスクをすることでインフルエンザの感染を予防できる効果があるかということについては、十分なエビデンスがありません。

 一般の人が感染者と接することは日常生活においては「まれ」です。満員電車のような不特定多数がいるような場では念のためマスクをするという選択肢もあるのかもしれませんが、マスクと顔の間から相当の空気がフィルターを通さず入ってくるため過信してはなりません。そのため、マスク装着のキーワードは「めりはり」をつけて装着です。つまり感染者と接する可能性がある場合や、不特定多数の人がいて咳をするような人がいる際に念のためするという程度でよいです。

 日本では諸外国と比較すると、自分を感染から守るためにマスクをするという習慣は受け入れられているようです。では、どのくらいの人が外出時にマスクをするのでしょう。

 筆者らの調査では20歳から69歳の3129人に質問票調査を行ったところ、「よくする」と回答した人が15%、「時々する」と回答した人が23%でした1)。この原稿は、ある市の公共図書館で1月の第2週というそろそろインフルエンザの流行が始まったころに書いていますが、周りを見渡すとマスクを装着している方は10%でした。

マスクをする人としない人の予防行動の差

 ではマスクをすると回答した先ほどの15%と23%を合わせた38%の方と、しない方をその他のインフルエンザの感染予防のための行動をするかしないかを比較検討してみました。

 当たり前の結果のように思われるかもしれませんが、流行時の外出時にマスクをする方は、手洗いをする、人混みをできるだけ避ける、感染した人にはなるべく近づかない、睡眠時間を確保している、うがいをする、そしてインフルエンザワクチンを接種しているといったインフルエンザの予防策をしている人が有意に高かったのです1)

 2009年の「新型インフルエンザ」の流行の前後に、マスク装着によるインフルエンザ予防の介入研究がいくつか行われました。介入の場は、大学生の寮や家族内感染といった一般の人においてやや感染リスクが高くなる場です。これらの研究で一番課題になったことは、介入群におけるマスク装着のコンプライアンスです2)〜4)

 マスクを装着して気づくことは、マスクが顔に接する異物だという点です。そのため特にマスクをする習慣のない国などでは、マスク装着の介入群では、どの程度マスクを継続していたかが十分に把握できないため、研究の結果について解釈が難しくなることがままあります。

 これらの研究において分かったことは、マスク装着単独では有意なインフルエンザ予防の効果は認められませんでしたが、手洗いとマスク装着の複合的な介入では有意な予防効果が認められました。

 先ほどのわれわれの研究は観察研究ですが、マスクを外出時に装着している人は、なにもしていない人よりも様々な感染予防のための行動をしていることから、最終的にはある程度予防効果が得られているのではないかなと思ったりもします。

 マスクを外出時にしているような人は、健康意識が高く、おそらく予防行動の普及についてその地域や仲間の間でリーダー的な存在なのかもしれません。全員が外出時にマスクをするような事態は2009年の新型インフルエンザの流行の際にもみられましたが、ある意味異常な光景でそうしたことを目指しているわけではありません。しかし、外出時にマスクをされている方は、公衆衛生的な観点からみると健康の介入を行う際には貴重な人的資源にも思えます。

 人の行動を変えることは難しいです。行動変容のために行政やテレビなどによって啓発などが行われていますが、近年はソーシャルメディアなどの発達によっても分かってきたように、知らない人からよりも知っている人から言われる方が行動を変える影響が大きいようです。外出時にマスクをされている方々は、周囲に予防対策を広げていく潜在力を持っているとも言えると思います。


■参考文献
1)Wada K, Ezoe-Oka K, Smith DR. Wearing Face Masks in Public During the Influenza Season May Reflect Other Positive Hygiene Practices in Japan. BMC Public Health 12;1065,2012
2)Aiello, AE et al.Mask use, hand hygiene, and seasonal influenza-like illness among young adults: a randomized intervention trial. J Infect Dis 201;491-8,2010
3)Cowling BJ et al. Facemasks and hand hygiene to prevent influenza transmission in households: a cluster randomized trial. Ann Intern Med 151;437-46,2009
4)Larson EL et al. Impact of non-pharmaceutical interventions on URIs and influenza in crowded, urban households.
Public Health Reports 125;178,2010