2010年に第4のノイラミニダーゼ(NA)阻害薬として登場したイナビルは、一度の吸入で治療が完結することから、服薬の利便性、コンプライアンスの向上が期待されている。その一方で、医師や薬剤師らの指示通りに吸入できたかどうかが治療効果に影響するとの指摘もある。外房こどもクリニックの黒木春郎氏らは、2011/12シーズンから提供されているラニナミビル吸入確認用笛を用い、その成功率とイナビルの吸入成功率の関係について検討を行った。同時に吸入確認用の成功例における臨床効果を検討、これらの成果を「臨床と研究」(2012;89[11];1606-10)に発表した。

外房こどもクリニックの黒木春郎氏

―― イナビルは、一度の吸入で治療が完結するので、服薬の簡便性、コンプライアンスの向上が期待されるわけですが、その反面、特に小さな子どもでは吸入できるか不安との声も聞きます。

黒木 イナビルは一度の吸入で治療が完結するので、非常に簡便です。ただ、特に低年齢児においては、1回の吸入を失敗したらどうしたらいいのかと心配する声がありました。そこで事前に吸入の可否を確認する目的で、2011/12シーズンからラニナミビル吸入確認用笛(以下、吸入確認用。図1)が提供されるようになりました。

―― 今回、先生が臨床と研究に発表された論文では、まず吸入確認用の有用性を検討されていますが、吸入確認用について少し教えてください。

黒木 吸入確認用は、実際の製剤であるイナビル吸入粉末剤(以下、イナビル)を吸入できる吸入力があるかどうかを判断する笛です。これは、実際の製品よりも強く吸わないと、音が鳴らない設計になっていますので、音が鳴るとイナビルを吸入する力が十分あるということです。しかし、この吸入確認用の成功率とイナビルの成功率の関係については検討されていませんでしたので、今回、4歳から9歳の小児を対象に検討しました。

図1 イナビルの吸入確認用笛

―― 詳細をお話ください。

黒木 まず、吸入確認用の吸入成功率とイナビルの吸入成功率の関係ですが、2011年9月から2012年3月の間に、外房こどもクリニックを受診した4〜9歳の232例の小児を対象としました。232例の内訳は、インフルエンザウイルスの感染症で受診した小児が148例、それ以外の疾患で受診した84例でした。

 また、吸入確認用の成功例における臨床効果の検討は、2012年1月から3月に受診した4〜9歳の17例を対象にしました。

 吸入確認用の成功率とイナビルの吸入成功率の検討では、性別、体重、吸入確認用の成功率(音が鳴った場合を成功)、イナビルの吸入成功率(使用説明書に従って吸入できた場合を成功)を調査しました。

 イナビルの臨床効果の検討では、性別、インフルエンザウイルスの型、インフルエンザ発症からイナビル吸入までの時間、来院時の体温、来院時のインフルエンザ症状の程度(頭痛、筋肉/関節痛、疲労感、悪寒/発汗、鼻症状、喉の痛み、咳の7項目を「なし」[0点]〜「高度」[3点]の4段階で評価)、インフルエンザワクチン接種歴、合併症、解熱時間(イナビル吸入から37.4℃以下に解熱した時間)、副作用の有無を調査しました。

―― 吸入確認用の成功率は、どのような結果となったのでしょうか。

黒木 前提となる患者背景ですが、性別は男性が113例(48.7%)、女性が119例(51.3%)でした。年齢は、4歳が30例(12.9%)、5歳が66例(28.4%)、6歳以上が136例(58.7%)でした。体重は、17.0kg未満が26例(11.2%)、20.0kg以上が136例(58.7%)でした。

 吸入確認用の成功率ですが、全体(232例)では84.1%でした。年齢別では、4歳児は63.3%、5歳児は78.8%でしたが、6歳児以上では85〜100%と高い成功率でした。

 インフルエンザウイルスの感染症で受診した148例では、成功率が83.8%でした。一方、インフルエンザ以外の疾患で受診した84例では84.5%で、インフルエンザウイルス感染患者に比べると、若干ですがやや高い成功率でした。

 そこで、インフルエンザウイルス感染患者における吸入確認用の成功率を年齢別に見てみると、4歳児は71.4%、5歳児は76.1%、6歳児は81.8%、7歳児は88.5%、8歳児以上では100%と高い成功率でした。

―― 吸入確認用が成功した患児におけるイナビルの吸入成功率はいかがでしたか。

黒木 インフルエンザウイルス感染患者で吸入確認用が成功した124例では99.2%と高率でした。吸入確認用が成功したにもかかわらず、イナビルの吸入が失敗したのは、4歳の男児(体重15.2kg)で、イナビルを吸入する際に吹き出してしまった1例のみでした。

 インフルエンザウイルス感染患者において、年齢別に吸入確認用の成功率とイナビルの吸入成功率をまとめると図2のようになります。

図2 「イナビル吸入確認用」および「イナビルの吸入」の成功率(4〜9歳小児インフルエンザウイルス感染症患者148例)

―― 図2をみますと、吸入確認用の成功率は、低年齢ほど低くなっていますが、吸入確認用が成功した例では、イナビルの吸入成功率は5歳以上で100%となっています。5歳が1つの目安になるのでしょうか。

黒木 そですね、5歳以上の症例では、吸入確認用が成功すれば、ほぼ100%がイナビルを吸入できると考えられましたので、5歳以上であればほぼイナビルを吸入できるのではないかと思います。

低年齢児でも臨床効果
―― 2つ目として、吸入確認用の成功例における臨床効果についても検討なさっています。

黒木 吸入確認用が成功し、体温測定などの記録をとることに協力が得られた9歳以下の小児17例について、解熱時間を調べました。

 その結果が図3ですが、解熱時間の中央値は、A香港型(H3N2)で21.5時間、B型で66.0時間でした。イナビルの治験で9歳以下を対象とした臨床試験の成績は、A香港型が34.5時間、B型が59.0時間でしたので、今回の検討結果は同様の成績と考えられました。

図3 「イナビル吸入確認用」の成功例17例における解熱時間 (ウイルス型別)

 承認前の臨床試験の際は、吸入確認用はなかったわけですが、医師やその他の医療従事者がイナビル吸入前に被験者に対して、吸入容器の使用方法を説明し丁寧に吸入指導していました。また、吸入ごとに確実に吸入できたかどうかを確認していました。

 今回、吸入確認用が成功した症例で臨床効果が確認されたわけで、この吸入確認用を用いることで、低年齢児でもイナビルによる吸入治療が十分可能であることが明らかになりました。

 現在、NA阻害薬はイナビルを含め4種類ありますが、個々の薬の特徴と患者の特性を考慮して、選択し使用することが重要だと思います。