九州大学先端医療イノベーションセンター臨床試験部門の池松秀之氏

 2010/11年シーズン、2011/12年シーズンに、全国の医療機関31施設で迅速診断キット陽性と判定されたインフルエンザ患者のウイルス臨床分離株を用いて、4種のノイラミニダーゼ(NA)阻害薬に対する感受性を調べた結果、いずれのNA阻害薬でも耐性化の傾向は認められなかった。九州大学先端医療イノベーションセンター臨床試験部門の池松秀之氏が、日本化学療法学会西日本支部総会/日本感染症学会中日本・西日本地方会学術集会(11月5〜7日、開催地:福岡市)で報告した。

 2001年から使用され始めたNA阻害薬のタミフルは、先行の抗インフルエンザ薬であるM2蛋白阻害薬シンメトレルに比べ、耐性化しにくいと予想されていた。しかし、これまでに世界各地で散発的に耐性株が認められている。

 わが国でも2008/09年シーズンのH1N1ソ連型では、前シーズンにはほとんど検出されなかったH275Y変異耐性株がほぼ100%を占めた。日本臨床内科医会の検討においても、タミフルに対する感受性は2007/08年シーズンまでは良好だったが、2008/09年シーズンはIC50値が前シーズンの約200倍に上昇し、遺伝子検査を行った49例全例でH275Y変異株が認められた。

 タミフル以外のNA阻害薬のうち、リレンザやイナビルでは耐性化はまれと見られている。しかし、2010年1月に保険適用となったラピアクタでは、すでにH275Y変異株における感受性低下が報告されている。

 こうした状況から、NA阻害薬に対する感受性については、今後もその推移を注意深く観察していく必要があると言われている。池松氏らは、2010年から2015年までの5シーズンにわたって、NA阻害薬4薬に対する感受性をウイルスの型・亜型別に解析する研究を進めている。今回は、2010/11年シーズン(11月〜4月)と2011/12年シーズン(同)に、全国の医療機関31施設で迅速診断キットによって陽性と判定されたインフルエンザ患者の治療前分離株について検討した結果を明らかにした。

 分離株数は、2010/11年が269株、2011/12年が325株。ウイルス型・亜型は、2010/11年でA/H1N1pmd09が68.8%、A/H3N2が20.1%、B型が11.2%、2011/12年でA/H3N2が87.0%、B型が13.0%だった。ウイルス型・亜型別に各NA阻害薬のIC50値を検討したところ、A/H1N1pmd09(2010/11年のみ)では、タミフルで著しく高いIC50値(50nM以上)を示した分離株が2株(1.1%)認められ、この2株はラピアクタでも高いIC50値を示し、いずれもH275Y変異株だった。しかし、その他のほとんどの分離株は4薬で50nMを下回った。A/H3N2では、4薬とも、IC50値が2010/11年よりも2011/12年でやや高い傾向が見られたが、両シーズン、4薬とも、IC50値が50nM以上を示した株はまったく認められなかった。B型では逆に、4薬とも、IC50値が2010/11年よりも2011/12年で低い傾向だったが、両シーズン、4薬とも、IC50値が50nM以上を示した株はまったく認められなかった。

 2010/11年から2011/12年にかけてのIC50幾何平均値の変化を検討すると、A/H3N2ではリレンザ、ラピアクタにおいて有意な上昇が見られたが、上昇率は「ごくわずかであり、薬効に影響があるとは考えられない変化だった」(池松氏)。B型においては、IC50幾何平均値は4薬とも2011/12年で有意に低下した。「A/H3N2と同じく、非常に軽微な変化で、理論的には薬剤の効果に影響するとは考えられないが、臨床的な検討が必要だ」とした。さらに、2011/12年に分離されたB型のビクトリア株(26株)、山形株(16株)で4薬のIC50値を比較すると、山形株でやや低値を示した。特にタミフルのIC50幾何平均値は、山形株がビクトリア株に比べて約30%も低かった。この違いについても臨床的な影響を検討していく必要性があると述べた。

 以上より、池松氏は「全体として、現在のところ、NA阻害薬4薬に対する耐性化の傾向は認められない」と結論した。