授乳婦への薬物投与は、母乳を介した乳児への影響が懸念されるところだ。インフルエンザに感染し、イナビル(一般名:ラニナミビルオクタン酸エステル)を投与された授乳婦の3例について母乳中の薬物濃度を測定したところ、吸入後1〜46時間の母乳において3例とも検出感度以下であったことが報告された。11月に沖縄で開催された第33回日本臨床薬理学会で、JA静岡厚生連静岡厚生病院の田中敏博氏らが成果を発表し、授乳婦に対するイナビル投与の安全性が確認されたと結論付けた。

 イナビルは、4剤目となるノイラミニダーゼ阻害薬で、吸入剤としてはリレンザ(一般名:ザナミビル)に次ぐ2番目の製剤。同剤は、プロドラッグ(LO)であり、吸入後に加水分解によって活性代謝物(LA)に変換される。この活性代謝物が長時間にわたって、ウイルスの増殖部位である気道や肺に貯留してウイルスの増殖を抑制する。一度の吸入で治療が完結するという特徴がある。

 田中氏らは、LO(40mg)を吸入した授乳婦の3例について、吸入後に定期的に搾乳した母乳をもとに、薬物濃度を測定した。

 症例は以下の3例。
 

◆症例1:33歳。12カ月の第三子の授乳中に、A型インフルエンザと診断された第二子と同じ日に発熱し、インフルエンザと診断されLOを吸入した。

◆症例2:37歳。7カ月の第三子の授乳中に、第一子から4日遅れて発熱し、インフルエンザと診断されLOを吸入した。

◆症例3:28歳。10カ月になる児の授乳中に、インフルエンザと診断された7歳の長女から5日遅れて発熱した。その日の迅速診断検査では陰性だったが、臨床的にインフルエンザと診断されLOを吸入した。


 それぞれの症例に対して、LO吸入後に搾乳した母乳を自宅で冷凍保存してもらい、症状が回復した後に来院し持参するよう依頼した。母乳の検体は前処理後、LOおよびLAの濃度を測定した。

 その結果、各症例における測定結果は、症例1(搾乳時間;吸入後から1、2、3.5、4.5、5.5、6.5時間)、症例2(搾乳時間;吸入後から1、2、4、8、19、24時間)、症例3(搾乳時間;吸入後から7、22、31、46時間)のいずれにおいても、LOおよびLAの濃度は、それぞれ検出限界未満(1ng/mL)だった。

 これらの結果から田中氏らは、「インフルエンザに感染した授乳婦に対するイナビルの投与は、母乳に薬剤が移行して乳児に影響が及ぶという点においては、安全であると考えられる」とまとめた。