インフルエンザへの曝露後予防投与の推奨を柱とする日本感染症学会の提言を機に、薬剤耐性ウイルスの誤解が存在することが露見された。臨床現場での誤解を解くために、日本臨床内科医会インフルエンザ研究班班長の河合直樹氏に、耐性ウイルスの実像を解説していただいた。

日本臨床内科医会インフルエンザ研究班班長の河合直樹氏

―― Aソ連型タミフル(一般名オセルタミビル)耐性ウイルスはその後どうなったのでしょうか。

河合 2008/09年シーズンに、ほぼ100%のソ連型(A/H1N1)インフルエンザウイルスがタミフルに耐性化していました。このウイルスにはH275Y変異*が認められました。

 日本臨床内科医会のインフルエンザ研究班は、H275Y変異が検出されたAソ連型タミフル耐性ウイルスの感染者において、タミフル治療が有効なのかどうかを明らかにするため、2007/08年シーズンと2008/09年シーズンの2シーズンの73例について検討しました。

 その結果、タミフルの感受性は、変異群では200分の1に低下していたことが分かりました。また、臨床的には年齢別でみると、特に15歳以下の小児においてタミフルの有効性が低下していました。

 これまでのデータを総合すると、A型ではタミフルの感受性は、耐性化によって200分の1あるいは300分の1程度に低下したとしても、タミフル投与後の血中濃度はウイルスの50%阻害濃度(IC50)を上回ると考えられます。ただし、小児では過去の感染歴が少なく、ワクチン接種歴も乏しいために、インフルエンザに対する免疫力がまだ十分に備わっていないと考えられます。そのため、成人の場合よりも耐性化の影響を受けやすく、タミフルの効果が低くなった可能性があります。

 一方、A型インフルエンザ亜型に対するタミフル投与開始から解熱までの平均解熱時間をシーズンごとに追った検討では、2008/09年シーズンは49時間と延長していましたが、これを除けば、どの亜型においても、平均解熱時間は23〜33時間におさまっていました。また、Aソ連型タミフル耐性ウイルスが流行したのは、日本国内では2008/09年の1シーズンだけでした。2009/10年シーズン以降は、完全に消失しているのです。

―― ノイラミニダーゼ(NA)阻害薬は4薬剤とも、耐性化は認められていないと考えていいのでしょうか。

河合 インフルエンザ研究班では、2010年から2015年までの5シーズンにわたって、NA阻害薬4薬剤に対する感受性をウイルスの型・亜型別に解析する研究に取り組んでいます。NA阻害薬に対する感受性については、今後もその推移を注意深く観察していく必要があるからです。

 全国の医療機関 31施設で迅速診断キット陽性と判定されたインフルエンザ患者のウイルス臨床分離株を用いて、4種のNA阻害薬に対する感受性を調べたところ、タミフルをはじめ、リレンザ(一般名ザナミビル)、ラピアクタ(一般名ペラミビル)、イナビル(一般名ラニナミビル)の4薬剤について、現在のところ耐性化の傾向は認められないという結果が得られています。

 2011/12年シーズンの結果はつい最近まとまったのですが、H1N1pmd09は流行が見られず、分離株はゼロでした。つまり、H275Y変異株もありませんでした。また、H3N2型やB型においては、若干のIC50値の変動が見られたものの、「現在のところ、NA阻害薬4薬剤に対する耐性化の傾向は認められない」との結論に至っています。

*NA遺伝子の275番目のヒスチジン(H)がチロシン(Y)に変異したもの

(インタビュー撮影:上野 英和)

■インタビューの詳細は日経メディカルアペンディックス(2013年1月号)に掲載予定です。