インフルエンザ治療は、早期診断・早期治療が基本とされる中で、現在4種類のノイラミニダーゼ阻害薬が使用できるようになり、治療の選択肢が広がっている。こうした中、薬剤耐性ウイルスの流行に対する懸念について、博多駅前かしわぎクリニック理事長の柏木征三郎氏に話を聞いた。

――2007/08年シーズンにノルウェーを発端にAソ連型タミフル耐性ウイルスが流行しましたが、同国ではほとんどタミフルが使われていなかった点が注目されました。

柏木 薬剤耐性というと、われわれはMRSAなどの耐性菌をイメージしがちで、この場合は薬剤を使うことによって耐性化が起こると考えるのが一般的です。ところが、インフルエンザウイルスでは、自然発生的にも耐性ウイルスが出現することが分かりました。

 2007/08年に、タミフルに耐性を示すAソ連型ウイルスが出現し、フィンランドやノルウェーなどの北欧の国々で流行しました。しかし、これらの国ではタミフルをほとんど使用していなかったことから、薬剤使用によって生じた耐性ウイルスではなく、自然発生的なものであったと考えられています。

 一方、薬剤使用による耐性ウイルスの出現についてはどうかというと、疫学的にみれば少しは起こっていますが、これまで流行には至っていません。日本では、2001年からタミフルを使用しており、タミフルの約7割を日本で使用している状況にありますが、タミフル耐性ウイルスはこれまでほとんど出ていないのが現状です。

――耐性ウイルスの病原性、感染力という面ではいかがでしょうか。

柏木 タミフル耐性ウイルスが出現した場合、その病原性や感染力などが高まると臨床的には問題となります。しかし、これまでそうした報告はありません。

 Aソ連型タミフル耐性ウイルスは、日本においても2008/09年シーズンに流行しました。このときに、日本臨床内科医会では、タミフルを処方した場合の解熱時間について検討したのです。すると、15歳以下の患者ではタミフルの効きが少し悪く、解熱時間がリレンザよりも長くなったのですが、15歳以上の患者ではリレンザとほとんど変わりませんでした。つまり、タミフル耐性ウイルスといっても、タミフルがまったく効かないわけではなく、他の薬剤には感受性を示し、感染力もむしろ低かったのです。ですから、治療に難儀するということもなかったわけです。その後、Aソ連型タミフル耐性ウイルスは世界的に姿を消し、日本でも1シーズンだけで消失しました。

 タミフル耐性ウイルスが流行していない現在、耐性を懸念してタミフルの使用を控える必要はないでしょう。ただし、インフルエンザウイルスは、常に変異しているのが特徴です。今のところは問題ないといっても、今後については注意深く見守っていく必要があります。

 インフルエンザ感染で一番問題となるのは高齢の患者です。インフルエンザ肺炎を起こしたり、体力が低下して持病が悪化したりすることが少なくありません。まずは、ワクチンで感染を予防するのが大切です。

 2012年8月、日本感染症学会は暴露後予防と言う考え方を示し、院内・施設内でインフルエンザ感染が起きた場合には、積極的にタミフルやリレンザの予防投与をすべきとの提言を行いました。

 高齢者の場合は吸入が難しい場合が多く、吸入指導を行うのも大変ですから、内服薬のタミフルが主体となるでしょう。耐性化を懸念してタミフルの使用を控える必要はありません。